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zoom RSS 泉之国のたぬき娘 二

<<   作成日時 : 2010/05/01 14:47   >>

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その後、畑から帰って来た父親を、お陽と母親はそろって出迎えました。

「あんた、お陽に兆しが出たんだよ」
「本当か!? いやあ、そりゃ良かったなあ!」

母親に「ほら、見せてやんな」と目配せされて、お陽は着物のすそからしっぽを引き出して見せました。

「おうおう、立派な兆しが出てるじゃねえか、こりゃあ」

うれしそうに笑った父親は、泥だらけの手で頭をなでようとしました。

「ちょっ、手を洗ってからにしてよ!」

お陽は嫌がって逃げましたが、父親はかまわずがしがしと頭をなで回しました。

「しかし、ずいぶん遅かったなあ。一生兆しの出ないままかと思ったぜ」

しみじみしている父親を見上げ、お陽は首をかしげました。

「兆しって、出ないとまずいものなの?」
「まあな。親の血を継いでいないか、継いでるけど相当力が弱まってるとか何とか、とにかく不吉な風に考えちまうな」
「ふうん……」

ということは、両親は実のところ、血のつながりを疑っていたのでしょうか。
お陽は、しゅんとしました。

「いや、俺は信じてたぞ? おめえのおでこと口の辺り、俺とおんなじだったからな」

父親はにたっと笑って、お陽のひたいをぺしっと軽くはたきました。

「あたしだってそうさ。長い間お腹に抱えて、痛い思いして産んだんだからね。疑いっこないだろ」
「……うん」

両親に優しく笑いかけられ、お陽は、鼻の奥がつんとしてきました。

「さあさ、話はそれぐらいにして、朝げにするよ。みそ汁が冷めちまうだろ」

母親に急かされて、三人そろっての朝げが始まりました。

「おとっつぁんとおっかさんのなすべき事って、何だったの?」
「おう、聞いて驚くなよ。海で暴れまわって漁師を困らせていた化け物を、退治したんだぜ」
「ええっ、すごーい!」
「大変だったぞ。地元の漁師連中も一緒だったんだが、怖気づいて動けねえもんだからよ、俺が一人で大立ち回り。ちぎっては投げ、ちぎっては投げ――」

食べるのもそっちのけで、二人はわいわいと話し込みます。

「何言ってんだかこの人は。さんざん大口叩いておいて、化け物にぶっ飛ばされたらあっさり海に落ちたくせに」

そこへ、菜っ葉のみそ汁をすすりながら、母親が冷静に口を挟みました。

「……う、海に落ちるまでは俺が一人でだなあ」

その途端、父親の言葉の勢いが落ちました。
よく見ると、目がおよいでいます。

「いいや、違うね。あんたが真っ先にぶっ飛ばされて海に落っこちたせいで、あたしが片をつける羽目になったんじゃないか」
「さ、最後は俺だって……」
「これでとどめだっていう時に起きてきただけだろ。それまでずーっと気絶してたくせに」

お陽は、やりとりしている父親と母親の顔を交互に見ました。

「えっ、おとっつぁんの話って作り話なの?」
「違うぞ! おとっつぁんだってがんばったんだ!」

父親は何だか必死になっています。

「はあ……大口叩くところは相変わらずだね、まったく」

母親はあきれ顔で、空になったおわんを置きました。

「い、いいじゃねえか、娘の前でかっこつけたってよぉ」
「あんまりかっこつけてると、後々自分の首をしめる羽目になるよ。昔、さんざん痛い目にあっただろ」

ぴしゃりと言われてぐうの音も出なくなったのでしょう、父親はその後だんまりを決め込んでしまいました。
母親は気にかける様子もなく、お陽の方を見ました。

「ほら、さっさと食べちまいな。色々やらなきゃいけないことがあるからね。話さなきゃいけないこともあるし、旅支度もしないと」
「えっ、旅支度? 畑とかどうすんの?」

お陽は、両親と自分の三人で旅に出るのだろうかと考えました。

「お馬鹿。あんたが一人で旅に出るんだよ」
「え、ええっ、あたし一人ぃ!?」

今まで、お陽が出かける所といえば畑か山ぐらいのものでした。
それがいきなり旅に出ろなどと、果たして耐えられるのでしょうか。
お陽は不安でたまらなくなりました。

「兆しが出たら、旅に出なきゃいけない決まりなんだよ」
「ええ〜……」
「行かないなんて話、聞く耳持たないからね。もたもたすんじゃないよ」

お陽はみそ汁をすすりましたが、もはや味などわかりませんでした。

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