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zoom RSS 泉之国のたぬき娘 一

<<   作成日時 : 2010/04/24 14:10   >>

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昔、ある所に泉之国(いずみのこく)という国がありました。
泉之国のある山に、お陽(よう)という娘が住んでおりました。
お陽は父母とともに畑を耕したり、山に入ってきのこや山菜を取ったりして暮らしていました。

そんなある日の朝、いつものように起きたお陽は、自分の体に違和感を覚えました。
お尻の下に、何か太くて長い物があるのです。
まさか粗相をしたわけではあるまいな、とお尻に手をやったお陽は、ぎょっとしました。

「おっかさん! おっかさん!」

お陽は布団を蹴飛ばして寝床を飛び出し、すでに起きて朝げの支度をしていた母親の元に駆け寄ります。

「なんだい、朝っぱらから大声出して。静かにおし」

菜っ葉を刻んでいた母親は、振り向きもせず包丁を動かしていました。

「おおおおっかさん、あたし、あたし、体が変なのよ!」

お陽は母親の着物のすそをつかみ、わめき散らしました。
その様は、まるできゃんきゃん吠える子犬のようです。

「変って、一体何がだい?」

母親は眉をひそめ、包丁を動かす手を止めてお陽の方を向きました。

「見てよこれ!」

お陽は、寝巻きのすそを太ももまでたくし上げ、中から何かを引っ張り出しました。
それは、茶色くて太いしっぽでした。

「朝起きたらお尻に生えてたの! おっかさん、あたしの体どうにかなっちゃったよお!」

そこまで一息に叫んでから、お陽は、はっとした様子を見せました。

「あ、あたし……もしかしたら、何かの病気なのかも……そうだ、きっと変な病気にかかっちゃったんだ! ああああたし死んじゃう、おっかさん、あたし死んじゃうよお! どうしよう、まだ死にたくないよ、嫁入り前の身で、死にたくないよ!!」

頭を抱えてぎゃあすか大騒ぎするお陽とは対照的に、母親は冷静な顔をしていました。

「落ち着きな。病気なんかじゃないよ。これはむしろ、あんたがあたし達の娘だっていう証拠だからね」
「へ?」

慌てふためいていたお陽は、母親の言葉に動きを止めました。
どこの世界に、しっぽのある無しで親子かどうかを見分けるなどという法があるのでしょう。

「何言ってるのおっかさん、普通の人間にはこんな物生えてないでしょ!」

こんな物、と言いながら、お陽はしっぽをぐいぐい引っ張ります。
どんなに引っ張ってもしっぽは引っこ抜けず、痛みまで感じるので、お陽はこれが紛れも無い現実なのだと思い知りました。

「そりゃそうさ。あんた、実はたぬきなんだから」

母親の言葉に、お陽は口をあんぐり開けました。

「おっかさん、しっかりしてよ! あたし、たぬきじゃなくて人間だよ!」
「いいや、あたしは正気だよ。あんたの体に、いっこうに兆しが見えないから黙ってたんだ」
「き……ざ、し?」

事態を飲み込めないお陽が目を白黒させていると、母親はくるりと背を向けて、再び菜っ葉を刻み始めました。

「ああ。あんただけじゃない、あたしも、おとっつぁんも、元はたぬきなのさ。だけど、自分のすべきことを成し遂げたから、今こうして、人間になって暮らしてるんだ」

母親の言葉に、お陽はしっぽを片手で持ち上げた体勢のまま、声も上げなければ身動きもしません。
何も知らない者が見たら、話に聞き入っている風に見えたことでしょうが、むしろ逆です。
お陽は、あまりに理解を超えた事態に直面したせいで、もう人の話など筒抜けの状態になっていたのです。

(ええと、あたしはおとっつぁんとおっかさんの子供だから、たぬき。じゃなくて、おとっつぁんとおっかさんがたぬきだから、たぬき。え、でも、おとっつぁんとおっかさんはもうたぬきじゃないから、人間。あれ、人間からたぬきが生まれるって変じゃない? じゃああたし、もしかしておとっつぁんとおっかさんの子供じゃない? え、違う違う。さっき「あたし達の娘だっていう証拠」って言ってたし、ああそうだ、あたし、二人の子供だ。良かった。あれ、じゃああたしが生まれた時、おとっつぁんとおっかさんはまだたぬきだったの? え、そしたらあたし、人間の姿じゃなくてたぬきの姿になるんじゃない? え、あれ? あれ?)

お陽の頭の中を、色んな思いがぐるぐるぐるぐる回ります。
それは、あきれ顔の母親に頭をはたかれて我に返るまで続いたのでした。

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
やーーーーっとたぬきのお話が思いついただよーーー!
今週の木曜日の夜、帰り道の道路の真ん中に鎮座していたたぬきを見て、恐れおののいて必死こいて考えたよ……もう許してくれ、たぬき一同様。
鈴藤 由愛
2010/04/24 14:16
こ、これは!
たぬき囃子ならぬ、たぬきバナシ!
これでたぬきの呪いは解けますね(笑)
あれ?でももうひとつの「恋愛話が書けない呪い呪い」は?
ia.
2010/04/26 00:17
うまいっ! 座布団一枚!<たぬき囃子ならぬ〜
いえ、これだけではなく、完結させた時にこそたぬきの呪いが解けるのです。
恋愛話を書けない呪いは……当分、解けそうもない……。
鈴藤 由愛
2010/04/26 20:30
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