プラスマイナス1

アクセスカウンタ

zoom RSS うさぎ物語〜かちかち山異聞4〜

<<   作成日時 : 2010/02/14 17:26   >>

トラックバック 0 / コメント 2

たぬきの小屋を飛び出したうさぎは、その後ふらふらとさまよい歩いた。
さまよううちに、変装のために身に着けていた毛皮は失われ、黒く塗った顔や足は元通り白くなっていた。

仇討ちをすべきか、やめるべきか。
さまよううさぎの心は、重さを量りかねている天秤のように揺れ続けていた。
迷うぐらいなら、やめておく方が無難であるという意見もあろう。
しかし、うさぎが「いっそのこと、やめてしまおうか」と考えるたび、おばあさんうさぎとの思い出が脳裏をよぎり、意識をゆさぶるのだ。

いつだって優しく、自分のことを思いやってくれたおばあさんうさぎ。
手伝いをすると「いい子だね」と頭をなでてくれた。
寒い日はぴったり体をくっつけて、眠れるまで話をした。
美味しい物を食べる時は、「あたしはもうお腹がいっぱいだからね」と、自分は少しだけ食べて、あとは全部くれた。

そんな優しい記憶を、たぬきのあざ笑う声がどす黒く塗りつぶす。
そして思い出される、顔を覆って泣いているおばあさんうさぎの丸い背中。

――やはり、たぬきのことは憎くてしょうがない。

仇討ちをやめるということは、たぬきを許すということになる。
許せるだろうか。大好きなおばあさんうさぎをあざ笑い、突き飛ばしてがけから落としたたぬきのことを。

かっ、と腹の底が煮えたぎるような衝動が、うさぎを襲う。

(許せない、やっぱりあいつは許せない!)

だが、腹を決めようとすると決まって、子だぬきの寝相を直してやっているたぬきの姿が思い出された。
……自分が仇討ちをしたら、あの子達はどうなるのだろう。
そう考えると、うさぎの心は再び揺れるのだった。

そうして、どのぐらいの時間が過ぎたのだろう。
うさぎはいつの間にか、一軒の家のそばに来ていた。
裏に狭い畑を持つ、小さな家である。

「やあい、じじいがばばあ汁食った。流しの下の骨を見ろ」

その時、家の中から聞こえてきた、悪意混じりにはやし立てる声にうさぎは足を止めた。
その声は、聞き覚えのあるものだった。忘れ得ようはずもない、あのたぬきの声である。

(たぬき……?)

何故こんなところに、とうさぎが足を止めていると、家の中から素早く飛び出してくる者がいた。
うさぎは目を見張った。
それは、まぎれもなく、あのたぬきだった。
たぬきはうさぎの存在に気付いた様子もなく、風のように走り去って行ってあっという間に見えなくなった。

あ然としていると、家の中からおいおいと泣く声が聞こえる。
うさぎがそっと中をのぞいて見ると、へたりこんで泣いている老人の姿があった。

「おじいさん、どうしたんです?」

その姿のあまりに痛々しさに、うさぎは、おずおずと声をかけていた。

老人の話は、だいたい以下のような内容だった。

老人はたぬきに畑を荒らされ、ほとほと困っていたという。
そこで松やにを塗ってたぬきを捕らえ、天井から吊るすと、妻である老婆に見張っておくよう言いつけ、畑仕事に戻った。
たぬきは今夜、たぬき汁にしてしまうつもりだった。
畑仕事が一段落して家に戻ってみると、すでにたぬき汁ができていて、老婆にすすめられるまま口にした。
途端、老婆だと思っていたものがたぬきの正体を現し、先ほどの言葉を浴びせて逃げて行った。
その上。

「わしは、わしは、ばあさんを……」

うさぎは、ぎょっとして鍋の中に目をやった。
ざく切りの長ねぎに混じって、汁の中に……はっきりと認識する前に、うさぎは慌てて目をそらした。
たぬきのはやし立てた言葉の意味を理解し、顔をしかめる。

「わしがすぐにたぬきを殺していたら、きっと、こんなことにはならなんだ。ばあさんが死んだのはわしのせいだ!」

老人は再びぼろぼろと涙を流し始める。
その姿を見たうさぎの胸が、ずきりと痛んだ。

(ぼくのせいだ。ぼくが、あの時たぬきを殺すのをためらったから、この人は不幸になったんだ)

自分があの時余計なことを考えず、すぐにたぬきを殺していたなら、こんな事は起こらなかったのだ。
そう思うと、罪悪感できりきりと胸がしめつけられる。

「……おじいさん」

うさぎは、嘆き続ける老人の肩にそっと触れた。
老人は、涙で塗れた小さな目をしばたたかせ、うさぎを見つめた。

「泣かないでください。僕がきっと、おばあさんの仇を取ってあげますから」

うさぎがそう言ったのは、正義感からではなく、罪の意識からだった。

「ありがとう、ありがとう……」

老人はうさぎの前に身を投げ出し、むせび泣いた。
その背中をゆっくりとさすってやりながら、うさぎは目を閉じた。

もう迷わない。あのたぬきを殺そう。
自身の仇討ちと、目の前の老人への償いのために。
兄の子まで含めた八つの子を養う身だから、どうだというのだ。やはり奴は悪党ではないか。
許して見逃せば、きっとまた悪事をはたらくだろう。そして誰かがまた泣くのだ。この老人のように。
これ以上の悲劇を起させないためにも、引導を渡さなければ。

仇討ちすべきか、やめるべきか。
揺れ続けていた天秤が、ついに傾いた瞬間だった。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
うさぎの心の中の天秤の描写と、うさぎとたぬきのそれぞれの立ち位置。
読み入ってしまいました。
なんと言うか……鍋は味噌味と醤油味のどちらか。なんてボケも場違いな展開。
これでハッピーエンドじゃない。確かに大円団は無理ですね↓
たろすけ(すけピン)
2010/02/14 22:45
恐ろしいだろ……これ、原作にちゃんと書いてあるんだぜ……<鍋
ホントに幼児向けのやつだと、おばあさん殺しただけで終わってますけどね。
調べたらいくつかパターンがあって、どれを採用するか迷いましたよ。

さあ、後は暗いエンディングに向かってまっしぐらだ!
鈴藤 由愛
2010/02/15 07:14
うさぎ物語〜かちかち山異聞4〜 プラスマイナス1/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる