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zoom RSS うさぎ物語〜かちかち山異聞5〜

<<   作成日時 : 2010/02/21 17:45   >>

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老人の家を出た後、うさぎはたぬきの居場所を調べ上げ、老人の家近くの山奥に住み着いていることを知った。
子供らは一緒ではなく、一家で移り住んだわけではないらしい。
たぬきは、周囲にその理由を聞かれた時に、「がきを食わせるために、出稼ぎに来た」と説明したという。

(何が出稼ぎだ、お前がやっているのは悪事じゃないか!)

それを聞いたうさぎが激怒したのは、言うまでもない。

とにかく居場所がわかれば、あとはこちらの作戦しだいである。
うさぎは策を巡らせた。
一晩寝ずに考え抜き、うさぎの立てた策は、たぬきにかやを背負わせ、それに火をつけて火だるまにして焼き殺すというものだった。
刃物でざくりと刺せば簡単なようだが、強い抵抗にあうだろうし、返り討ちにあう可能性も高い。
火をつけるだけなら、さほどこちらの危険はないだろうとうさぎは考えたのである。

次の日、うさぎはたぬきのいる山へ入ると、かやのたくさん生えている場所へ向かった。
そして、「明日は長者の屋根がえだ」と歌いながらかやを刈り始めた。
しばらく刈っていると、草を踏んで近寄る足音がした。

「おいお前、何やってんだ?」

忘れるはずもない、たぬきの声。
うさぎは顔を上げて、声の主を見た。
そこにいるのは紛れもない、あのたぬきだった。

「ああ、明日、長者の家で屋根がえをするんだってさ。使うかやが足りないっていう話だから、かやを刈って持って行けば、いい金になるよ」

いかにも善良そうなうさぎの顔をしながら、でたらめな話をでっち上げる。
「金」という単語を聞いた途端、たぬきの目がきらりと輝いた。

「本当かっ? 俺にも刈らせてくれよ」
「かまわないよ。何事も独り占めは良くないからね」

心にもないことを言い、うさぎは鎌を渡した。

「何だお前、もう刈らねえのか」
「ああ。僕はあまりたくさんは背負えないから、このぐらいにしておくよ」
「そうか、じゃあ残り全部、俺が刈っても文句はねえな?」
「そうするといいよ。熱心だねえ」
「俺にゃ八つも子がいるんだ、稼げるなら何でもやらあ」

たぬきはそう言って、残ったかやをざくざくと刈り込んだ。
うさぎは少ししか刈らなかったので、たぬきの刈った分はずいぶんな量になった。

「さ、長者のところへ持って行こう」

うさぎはたぬきに声をかけ、先に歩かせた。

「おい、長者の家ってのは、ここからどのぐらいだ?」
「そうだなあ、昼前には着くさ」
「なんだ、案外遠いな」

たぬきの後ろを歩きながら、適度に話をあわせる。
声だけなら友好的に聞こえるため、背中を向けているたぬきは、まさか答えるうさぎの瞳が冷え切っているとは思うまい。

(そろそろいいだろう)

うさぎはふところから火打ち石を取り出し、かちん、かちん、と打ち合わせた。
たぬきの背負うかやに火をつけるためである。

「ん?」

途端、たぬきが声を上げたため、うさぎはぎょっとして手を止めた。

「さっきから、かちかち言うのは何の音だ?」

たぬきは立ち止まり、辺りを見回している。
うさぎは緊張で口の中が乾くのを感じた。
かやに火がついていないため、どうにかしてごまかさねばならない。

「こ……ここは、かちかち山っていう所だから、かちかち音がするんだ。知らなかったのかい」

うさぎは、声が震えないようにするので精一杯だった。
少しでも疑われたら、おしまいである。

「へえ、変わった所なんだな」

たぬきはそれで納得したらしく、再び歩き出した。
ずいぶんあっさりと信用するものだ。
自分で「学がない」と言うだけのことはある、とうさぎは内心さげすんだ。

納得したのなら、かちかち音がしていても、もうたぬきは不審に思うまい。
うさぎは遠慮なく火打ち石を打ち合わせ続け、ついにかやに火をつけた。
小さな火を消さないよう、ふうふうと慎重に息をかけてやると、火はみるみるうちに大きくなり、ぼうぼうと音を立てて燃え始めた。

「お?」

そこで、再びたぬきが足を止めた。

「さっきから、ぼうぼう言うのは何の音だ?」
「ここは、ぼうぼう山っていう所だから、ぼうぼう音がするんだ。知らなかったのかい」
「へえ、変わった所だな」

先ほどとほとんど同じやり取りだが、たぬきはそれで納得したらしく、追求してこなかった。

見る間に火がかや全体を飲み込むのを見て、うさぎは足を止めた。
最後の瞬間まで、律儀に一緒にいてやる必要はない。

一方、たぬきは何やら熱いと思って己の体を見やり、目を丸くした。
当然である。めらめらと燃える背中のかやと、そこから火が燃え移っている己の毛皮を見たのだから。

「ぎゃっ、ぎゃ、ぎゃあああああっっ!!」

たぬきは絶叫し、背負っているかやを捨てようとした。
しかし気が動転しているためか、かやをまとめるために結びつけた縄がほどけず、そうこうしているうちに火はどんどん大きくなっていく。

「みっ水はどこだ、水はどこだああー!? うわああーっっ!!」

かやを捨てるのをあきらめ、たぬきは狂ったような絶叫を上げて走り去った。
毛皮の燃える嫌な臭いを後に残して。

この近くに川や池はない。
あの燃え具合なら、おそらく生きてはいまい。
うさぎは、炎に巻かれて走るたぬきの後ろ姿を見届けると、ほうっと息を吐いた。

……ようやく。
ようやく、憎いたぬきを痛い目にあわせることができた。
おばあさんうさぎとの仇討ちと、老人への償いができた。
うさぎが長年待ち望み続けてきたことが、ようやく現実になった瞬間だった。

しかし、今、うさぎの心には高揚感は一切なかった。
体は冷たい鉛のように重く、心はひたすら空っぽだった。
一体どうしたのだろう。
本来なら、小躍りして喜ぶようなところだ。
「ざまあみろ」と、爽快な気持ちにさせてくれるはずだ。

(なぜ……?)

幼い頃からの望みをようやく叶えたというのに、どうしてこんなにも虚しいのだろう。

(虚しい?)

うさぎは自分の中に浮かんだ感情に気付き、ぞっとして慌てて否定した。

(そんなことはない! きっと、まだ実感がないだけだ!)

そう、自分は望みを叶えたのだ。虚しいと思うことなどあり得ない。
きっと、喜びの気持ちよりも、復讐に全神経を注いだ疲れの方が大きいだけだ。そうだ、そうに違いない。

毛皮の燃える臭いがいつまでも薄まらないことに吐き気を覚え、うさぎは足取り重く、その場を立ち去った。

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
かやに油でもかけた方がよく燃えるような気がしたんだけれども原作ってどのぐらいいじくっていいものやら最近よくわからなくてやめた(長いよ)
鈴藤 由愛
2010/02/21 17:48
感情のない復讐。この後、うさぎは何を思うのでしょうね。

「お?」
そこで、またまたたぬきが足を止めた。
「さっきから、メラメラ言うのは何の音だ?」
「ここは、へらへら山っていう所だから、ホムラさんが住んでいるんだ。知らなかったのかい」
「へえ、変わった男だな」

と思いついたのは、どうでもいいですね。
たろすけ(すけピン)
2010/02/22 20:18
うさぎはあれですね、復讐のために自分の気持ちから目を背けてる感じですね。
心あるなら耐えられないでしょうから。

わ、面白い!<「お?」
しかし、へらへら山って、なんか平和そうで良いですな。皆へらへら笑って暮らしてそう。
鈴藤 由愛
2010/02/22 21:29
ついにかちかち山に辿り着きましたね!
絵本ではコミカルに描かれてるわけですが、鈴藤さんはシニカルな視点で描いていて、そこにうーんと考えさせられました。
面白かったです!
銀河径一郎
2010/02/25 11:33
よくよく考えたら怖いことなんですがね、あれ<絵本では
でも、真実を伝えるべくリアルにしたら、絶対子供には読ませられないよな、うん。
今後の展開もシニカルでいきますよー。
鈴藤 由愛
2010/02/25 20:04
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