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zoom RSS とある王国の、ある一日

<<   作成日時 : 2010/03/27 19:59   >>

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とあるところに、国民が一つにまとまっている王国があった。

特別な思想を植えつけているわけでも、恐怖政治を行っているわけでもないのだが、国民には一人の怠け者もおらず、有事の時には一丸となって敵に立ち向かうのだ。
集団というものは、大人数になればなるほど、一つにまとまるのが難しくなる特徴を持っているはずだ。
それなのに、このまとまりよう。一体どうやって国を統治し、民をまとめているのか。
他の国々はその点を疑問に思っていた。

ある時、王国に隣の国から使者が送られて来た。
その使者は、国民を一つにまとめる秘訣を学んでくるよう命じられていた。
正装であるゆったりした袖口の服を着た王様は、使者を快く出迎えた。

「ようこそ我が国へ。参考にできる部分があるなら、存分に学ぶが良い」

王様は家臣に命じ、使者を色々なところへ案内させた。
使者は仕事にいそしむ国民の姿を見たり、集まりに参加したりした。
皆、生き生きと仕事に励んでおり、何か質問をすると屈託無く答えた。

「皆、他人に心を開いて、勤勉に暮らしているんだなあ。きっと、それが一つにまとまるための秘訣なんだ」

使者はそう考えた。

そうして何日かが過ぎたある日、使者は仲良くなった国民と酒場で飲むことになった。
わいわいと酒を酌み交わしているうちに楽しいひと時は過ぎ、お開きの時間がやってきた。
使者は酒場につないでいた馬にまたがり、城の中に用意されている部屋へと帰った。
その道中、使者は暗い道で誰かがうずくまっていることに気付いた。
しかし、酔いのせいもあって馬を止める判断が遅れてしまった。
そして、その遅れが致命的となってしまったのである。

初めに感じたのは、ぐしゃりという鈍い音。直後に馬の下から「ぎゃっ」という声が上がり、使者は絶望した。
慌てて馬を止め、うずくまっていた人間を抱き起こしてみると、それは、まだ幼さの残る少女だった。

「お、おい、大丈夫か」

先ほどまでの心地よい酔いはどこへやら、怯えた使者に揺すられると、少女は、されるがまま首をぐらりぐらりと重さに任せて揺らしていた。
つながっていないかのような、嫌な動き。

よく見ると、道には数枚、金貨が落ちていた。
うずくまっていたのは、これを拾っていたためだろう。

「な、なんてことを……」

使者は恐ろしくなり、青くなって震えた。


――酔っ払った隣の国からの使者が馬に乗っていて、少女を蹴り殺した――

その話は、あっという間に国中に知れ渡った。
少女は孤児だったので、死ぬことによって傷つく家族はいなかったのだが、それが国民の同情と哀れみを買った。

「あの女の子がかわいそうだ」
「隣の国の連中は、何を考えてあんな奴を使者にしたんだ」

国中に、使者への怒りと憎悪の感情が噴出した。

使者は捕らえられ、王様の元に引き立てられた。
王様は使者をぎろりとにらみつけた。

「おのれ、隣の国からの使者だからと丁重に扱っておったというのに、これがその礼だとでもいうのか!」
「お、お許し下さい……っ、お願いです、お慈悲を……お慈悲を!」

使者は顔色を失ってわび続けたが聞き入れられず、その日のうちに処刑された。

使者が処刑された夜、緊急の会議が開かれた。
議題は、隣の国との今後の係わり合いについて、である。

罪のない少女を馬で蹴り殺すような人間を使者に選ぶ国を、信用して良いのか。
我々は軽んじられているのではないか。
これは由々しき事態である……と。

「諸君、伝統ある国家の民として、軽んじられる気分はどうだ?」

王様は会議の席で、出席者達をぐるりと見回した。

――報復を行うべし!

王様の発言に異を唱える者はおらず、満場一致で隣の国への攻撃が決定した。
「侵攻ではなく、あくまでも報復である」と彼らは宣言した。

そして、夜もすっかり更けた頃。
王様は自分の部屋で数枚の書き物をしていた。
ろうそくの明かりを受けて、王様の影がゆらゆらと壁に揺れている。

「集団を一つにまとめるのは、造作もないことよ」

さらさらと紙にペンを走らせながら、王様は薄く微笑んだ。

「共通の敵を作れば良い。それがコツだ」
「全くでございます」

部屋の片隅の暗い部分から、声がする。
一見すると姿はわからないが、そこには、王様に信用されている密偵が潜んでいた。

隣の国からの使者が、孤児の少女を馬で蹴り殺してしまった事件。
全ては、王様の作戦だった。
作戦といっても大掛かりなものではない。使者の帰りを見計らい、城へ帰るために通らなくてはならない道に金貨をまいておく。ただそれだけだ。
あの辺りには孤児達が住み着いており、金貨を放っておくはずがないことは簡単に予想のつくことだった。
使者が酒を飲みに行くことを知り、密偵に実行させたのである。

これで、しばらく国民も一つにまとまることだろう。共通の敵を打ち倒すという目的があるのだから。
王様は書き物を終え、ペンを置いた。
それぞれ一枚ずつ封筒に入れ、己の物とわかるよう刻印を押して封をする。

「他国の王にこれを届けよ」

王様は暗がりに向かってそれを差し出した。

「承知しました」

暗がりの中から、
封筒が王様の手からすり抜かれ、わずかに風が起き、窓が一度だけ開閉する。
王様にとっては慣れた、密偵の出発である。

とたん、ろうそくから出るすすの臭いが王様の鼻をかすめた。
もうじき、この何倍ものすすの臭いが隣の国で発生するだろう。
しかし、王様にはそんなことはもうどうでも良いことだった。

こうして、とある王国の、ある一日は終わった。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
おっかない王様だなw
犬と猿がケンカしないで桃太郎と鬼退治に行けた理由も、それに近いものがありますね。
まあ、あれは桃太郎という絶対的なリーダーの存在が理由でしたが。
たろすけ(すけピン)
2010/03/27 22:09
犬と猿は、干支の話でも仲が悪いって書かれてますからね。
鶏が間に入って、「まあまあ」って仲裁しながらゴールしたのであの順番だそうな。
……関係ないですね。
とりあえず、鬼退治から帰ってきたら別々に暮らしてるんじゃないかな、犬と猿。

一国を支配する人って、なんかこういう事を平然とやりそうなイメージが。<おっかない王様
後々のことまで吟味するっていうより、手っ取り早く解決させようとしてそうな。
偏見ですか、そうですか。
鈴藤 由愛
2010/03/28 10:36
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