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zoom RSS うさぎ物語〜かちかち山異聞6〜

<<   作成日時 : 2010/02/28 19:48   >>

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「……それで?」

いろりの火に顔を赤く照らされた老人は、うさぎをひたと見据えた。

ここは老人の家。
たぬきを火だるまにしたうさぎは、その報告に来たのである。

「たぬきは死んだのか?」

老人の質問に、うさぎはかぶりを振った。

「……わかりません」

それを聞いた老人の体が、わなわな震え出す。

「何と、わからんとはどういう事だ! あいつが生きているかもしれんというのかっ?」

老人はうさぎの前に這って近寄り、体をつかんで揺さぶる。

「何故あいつをちゃんと殺してくれないんだ! まさか、あのたぬきに情けをかけたのではあるまいな!?」
「違います!」
「わしのばあさんが殺されたのは、痛め付けただけで許される程度の罪なのか!?」
「そんなこと考えていません!」
「いいや、そうだろうとも。お前さんにとっては、見ず知らずの、ただの年寄りにすぎんものな!」

うさぎの言葉も聞かずにまくし立てると、老人は突然うさぎの体を離した。
そのままだらりと腕をたらし、うつむいて座り込む。

「……わしにとっては、この世でただ一人のばあさんなんだ……誰にも代わりなんかつとまらん……それをむごたらしく殺される者の苦しみなぞ、誰にもわかるものか……」

力なくうなだれ、老人は語尾を震わせる。

「わしはもう老いぼれて、昔のように動くこともできん。お前さんが頼りなんじゃ……頼む、ばあさんを殺したたぬきを殺しておくれ……お願いだ、どうか、どうか……」

老人は声を詰まらせ、うさぎの前にひれ伏した。
年老いた者のひれ伏す姿を見て、心の痛まぬ者が果たして何人いよう。
少なくともうさぎは、罪悪感で胸が張り裂けんばかりだった。

「もしあのたぬきが生きていたら、今度こそ間違いなく、殺します」

うさぎには、そうとしか言えなかった。

その後、老人とうさぎの話し合いにより、たぬきを確実に殺す方法が決められた。
誘い込んで舟に乗せ、突き落としてしまおうというものである。
舟を調達してくる役は、老人が受け持つことになった。

帰り際、老人はうさぎに、とうがらし入りの味噌の入った小さな壷をくれた。

「手を汚させるというのに、こんな物しかなくてな……」

申し訳なさそうな老人に、うさぎは「気にしないで下さい」と静かに首を横に振り、老人の家を後にした。

(そうだ、おじいさんが気に病む必要はないんだ)

うさぎは家を出てから、ふっと重いため息をついた。
たぬきを殺すのは老人への償いであると同時に、自分自身の仇討ちのためでもあるのだから。

さて、うさぎが仮のねぐらにしている巣穴に戻ろうとしていると、「おい、待て!」とどすの利いた声が呼び止めた。
それは聞き間違えるはずののない、憎いたぬきの声だった。

「見つけたぞ! この悪党うさぎめ!」

(こいつ、まだ生きていたのか)

しぶとい奴めと思いながら、うさぎは振り向いた。
振り向いた先にいたのは、全身焼けただれてはれ上がり、傷口から赤く血をにじませた、見るも無残なありさまのたぬきだった。
それでも精神は弱っていないとばかり、怒り狂った様子でうさぎをにらみつけている。

さあ困ったことになった。生きていた上、計画を立てたばかりの今、ここでめぐり合ってしまうとは。
どうするべきか。計画は少々狂ってしまうが、今この場でたぬきを殺すべきだろうか。
だが武器はなく、素手で怒り狂った相手をねじ伏せるのは少々無理がある。
ならば……。
うさぎは小さな頭を必死にこねくり回す。

「聞いてんのかよ、てめえ!」

頭をめぐらせるのに夢中になっていると、たぬきがうさぎの胸ぐらをつかんで持ち上げた。
その瞬間、うさぎは別のうさぎになりすますことを思いついた。

「……身に覚えがないな」
「何ぃ!?」
「そいつは、かや山のうさぎだろう。僕はとうがらし山のうさぎだから、わからないよ」
「ああ!? そんな理屈が通るかっ、嘘つくんじゃねえ!」

(落ち着け、落ち着け)

ますます威圧的になるたぬきを前に、うさぎは自分に言い聞かせた。
声高に否定をすれば、その分怪しまれる隙が生まれる。

「本当だよ。うさぎはみんな同じ顔だから、なかなか信じられないだろうけど」
「そ……そうなのか?」
「ああ」

口汚くののしられても冷静なうさぎに、たぬきは急に気まずそうな顔をし、その胸ぐらから手を離した。
とりあえず、別のうさぎだと思ってくれたようだ。

さて、次にすべきことは。
うさぎは、ほんの一瞬冷たい目をした。
目の前のたぬきが気付かないほどの、ほんの一瞬だけ。

「それにしても、ひどいやけどだね。僕、やけどの薬を持っているよ。良かったら塗ってあげようか」

口調は優しげに、だが心の中には何の感情も抱かず、うさぎはとうがらし入りの味噌が入った壷をたぬきに見せる。

「お、おう、悪いな」

よもや、やけどを負わせた奴が、親切に薬をくれるとは思わないだろう。
たぬきはすっかり警戒を解いた様子で、うさぎに背中を向けた。

「さっきは悪かったな、勘違いしちまってよ」
「気にしていないよ、やけどを負わされたのなら頭に血が上って当然だ」
「いや、それだけじゃねえんだ。その……よ。俺には八つもがきがいるから、早くやけどを治して稼がなきゃいけねえんだよ。それで、気が立っちまってな」
「へえ、そいつは大変だ」

――計画が完了するまで、たぬきにはしばらく、寝込んでいてもらうとしよう。

うさぎは壷の中身をすくい取り、たぬきの背中にべたりと塗りつけた。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
なるほど。それを塗られちゃたまらないなw
へら山のうさぎは……なんというか、その……あんな性格なんでしょうか(爆)
たろすけ(すけピン)
2010/03/03 04:47
今回一番苦労したとこですよ、とうがらし味噌。
おおおお前うさぎのくせに何でそんな物作ってんだよぉおぉ! きぃいい!
ってことで、所持のくだりを捏造しました。

へら山のうさぎはもちろん、へらへらしたうさぎですよ。たぬきをへらへら笑って見逃しちゃうような。
鈴藤 由愛
2010/03/03 20:42
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