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zoom RSS 三周年記念リクエスト:2 「ラブ・ミー・ドゥ」〜ia.様に捧ぐ。〜

<<   作成日時 : 2009/12/12 16:05   >>

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*この話は、ia.様からリクエストいただいた「マネキン」という内容で書いたお話です。




暗い部屋の中、男は何やらぶつぶつと呪文のようなものをとなえていた。
しばらくすると、嫌な臭いのする煙がもくもくと立ち昇り、真っ黒い大きな体にこうもりの羽根と二本の角を生やした、一般に悪魔と呼ばれる存在が姿を現した。

「何の用だ。くだらん用事だったら貴様の首をへし折るぞ」

あまり虫の居所が良くなさそうである。
男は、猫に狙われる小さなネズミのようにぶるぶる震えながら、悪魔を見上げた。

「あの、その、実は、かなえて欲しい願いがありまして」
「ふん。かなえてやるかどうかは俺様次第だがな。まあ良い、聞くだけは聞いてやる」
「あ、ありがとうございます」

男はひれ伏さんばかりに頭を下げると、震える声で願い事を口にした。

「僕の見た目を、変えて欲しいんです」

悪魔はじろりと男を見下ろした。

「はあ……なるほど。確かに、女には相手にされないだろうな」

悪魔の言うとおりだった。
男は、お世辞にも整っているとはいえない顔にメガネをかけ、おまけに背が低くずんぐりむっくりした体型である。
自分の姿の醜さを自覚していても、はっきりと指摘されればやはり傷つく。
男はたちまち、ぐずぐずと鼻を鳴らし始めた。

「ええい、うっとおしい奴め、不細工な顔で泣くな!」

いらついた悪魔の声が、部屋を揺らす。
男は「ひいっ」と小さくつぶやいて、なんとか涙を引っ込めた。

「だ、だから、僕を、かっこ良くして欲しいんです……」
「お断りだ。お前を良い男にしたところで、俺様にはなーんの得もない」

すげなく断られ、男はまたぐずぐずと鼻を鳴らし始めた。

「そう落ち込むな。良い物をくれてやろう」

悪魔はそう言うと、手を一振りする。
すると、男の前に一体のマネキン人形が現れた。
目鼻も髪の毛も体の丸みもラインもない、実にシンプルなマネキン人形である。

「人間に愛してもらうのは無理だから、人形を相手にしろって言うんですか!?」

男が顔を真っ赤にして激怒すると、悪魔はにやりと笑みを浮かべた。

「違う違う。心から愛してくれるきれいな女を、一から作り上げるのさ」

悪魔はするどい爪のある人差し指を立て、説明を始めた。

悪魔の話によると、五十日の間、このマネキン人形を本物の女のように大事に扱い続ければ、本物の人間になるのだという。
人間になった後は、尽くしてくれた男のことを誠実に愛し返してくれるらしい。

「大事に扱うって、一体どうすれば……」
「さあな。お前ら人間の男ってのは、女にきれいな服を着せてやったり、常日頃一緒にいて甘い愛の言葉をささやいてやったり、寝る時には一緒のベッドで寝たりするんじゃないのか」

悪魔はたいして興味もなさそうに答える。

「お前には、こいつがおあつらえ向きだろうよ。見た目を良くしたって、このご時世、人間の間じゃ真実の愛なんかそうそう見つからんしな」

悪魔は真っ赤な口を開けて笑うと、すっと消えてしまった。
後に残ったのは、マネキン人形と男だけである。


男は半信半疑だったが、悪魔の言う通りにしてみた。

住んでいるアパートの部屋にマネキン人形を持ち帰り、とりあえず自分の持っている服を着せ、一日中同じ部屋で過ごし、夜には同じベッドに寝かせてみた。
翌朝目を覚ますと、シンプルきわまりなかったマネキン人形の体には、胸のふくらみとヒップの丸みができていた。

「これはすごい。もしかして、本当に人間になるんじゃ……」

日を追うごとに、マネキン人形は人間の女らしく変わっていった。
健康そうな皮膚の色がつき、手足はすんなりと細くなり、豊かな黒髪が生え、二重のまぶたと通った鼻筋、形の良い唇が出来上がり……この頃になると、男はマネキン人形にのめりこんでいた。

朝起きたらまずマネキン人形を着替えさせ、朝食をとりながら優しく話しかけ、仕事に行く前にはキスをする。
仕事はなるべく残業をしなくて済むよう張り切ってこなし、定時で上がってまっすぐ帰宅。
帰ったらまずマネキン人形にキスをし、隣に座らせて共にテレビを見たりして過ごす。
もちろん、眠る時は一緒のベッドだ。
また、休日には「きれいな服を着せてあげなきゃ」と、デパートの婦人服売り場にためらうことなく入り、服はもちろん、下着まで買いそろえたりもした。

周囲から奇異の目を向けられ、使い道もなく貯めていた給料がどんどん消えていったが、全く苦にはならなかった。


そうして、いよいよ明日で五十日に達するという日。
男はパジャマを着せたマネキン人形を優しくベッドに横たえ、その隣に寝転がった。

「明日になれば、君は人間だよ」

男は優しくささやき、マネキン人形の頬に軽く触れるようなキスをする。
マネキン人形の体は、すでに血の通った温かさを持っていた。
明日起きたら、人間になった彼女に何を言おう、と期待に胸をふくらませながら、男は目を閉じた。


――その時、男の暮らすアパートの部屋のインターホンが鳴らされた。


こんな時間に誰だろう。
男は不機嫌に起き出し、のぞき穴から外の様子をうかがい、ハッとした。
そこに立っていたのが、悲痛な面持ちをした男の両親だったからだ。

(何か、緊急の用事でもあるのかもしれない)と、男はドアを開けた。

「急にどうしたんだよ、電話してくれれば迎えに行ったのに」

すると、両親はそろそろと顔を見合わせ、気まずそうに視線を交わした。

「……ごめんね、あながそんなに悩んでいたなんて、気づかなくて……」

やがて、気遣わしげに母親が言う。

「え?」
「でも、ね。女の人に見向きもされないからって、そんなに気に病むことないのよ。いつかは見た目なんか関係なしに、あなたを思ってくれる人がきっと……」

母親は最後まで言い切れず、う、う、と泣き出してしまった。
どうして泣くのか理解できず、男がうろたえていると、父親は意を決した様子で、ずかずかと部屋の中に入り込んだ。

「父さん、一体何だよ?」

父親は男にかまわず部屋を見渡すと、とある一点に向かって動き出した。
ベッドに横たえられた、マネキン人形へ。

「父さん!?」

父親が乱暴にマネキン人形を引きずり出したのを見て、男は青くなった。

「父さん、何するんだよ!」
「お前の噂を聞いて来たんだ。女にもてないのを気に病んで、マネキンを彼女代わりにしてる、ってな」

男は目を丸くした。

「な、何言ってるんだよ。彼女はただのマネキンじゃない、もうすぐ人間になるんだ」

そう、あと何時間かすれば、両親に生まれて初めての恋人を紹介できるのだ。
きっと、「なんてきれいな人なの」なんて喜んでくれるに違いない。

――男は、もうすぐ起こる奇跡のことで頭が一杯で、冷静に考えられなくなっていた。
マネキン人形が人間になるなんて、普通は信じられないものだということを。


「……ね、病院、行きましょう。あなた、一人暮らししてから苦労し通しで、疲れてるのよ、ね」

母親に腕を取られ、男はぎょっとした。
女にもてないあまり、精神的に異常をきたしたと思われているのだ。

「何言うんだよ母さん! 彼女はもうちょっとしたら人間になるんだよ! 本当だよ、明日になればわかるよ!」

男の主張に、母親は涙に濡れた顔を悲痛そうにゆがめる。

「とにかくこんな事はもうやめるんだ! こんなマネキンなんかに夢中になって……!」

男を叱り付け、父親がマネキン人形を抱えて部屋を出ようとした途端――。

「うわああああ!!」

男は、父親を殴り飛ばしていた。

「あなた!」

母親は殴られた父親のそばに駆け寄り、男は床に落ちたマネキン人形を抱き上げる。

「やめろよ、やめろぉ! もう少しで人間になるんだよっ、そんなに乱暴に扱うなよ! 愛情をこめなきゃ、彼女は人間にならないんだよ!」

男にとっては、紛れもない真実の叫びだった。
しかし、それを聞いた一般的な人間が、果たして何を思うだろうか。

両親が息子に向ける眼差しは、たちまち凍りついた。

「現実に目を向けろ、マネキンが人間になるわけないだろうっ!」
「出て行けよ、彼女に乱暴したら許さないからな!」
「私が……私が……そんな顔に生んだから……母さんが悪いのよ、ごめんね、ごめんね……うう……」

怒声、泣き声、罵声、悲鳴――それらを聞いた人間が集まり出すまでに、そう時間はかからなかった。
男はマネキン人形から引き離され、両親だけではなく、アパートの住人達にまで押さえ込まれて病院に担ぎ込まれてしまった。

「どうして誰も信じてくれないんだ!? 本当なんだ、明日になったら、彼女は人間になるんだよ!」

そうわめき散らしながら。


――男と、その両親が病院に行ってしばらくした後。
野次馬も立ち去り、元の静けさを取り戻した男の部屋に、大家が姿を現した。
開けっ放しでは不用心ということで、鍵をかけておこうと考えたのである。
やってきた大家は、男が大事にしていたというマネキン人形がどんな物か、ひょいと部屋をのぞいて探してみた。

しかし、そこには、顔もなければ体のラインもない、実にシンプルなマネキン人形が一体転がっているだけだった。

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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
実はタイアップということでリクエストいただいてたんですが……どうしましょ。
つ、つ、使えるとこあったら使ってくださーい!(逃走)
鈴藤 由愛
2009/12/12 16:11
うわ……。これ、すごくせつないです。胸がきゅんとしました。
由愛さんはいつもおもしろいお話を書かれますが、個人的には今回がピカイチかも……。
最終的には悪魔の狙いどおりだったのかな。それとも……。やっぱりせつないです。
七花
2009/12/12 21:25
ほめられて浮かれてイヤッホウな状態です。

この男うっとおしいとか言われる覚悟で書いたので、正直ホッとしてます。<せつない

悪魔の役目はささやいたりそそのかしたりするだけだそうですからねえ、結果は人間次第、な気がします。
でも、どっかでニタリと笑ってるかも。
鈴藤 由愛
2009/12/12 21:59
面白かったです!
この前のクリスマスの話もヒネリが効いてて面白かったですが、今回はヒネリすぎない切れの良さがあって、また違った面白さでした。
すごいなぁ。
リクエストに応えていただいてありがとうございました。
「使っても良い」とおっしゃっていただけたと言うことは、マネキン・コラボ作品としてリンクさせてもらっても良いですか?
ia.
2009/12/13 02:04
ひいいい〜、怒られなくて良かったあああ!

今回はあまりヒネれなかったのです。
でもヒネリ入れないとつまんないって言われるかな〜ああ〜とかグダグタ考えてました。

こげな話で良ければリンクして下さいまし。
鈴藤 由愛
2009/12/13 07:22
悲惨な話ですが読み物としてよかったです!

てっきりピュグマリオン効果キターッと思ったらあっさり勘違いだったんですねえ。
悪魔は簡単に呼べるんですねえ。寝言で来ちゃったらどうしよう(笑)

銀河径一郎
2009/12/13 15:48
ピュグマリオン落ちではつまらなかったので、惜しいところで失敗させました。
まー、愛情が報われるとは限らない、ということで。

悪魔の呼び方にはいろいろ手順があるんですが、きっちり書くとめんどくさい&実行されたら困るので、省きました。
……寝言で呼べたら、「このやろう、呼んどいて寝てるんじゃねえ」って悪魔に殺されそうだ、うん。
鈴藤 由愛
2009/12/13 16:07
不思議ね。
この、どうみてもオタクな男が嫌いになれないのよ。最後には、いっしょになって「一日だけ待って」と心で叫びながら読んでました。
信じてましたよ。人間になるって。

どこからそんな気持ちになったのか、何度も何度も、読み返しました。謎だわ〜
まんまと、由愛ワールドにはめられたってことね。
つる
2009/12/14 00:58
リンクを了承していただきありがとうございます。
うちのマネキン記事の1行目にリンクを貼らせていただきました☆
ia.
2009/12/14 01:11
つる様>ふふふ、よくぞ我が世界に来たな、勇者よ!(特に意味はない)
このかわいそうな男に共感してもらえたなら幸いです。
嫌いになれないのは、人形に一心に尽くしてるあたりのせいかな、とも思ったりして。

ia.様>リンクありがとうございます〜。
って、一行目! なぜか責任を感じる!
鈴藤 由愛
2009/12/14 07:09
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