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zoom RSS うさぎ物語〜かちかち山異聞3〜

<<   作成日時 : 2010/02/07 14:24   >>

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うさぎがたぬき達に案内されたのは、実にみすぼらしい小屋だった。
壁や屋根として使われている木の板は腐っており、小屋の中はすえたような変な臭いが充満している。
うさぎはこっそり顔をしかめながら、生活が苦しいことを察した。

「食わせるもんは何もねえ」と言っていたたぬきだが、彼は、子だぬき達のために作ったかゆを、うさぎにも振舞った。
かゆと言っても、味など無さそうな、ほとんどお湯のような薄いかゆである。
美味いまずい以前に、仇からもらう食べ物など口に入れたくない。
うさぎは「ぼくはいいから、子供らにやってくれ」と返してしまった。

子だぬき達は薄いかゆで腹を満たすと、小屋のすみに積まれたわらの上で雑魚寝になり、やがてぐうぐう寝息を立て始めた。
眠ってくれてよかった、とうさぎは思った。
子供の起きて見ている前で父親を殺すのは、やはり忍びない。

さて、あとは機会を待つばかりである。
(大丈夫、夜明けまでにはこいつも眠るだろう)
ふところに忍ばせた小刀に触れ、うさぎは腹に力を入れた。

「……行商ってのも、大変だろう」

すきをうかがっていたうさぎは、たぬきに突然話しかけられ、ぎょっとした。

「あ、ああ」
「いっぺんやったことがあるからよ、わかるんだ。きのこを持って行ったが、上手くいかなかったぜ。安く買いたたかれちまってよ」
「そ、そりゃ、骨折り損だったな」

ぎこちなく相づちを打つうさぎに、たぬきは苦笑いを浮かべる。

「がきが多いから、びびってんのか?」

それから、雑魚寝している子だぬき達をちらりと見やる。

「兄貴が置いて行ったがきと、俺のがき、合わせて八つだ。俺のがきは一番年かさのやつでな、あとはみんな兄貴のがきだ」

たぬきは枝をへし折り、囲炉裏にくべる。

「ああ、その、兄弟がいるのか」

うさぎが緊張に震える声で話を合わせると、たぬきは一つ、うなずいた。

「ああ。何年も前にいきなり来て、置いて行ったんだ。それっきり行方知れずよ。昔っから自分勝手で駄目な奴だったが、これほどとはな」
「そ……そうか。こんなにいると、食わせるのも大変だろう」
「まったくだ」

たぬきは辛そうにため息をつく。

「俺には学がねえから、何やっても大した稼ぎにならねえ。あんな薄いかゆを食わせてやるだけで、精一杯だ。情けなくて、涙が出てくらぁ」

一瞬だけしかめられる、たぬきの顔。

「だからよ、がきを食わせるためなら、俺は何でもやるぜ。女房も死んじまった以上、こいつらにゃ、俺しか頼れる相手はいねえんだしな」
「年寄りの弱みを握って、ゆすりやたかりもするのか?」

うさぎは、思わず問いかけていた。
たぬきは小さな目を丸くしてうさぎを見ていたが、やがて、顔をそむけ、息を吐いた。

「……その時になってみなきゃ、わからねえよ。だが、最低だ。なるべくならやりたくねえな」

と、深刻そうな顔で、押し出すように答えた。

(やっただろう!?)

うさぎはたぬきの胸倉をつかみ、罵倒したかった。

(ぼくのおばあさんを殺したこと、忘れたとでもいうのか!?)

許せない、という気持ちが、急速にうさぎの中でふくらんだ。
うさぎは、小刀をふところから取り出した。
まだこちらを見ないたぬきに、うさぎの行動に気付いた様子はない。
音を立てないよう、うさぎはゆっくりとさやから刃を引き抜いていく。

「……ん」

その先の行動を押しとどめたのは、子だぬきが上げた小さな声だった。
見ると、年かさの子だぬきが、もぞもぞと寝返りを打っていた。
寝相が良くないのか、わらの上から転がり落ちそうになっている。

「ほら、風邪ひくぞ」

たぬきはそう言って年かさの子だぬきの元へ行き、寝相を直してやっていた。
うさぎから見ると、完全に背中ががら空きである。

今こそ、絶好の機会だ。

しかし、うさぎは動けなかった。
その様子を見た途端、脳裏に幼い頃のことがよぎったためである。
うさぎは寝相の悪いふりをして、おばあさんうさぎにかまってもらうのが何より好きだった。
「仕方のない子だねえ」と言いながら寝相を直され、頭をなでられると、えもいわれぬ幸福感に満たされたものだ。

あの子だぬきも、そんな気持ちなのだろうか。
――うさぎの心臓が、ずきり、と痛んだ。

「ぼ、ぼくは外で寝かせてもらうよ」

気付くとうさぎは、そう口走っていた。
何故そんなことを言ったのか、自分でもわからない。

「あ? 何言ってんだ、外は冷えるぞ」
「慣れているからいいんだ。じゃあ、おやすみ!」

けげんな顔をするたぬきを後にして、うさぎは小屋を飛び出した。
飛び出した勢いそのままに、がむしゃらに走り続ける。
たとえ石につまづいて転ぼうとも、夜露に濡れた草を踏んで滑ろうとも、うさぎの足は止まらない。
手に持っていたはずの小刀は、どこで落としたのか、いつの間にか失われていた。

涙が止まらない。
心臓が、きしむように痛い。
いつしかうさぎは、悲鳴を上げていた。

(できない! ぼくがあいつを殺したら、親のない子が出るだけだ!)

親のない子に向けられる偏見と差別の酷さを、うさぎはよく知っていた。
しかし、おばあさんうさぎのことを思うと、悔しさと怒りがこみ上げてくる。

(ぼくがやらなきゃ、おばあさんの無念はどうなるんだ! 意気地なしめ!)

嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼。
二つの意思に苦しみながら、うさぎの夜は過ぎていく。

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
切ない葛藤ですね。。。
たぬきにしてみれば知らないうちに命拾いしていますが、うさぎにとっては仕切り直しですね。
うさぎの出す答えに、彼自身の成長を期待します。
たろすけ(すけピン)
2010/02/09 00:14
今回あたりで最終回かと思ってたら、思い止まりましたね。
外で寝るとは、かえって怪しいかも(笑)
銀河径一郎
2010/02/09 19:41
>たろすけ(すけピン)様
復讐モノには葛藤がつきものなのです。
うさぎは今後どんな答えを出すでしょうか。
でもどんな答えが出ても、ハッピーエンドにはなりません。悲しきや。

>銀河径一郎様
ええ、まだ続きますよ。原作の部分がまだ出てきてませんからね。
実は、作者が他に思いつかなかっただけだったりして……<外で寝る
鈴藤 由愛
2010/02/09 22:26
ご無沙汰していました。
PCがトラブっちゃって……文明の利器ってのも不便なもんです。
いつの間にか完結編が出来ているんですね。
サスペンスタッチで面白いです!きっとこのタヌキは犯人じゃないんだろうな、ムフフ……とか思いながら読んでいます(^^
ゆっくりと読ませてもらいますね。
まずはご挨拶まで。
ia.
2010/03/21 03:54
PCが壊れるとオーマイガッて叫びたくなりますよね、わかります。
テーマが復讐なんで、サスペンスタッチで書いてます。
で。キリ良く十話で終わらせようかと思ってたんですが、引き伸ばしてもなあ、ということで全九話で完結させました。
犯人については……最終話を読むまでのお楽しみということで。
鈴藤 由愛
2010/03/21 08:53
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