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zoom RSS 泉之国のたぬき娘 三

<<   作成日時 : 2010/05/09 16:25   >>

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朝げが済むと、お陽は母親と二人きり、向かい合って座りました。
父親は「俺なんかどうせ……」と、すみの方でいじけています。

「まずは、あたしやおとっつぁん、あんたがどんな存在なのかを話さないとね」

母親の話は、父親と母親、そしてお陽は狸族(りぞく)といわれる一族に連なるというものでした。
狸族とはかつて泉之国を支配していた一族で、不思議な力を使うことができたために尊敬を集めていたそうです。
しかし、ある時突然その力を失い、都を追われて散り散りになってしまったのだ、と母親は話を締めくくりました。

「不思議な力かあ……」

お陽は、ぽつんとつぶやきました。
もしも不思議な力が使えたら、一体どんなことに使うでしょう。

(その力があると、畑を耕すのが楽になるのかなあ? わざわざ山に行かなくても、きのこが採れたりするのかなあ?)

お陽の場合、何だか使いどころが生活面に限られそうです。

「いいかい、さっきも言った通り、あんたはこれから旅に出るんだよ。まずは、誠城寺(しょうじょうじ)に行って、名前をもらうんだ」
「誠城寺?」

なんだか発音しづらい名前の寺だな、とお陽は思いました。

「狸族の寺さ。ここから山を二つ越えたところにある寺でね、兆しが出たら、そこの和尚さんにお会いして別の名前をつけてもらうのが、昔からの狸族の慣わしなんだよ」
「えっ、あたしの名前、変わるの?」
「そうじゃないよ、もう一つ名前をつけるんだ。普段はお陽のまま、変わらないよ。つけてもらったその名前は、ぺらぺら人に教えちゃいけない名前だからね。教えていいのは、めおとになる人だけなんだよ」
「他の人に知られたらまずいの?」
「名前を教えるってことは、そいつのものになるって意味になるからね。気をつけなよ、あんたって子はそそっかしいから」
「う、うん」

お陽は、ぎこちなくうなずきました。
めおとになる時にすべきことが明らかにされ、誰かのお嫁さんになる自分が少し具体的になったようで、何だか落ち着きません。

「あ、そうだ。なすべき事って、そこに行けば見つかるの?」
「いいや、それはわからないよ。寺に行く間に見つける奴もいれば、寺に行って名前をもらって、しばらく旅をしてみて見つかる奴もいるし……。おとっつぁんとおっかさんは、たまたま一緒だったけど、そんなの本当にまれなんだ」
「これが自分のなすべき事だ、ってどうしてわかるの? 何か目印とかがあるの?」 
「ぴんと来る、としか言えないね。理屈抜きで『やらなきゃ』っていう気持ちになったものが、あんたのなすべき事だよ」

母親の話を聞いているうちに、いつの間にかお陽の眉が、八の字に下がっていました。

「わかるかなあ……あたし、あんまり勘とか鋭くないし……」
「なすべき事をなし遂げたなら、しっぽが消えるからね。すぐにわかるよ」

それなら安心です。
お陽は、ほっと胸をなでおろしました。

「一番大事な話は、ここからだよ」

母親は、真剣な顔つきでお陽をまっすぐに見つめました。

「なすべき事をなし遂げるのは、お寺で名前をもらって、一年経つまでの間って決まってるんだ」
「一年経つまでに、なし遂げられなかったら?」

お陽は、緊張しながら尋ね返しました。

「あんたは、本物のたぬきになるんだよ」
「え、ええええっ!?」

お陽はびっくり仰天しました。
できなかったらたぬきになってしまうなんて、もはや滅茶苦茶です。

「寺に行って名前をもらわないと、もっと早いうちにたぬきになっちまうっていう話だから……名前をつけてもらうってのは、たぶん、たぬきになるのを先延ばしにしてもらうため、なんだろうね」
「そ、そんなぁ……」
「さあ、話はこれで終わり。旅支度しないとね」

母親の話はそれでおしまいになりました。

(た、たぬきになるのは、たぬきになるのは嫌……!)

何としても、なすべき事を見つけ出してなし遂げよう。
お陽は心の中で固く決意したのでした。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
面白い設定だなあ!
>誠城寺に行って、名前をもらう
>なすべき事をなし遂げるのは、お寺で名前をもらって、一年経つまでの間
展開が楽しみです。新作はこの話のあとで読ませてもらいます!
銀河径一郎
2010/06/03 12:51
面白いと思ってもらえたらこれ幸い。
最初に書いた話と矛盾しないよう、頭をこねくり回して考えたのが報われます。
仕事中や通勤中に設定を考えて意識を飛ばしていたことも……ごほっごほっ。

続きは、いつでもお時間のある時にお読みくださいませ。
鈴藤 由愛
2010/06/03 20:10
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