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zoom RSS 泉之国のたぬき娘 五

<<   作成日時 : 2010/05/29 20:17   >>

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「ご、ごめんね。死んでると思ってたから、びっくりして……」

お陽は、頭を容赦なく踏んづけたことを謝りながら、少年に水筒を手渡しました。
少年は何も答えず、水筒を開けて口をつけます。

(怒ってるのかなあ)

お陽は、少年の態度にしゅんとなりました。
悪いのはこっちなのだから、無視されても文句は言えない……と思いつつ、やはり悲しいものは悲しいのです。

そんなお陽の胸の内を知ってか知らずか、少年は水筒の中身をあっという間に飲み干し、濡れた口を手の甲でぬぐうと、荒い呼吸を繰り返しました。
飲み干した後も、何も言ってきません。

(……やっぱり、怒ってるのかなあ)

お陽は少年の顔をじっと見つめました。
表情を見る限り、怒っているようには見えません。
ですが、内心はどうなのやら。感情を押し殺すのが上手なだけかもしれません。
考えているうちに、お陽の気持ちはどんどん暗く沈んでいきました。

「……ありがとうございました」

と、そこでようやく呼吸の整った少年が、かすれた声を上げました。

「あ、あのさ。怒ってる……?」

お陽は、おそるおそる尋ねてみました。

「……何がですか?」

少年は不思議そうな表情を浮かべ、お陽を見つめ返すばかりです。

「その、頭踏んづけたから……怒ってるかな、って」

お陽は気まずさから、自分の指先に視線を落としていました。

「そうなんですか。気付きませんでしたよ」
「え、ええっ!?」

少年の返答に、お陽は目を真ん丸くしました。
あれだけ頭を踏んづけられて気付かないとは、何という鈍さでしょうか。

「まあ、そういうわけですから。あまり気にしないで下さい」

少年は穏やかそうな笑みを浮かべ、水筒を返してよこしました。

(良かった〜、怒ってなかった!)

お陽はほっとして笑い返しながら、受け取った水筒を荷物にしまいこみました。

……さて、これからどうしたものでしょうか。
そう思ったのは少年も同じだったようです。
沈黙の中に、どこかでさえずる鳥の声が甲高く響きました。

お陽は口をつぐんで考え込みました。
相手はたった今出会ったばかりの、顔見知り以前の少年です。
旅の目的もあることですし、さっさと出発してしまった方が良いでしょう。

「あ、この先に家があって、あたしのおとっつぁんとおっかさんがいるから、何か困ってるなら頼んでみなよ。じゃあね」

お陽は立ち上がって荷物を背負い、少年に短く別れを告げました。

「あれ、家に帰らないんですか?」

少年はきょとんとしています。

「うん。あたし、今から山を二つ越えて、誠城寺に行くところだから」
「お寺に……お墓参りか何かで?」
「ううん。名前をもらうの」
「尼さんにでもなるつもりですか」
「違うよ、あたしは――」


そこまで口にしてから、お陽は、旅仕度をしながら母親に言われたことを思い出しました。

『いいかい、狸族だってことは、黙っておくんだよ。しっぽも人に見られないようにしな。化けだぬきと間違えられて、殺された奴もいるからね』

(いけない、ごまかさなきゃ!)

「何ていうか……習わしだって聞いたよ」
「変わった習わしですね」

お陽のごまかしに、少年は疑う様子もなく素直にうなずいています。

「その寺まで、もしかして一人で行くつもりですか?」
「うん」
「女の子が一人で山を越えるのは、感心しませんね」
「そう?」
「道中、何かと危険ですよ。最近は追いはぎも増えましたし……」

何やら思案をした後、少年は、ぽんと手を打ちました。

「そうだ、水をもらったお礼に、お寺まで送って行きましょう」
「ええっ、そんな、いいよ」

少年の突然の申し出に、お陽は手を前に出し、首を横に振りました。

「女の子一人で行くより、道中の危険は減ると思いますよ」
「だ、大丈夫だよ」

お陽は直感しました。
もしやこれが、父親の言っていた「女というだけでやたらと親切にしてくる男」ではないのでしょうか。
それならば、一緒にいるのは危険極まりないことです。

「遠慮はいりませんよ、お礼をしたいだけですから」
「い、いい。一人で行けるってば」

後ずさりながら、父親の言葉を思い返します。
確か父親は、そういう男に出くわした時、こうしろと言っていたはずです。

(ええと……ええと……そうだ!)

「本当に大丈夫だから! ありがとう! じゃ!」

そう言い捨てて、お陽は少年の前から駆け出しました。
「そういうやつにはついて行くな。お礼だけ言って、あとは近寄るんじゃあないぞ」という父親の言いつけを守っての行動でした。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
こ、これが「女というだけでやたらと親切にしてくる男」だったのか!
って、違う!(笑)(ノリツッコミでした)
お陽のちょっとズレた感じが可愛いですね♪

胃痛はいかがですか?
『タイムスリップタクシー』というお題がプチブレイクしているのですが、もし体調が良くて都合がつけば由愛さんも書かれませんか?もし良かったら連絡ください。
『赤いレインコート』のときのように、元ネタからは脱線気味です(笑)
ia.
2010/06/02 02:25
お陽は田舎娘ですからねえ、気をつけるべき男の特徴を教えてもらっても、経験がないからよくわからないという。
おとっつぁんが泣いてるぜ……。

胃痛はおかげさまで治りました♪
おお、なんか楽しそうなお題が。今週はちょっと無理だけど、来週ならいけるかも。
参加しまーす。
赤いレインコート、なつかしいな。どこまで行ったんだっけ。追いかけきれなかったんだけど。
鈴藤 由愛
2010/06/02 20:38
『タイムスリップタクシー』を最初に書いてくださった舞さんがリンク記事を作ってくれました。
http://kotonohanovel.blog108.fc2.com/blog-entry-100.html
書いていただけたらこちらに連絡をお願いします。
もちろん私もすぐに駆けつけますよ♪
連載中なのに強引にお誘いしてすみません(^^;
ia.
2010/06/04 23:38
おお、ありがとうございます♪
書けたら……っていうより絶対に書き上げて連絡してみせますとも!(ゴゴゴゴゴ)
やるぞー。
鈴藤 由愛
2010/06/05 11:26
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