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zoom RSS うさぎ物語〜かちかち山異聞9〜最終話

<<   作成日時 : 2010/03/20 20:43   >>

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うさぎは、ようやく老人に良い知らせをもたらすことができた。
たぬきを殺したと聞かされた老人は涙を流し、何度も礼を述べた。

「あのうさぎは、わしの代わりにばあさんの仇を取ってくれたんじゃ」

老人はうさぎの事を称賛し、誰かに会うごとにその素晴らしさを語った。
話を聞いた者は、うさぎの事を「正義感の強いうさぎだ」「あっぱれだ」と称賛した。
ことの他称賛したのは、同じうさぎ達である。
うさぎのことを英雄に祭り上げ、「ぜひうちの娘をもらってくれ」と縁談を持ち込む者も大勢いた。

うさぎにとっては、久方ぶりに受ける称賛だった。
おばあさんうさぎを亡くして以来、誰かにほめられるだとか感謝されることとは無縁だったのである。
それが今や、誰もが自分を誉めそやし、好意的に見てくれる。否定する者はいない。自分のために宴まで開いてくれる。
これが快感でないはずがない。
うさぎは浮かれていた。
たぬきの子供らが「悪者の子供め」と住みかを追われたと聞いても、何とも思わなかった。

ただ、川下の方でたぬきの死体を見た者の間では、「やり過ぎだ」「残酷過ぎやしないか」とささやかれたのも事実である。
うさぎを英雄視する者達ににらまれて口をつぐんだので、広まることはなかったが。


そして、たぬきを殺した数年後。
すっかり中心的な存在となったうさぎを、ある日、岡っ引きのうさぎが訪ねて来た。
岡っ引きといえば、泥棒などを捕まえるのが仕事である。
うさぎは何事かといぶかしみながら応対に出た。

「一体、何事です?」
「いえね、少し前に、遠くの方で盗みをはたらいたたぬきを捕まえたんですが……」

そこで言葉を区切り、辺りを見回した後、岡っ引きのうさぎは「ここではちょっと」と、誰もいない場所にうさぎを連れて行った。
そして、実に言いにくそうに述べた。

「そいつが、『俺は殺されたたぬきの兄だ』と言ってましてね」

いわく、そのたぬきは「おばあさんうさぎと老人の妻を殺したのは、実は俺だ」と主張しているのだという。

「そんな馬鹿な!」

青ざめるうさぎを前に、岡っ引きのうさぎは、ゆるりと首を揺らした。

「あたしらもそう思いまして、調べに調べましたよ。ですがねえ、あいつは犯人しか知らないはずのことも知っていましたし、言うことも筋が通ってるんです」

『兄貴が置いて行ったがきと、俺のがき、合わせて八つだ。俺のがきは一番年かさのやつでな、あとはみんな兄貴のがきだ』
『何年も前にいきなり来て、置いて行ったんだ。それっきり行方知れずよ。昔っから自分勝手で駄目な奴だったが、これほどとはな』

たぬきの言葉が、頭をよぎる。
うさぎは目まいを覚えた。
体が一気に冷え、口の中がからからに乾き出す。

思えばたぬきは、常に子供のことを考え、食べさせるために稼がなくてはいけないんだと口にしていたではないか。

『俺には学がねえから、何やっても大した稼ぎにならねえ。あんな薄いかゆを食わせてやるだけで、精一杯だ。情けなくて、涙が出てくらぁ』
『だからよ、がきを食わせるためなら、俺は何でもやるぜ。女房も死んじまった以上、こいつらにゃ、俺しか頼れる相手はいねえんだしな』
『俺にゃ八つも子がいるんだ、稼げるなら何でもやらあ』
『俺には八つもがきがいるから、早くやけどを治して稼がなきゃいけねえんだよ。それで、気が立っちまってな』
『いい加減、稼ぎてえんだよ。食わせなきゃいけねえがきが八つもいるから出稼ぎに来たっていうのに、まだ一度も仕送りできてねえ』

「あ……あ……」

たぬきの言っていた事一つ一つが、頭の中でうずを巻くように思い出される。
何故自分は、ちらりとでも考えなかったのだろう。
「こんなに子供のことを考えている奴が、果たして誰かを殺したりするだろうか?」と、どうして疑えなかったのだろう。
声以外の判断材料を持つことを、どうして考えなかったのだろう。

(それじゃあ、僕のしたことは……?)

火をつけて大やけどを負わせ、その傷にからし味噌を塗りたくり、だまして泥の舟に乗せて溺れさせ、かいで殴って殺した。
仇討ちだからこそ許され、称賛される一連の行動。
それが、あのたぬきが仇ではなかったのだとしたら。
――とてつもなく恐ろしい答えが導き出される。

うさぎは、その場にがくりとひざをついた。
そんな答えなど、信じたくない。受け入れたくない。
だいいち、もう取り返しがつかないではないか。

「取りあえず、一緒に来てもらえませんかねえ」

岡っ引きのうさぎの気遣わしげな声が引き金になって、うさぎは叫んだ。
頭をかばうように両手で抱え、大きな大きな声で、叫び続けた。
大声で現実をかき消せるものなら、かき消してしまいたかった。

無実のたぬきをむごたらしく殺し、その子供達まで苦しめてしまったというこの現実を。


<完>

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
完結、お疲れ様でした。(すいません。おめでとうとは言えませんでした)

最後に、岡っ引きのうさぎが少し気を遣ってくれたことが、少しだけ救われました。
感情が沸点に達すると、盲目になるんですね。

悲しいお話でしたが、最後まで読めて良かったです。
たろすけ(すけピン)
2010/03/20 21:24
延々言ってたことですが、これ、ハッピーエンドではないですからね。無理ないですよ<おめでとうとは〜

今回は、復讐というか報復というか、それがもたらす悲劇みたいなものを目指して書きました。
怒りにとらわれて行動すると、たぶん取り返しのつかないことになるよ、っていう。

こちらこそ、最後まで読んで下さってありがとうございました。


鈴藤 由愛
2010/03/21 09:14
最後まで読ませてもらいました。
心理描写がすごくて、途中から松本清張さんのサスペンスかと思っいました(^^
本当に楽しませてもらいました。お疲れ様でした。
最初のコメントで、私はネタバラシに近いことをやらかしてましたね(^^;
邪魔だったら削除してやってください。(私もネタを割られるのが嫌いなので)
次の作品も楽しみにしています♪
ia.
2010/03/25 18:16
コメントが不調だあああ!
鈴藤 由愛
2010/03/26 21:04
予告通りのエンディング、完結お疲れ様でした!

丁度、現実の世界でも足利事件の冤罪が明らかになりましたが、勘違いというのはたぶん世の中にたくさんあって、思いがけないドラマを生みますね!

銀河径一郎
2010/04/12 21:44
宣言しといてあれですが、我ながら暗い結末だと思います。
でも、償うチャンスは残しておいたので、全く救いがないわけではないのです、少なくとも私としては。

勘違いにも、謝って済むレベルじゃないのがありますからねえ。
気を付けなくちゃ。

最後まで読んで下さって、ありがとうございました。
鈴藤 由愛
2010/04/12 23:18
ごぶさたしてごめんなさい。
ここからコメントつけさせてください。

いってた通り、ラストはハッピーエンドじゃなかったけど、
ここからが、うさぎの苦悩の始まりと思うと、余韻が残る作品でした。
動物に例えた話ではあるけど、思い込みや勘違いは禁物という教訓が込められた話だと思うの。
だから、裁判員に選ばれた人には、心してかかってほしいわ。
最後話が飛びました。
つる
2010/05/28 00:45
ごぶさたしてますー!
実は見捨てられたのかと思ってましたハイ。
それはさておき。

誤解や思い込みっていうのは怖いですからね。
人間には会話っていうコミュニケーション手段があるんだから、活用しないと。
……口ベタなので、その点で苦労してますが。
鈴藤 由愛
2010/05/28 20:53
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