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zoom RSS うさぎ物語〜かちかち山異聞〜1

<<   作成日時 : 2010/01/23 23:14   >>

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昔、ある山に、おばあさんうさぎと幼い子うさぎが住んでいた。

子うさぎには、一つ、不思議に思っていることがあった。
おばあさんうさぎが時折、かごにたくさんの野菜を入れて山奥に持って行くことである。

「おばあさん、どうして山の中に野菜を持って行くの?」

子うさぎが尋ねると、おばあさんうさぎは決まって、

「ああ、あれは山の神様にお供えしているんだよ」

と答えた。

「山の神様って、どんな姿なんだろう」

いつしか子うさぎは、山の神様を見てみたいと思うようになっていた。
しかし、どんなに頼んでも、おばあさんうさぎは一緒に連れて行ってはくれない。

「ぼくも行きたい」
「見たいよ、ぼくも山の神様見てみたいよ」
「おばあさんだけ会えるなんて、そんなのずるいよ」

「山奥は危ないんだよ。いい子にして待っておいで」

泣いてもわめいても、寝転がって手足をばたばたさせても、おばあさんうさぎは連れて行ってはくれない。
ある日、とうとう我慢できなくなった子うさぎは、こっそり後をつけていくことにした。

(もし見つかったら、ごめんなさいって言えばいいよね)

優しいおばあさんは、ちゃんと謝れば許してくれる――子うさぎはそう考えていた。

そうしておばあさんうさぎの後をつけて行き、子うさぎがたどり着いたのは、がけの上だった。

(山の神様って、こんなところにいるんだ)

子うさぎはどきどきしながら草むらに身を潜め、『その時』を待つことにした。

「やっと来たか」

その時、知らない奴の声が聞こえてきて、子うさぎは草のすき間から様子をうかがった。

(もしかして、山の神様!?)

一瞬胸が高鳴ったものの、子うさぎは、すぐにがっかりした。
声の主は、みのと笠を身につけた、一匹のたぬきだったのである。

(きっと、今日は神様が来ないんだ)

がっかりして帰ろうとした子うさぎは、次に起きた出来事に、足を止めざるを得なかった。

「今月は、これぐらいでどうか勘忍しておくれ……」

おばあさんうさぎが、声を震わせながら、持ってきた野菜をたぬきに差し出したのである。
たぬきは差し出された野菜を見て、明らかに不満そうな顔をした。

「おい、こないだより少ねえじゃねえか」
「今月は苦しくて、これだけしか用意できなかったんだよ。許しておくれ」
「てめえの都合なんか知ったことか。約束通り持ってこい」
「そんな……」
「あ? 何だよその目は。逆らおうってのか」

たぬきはおばあさんうさぎを小突き、しりもちをつかせた。

「てめえの息子がやった盗みを見逃してやった恩を忘れたのか? 誰のおかげで、息子は泥棒だって世間様に知られることなく死ねたと思ってるんだ? ええ?」
「やめておくれっ」

顔を覆って泣き出すおばあさんうさぎの声は、悲鳴に近い。

「もし親父が泥棒だって知れたら、孫は世間からどう見られるかねえ? 犯罪者のがきだなんて、白い目で見られるもんだぜ?」

たぬきは嫌な笑顔を浮かべながら、おばあさんうさぎの周りを回ってそんな言葉を吐きかける。

(ぼくのお父さんが、泥棒……?)

聞いていた子うさぎは、頭の中をかき回されるようだった。
実は、父親について、「病気で死んだ」としか知らされていなかったためである。

「そうなりゃ、がきも親父と同じ道を……お?」

たぬきは、くんくん、と鼻を鳴らした。

「てめえ、何か隠してるだろう」

しくしく泣いていたおばあさんうさぎが、身をこわばらせる。
たぬきは、おばあさんうさぎのふところに手を入れると、紙にくるまれた物を取り出し、広げた。

「おっ、干しいもか。良いもん持ってるじゃねえかよ」
「やめておくれ、それは、孫にあげるために……!」

おばあさんうさぎは、いきなりたぬきにつかみかかる。

「何しやがる、ばばあ!」
「返しておくれ、それは孫にあげるんだよ!」

たぬきとおばあさんうさぎは、がけっぷちのすぐそばで、もみ合いになった。

「離せ、くそばばあ!」
「返して、返しておくれ!」
「うるせえんだよ!」

いらついた口調で叫んだたぬきは、思い切りおばあさんうさぎを突き飛ばした。
――がけっぷちから。

(え……?)

子うさぎは、頭が真っ白になった。
一回まばたきをする間に、おばあさんうさぎの姿は消えていた。
たぬきは、戸惑いうろたえた様子をみせた後、野菜を持ってそこから走り去っていった。

子うさぎは、しばらく動けなかった。
目の前で起きたことが、にわかには受け入れられなかった。
たった一人の家族である、大好きなおばあさんうさぎが、がけから突き落とされたなんて。
こんなにもあっさり、いなくなってしまうなんて。

「おばあさーん!!」

子うさぎは泣いてがけに駆け寄り、下を見た。
がけの下は木々がおいしげり、おばあさんうさぎの姿は、もうどこにも見えなかった。

子うさぎは、泣いた。
声がかれて、目が痛くなって、呼吸がおかしくなりかけても、わんわん泣き続けた。

――子うさぎが泣くのをやめたのは、夕暮れが差し迫ってきた頃のこと。
しゃくり上げていた子うさぎは、突如、ゆらりと立ち上がり、涙でぐしゃぐしゃになった頬をぐいとこすった。

(復讐、してやる)

そう誓う目は、幼い子うさぎのものではなかった。

(絶対許さない……!)

子うさぎの目がふだんより赤く見えたのは、夕日のためか、それとも泣き過ぎたためか、定かではない。

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
なかなか黒いオープニングですね。
この先どうなるのか、ゾクゾクします。
頑張れ、子ウサギ!
悪いタヌキにリベンジだ〜!
ia.
2010/01/27 03:32
うさぎがたぬきをあそこまでボコボコにする理由をこじつけてみた結果です。<黒い
今回は短め連載で終わりますよ。
でもって、今から言うのもあれですが、このお話はハッピーエンドではありません。
ギャー。
鈴藤 由愛
2010/01/27 20:16
おばあさんウサギの抵抗に、以前、近所で発生した引ったくりを思い出しました。
バッグを離さなかったおばあさんは、バイクに引きずられて肩を脱臼したそうです。
逆らっちゃダメなんだってばよ。

えっ、ハッピーじゃないの?そんなあ。

子ウサギ〜
つる
2010/01/28 01:39
そういう話を聞くたびに、やるせない気持ちになりますね。<ひったくり犯人は捕まったのかな?

今回は復讐がテーマになりますんで、根っからのハッピーエンドにするのもいかんかなあ、という気がしたんですハイ。
鈴藤 由愛
2010/01/28 20:04
いきなり父さんが泥棒だったなんてシビアな設定ですね。
ハッピーエンドじゃないのか、どうなるか気になります!
銀河径一郎
2010/01/28 22:42
その父さんうさぎは、貧しさ故に泥棒をしていたという悲しい裏設定があったりなかったり。
ハッピーエンドではないです、それだけは決定済み。はい。
鈴藤 由愛
2010/01/29 20:08
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