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zoom RSS もりのくまさん・エピローグ

<<   作成日時 : 2009/08/15 17:47   >>

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――巡り巡りて、季節は春。

春先の港町は、冬の間に行き来が出来なかった場所の船がやって来て、一気に賑やかになる。
活気に満ちた通りでは、物売りの声が盛んに聞こえる。
人が増えるとつまらないいさかいも増えるものだが、それすらも活気の一部として町は取り込んでいた。

そんな港町にある、赤レンガでできた病院。
車椅子に乗ったエレンが、病室の窓からそんな風景を見つめていた。
寝巻きから露出した手や足、顔には多数の傷跡が見え、白い眼帯で片目を覆っているものの、エレンはもう片方の目で、しっかりと物を見ている。
顔色も赤みがあり、傷跡こそあれど、かつての青白いやせこけた面影は微塵もない。

「エレンさんの怪我はだいぶ回復しましたからね、もうそろそろ退院できますよ」

診察室で若い医者の説明を聞きながら、男が「そうか」と短く答える。
ぼさぼさだった髪を短く刈り、ヒゲを剃ったので、熊みたいな印象は薄らいでいる。

「野良犬に襲われたなんて、不幸なことでしたね……」

はあ、と医者が気の毒そうにため息をつく。

この医者はエレンについて、「とある金持ちに買われ、暴行を受けて逃げ出したところを男に助けられ、その後運の悪いことに野良犬に襲われた」と信じている。
細かいところまで説明すると後々面倒だから、と男が大まかに説明した結果である。

男は、これまでのことにふっと思いを巡らせる。

あの後、男は大急ぎで小屋に戻り、死にかけていたエレンを抱え、最初に彼女を診察した老いた医者のところに駆け込んだ。
医者は関わりたくないと言い張ったが、男に脅されて「紹介状を書いてやるから、あとはそいつのところで診てもらえ」という条件を出し、渋々手当てを施した。
他に頼める人間もおらず、男はエレンを連れて遠く離れたこの港町までやってきて、そのまま何となく部屋を借り、家賃を稼ぐために仕事につき……結局、冬を越してしまった。

妻でも恋人でもない女に、どうしてそこまで尽くしてやるのか。
明確な理由を求められると、男はたちまち黙り込む。
ただ、何となくなのだ。何となく、「じゃああとは一人でがんばれ」と放り出せないのだ。

――我ながら、謎だ。
この辺りを突き詰めようとすると、男は決まって途中で「良心がとがめるんだろうさ」と思考を切り上げてしまうのだった。

「残念ながら、体の傷は残ってしまいました」

医者は真剣な眼差しを男に向ける。

「ですが、傷があろうとエレンさんはエレンさんです。どうか一生大事にしてあげて下さい。エレンさんには、恋人であるあなたの愛が、支えが必要なんです」

――ちょっと待て。
医者の言葉に、男は目を真ん丸くして沈黙した後、「いや……」と、そういう関係ではない事を話そうとした。

それが、余計な混乱を招くとも知らず。

「まさか恋人を見捨てるっていうんですか!?」「違う」「傷物だから愛せないなんて身勝手過ぎる!」「落ち着け」「同じ男として許せない!」「いや、だから」「この腐れ外道! 冷血漢め!」「待て」「人として最低だ!」「だから」「彼女に誓った愛は偽りだと!?」「話を聞け」

医者はわめき、男は目を真ん丸くしたままなだめにかかる。

「先生、どうかしました……きゃーっ!」「何やってるんですか先生!」「離せ! この人でなしめ、天に代わって成敗してくれる!」「一体どうしたんですか」「先生がいつもの先生じゃないわ……」「傷物になったからといって恋人を見捨てるような奴は許せん! そこになおれ!」「まあっ、そうなんですか!?」「何てひどい人なの!」「……誤解だ……」

「ら、ら、らあ、ら、ら、ら、らあ、ら」

不毛なやり取りをよそに、窓の外から聞こえる鳥のさえずりに合わせて、女は歌っていた。


――暖かな光の降り注ぐ、ある春の日の午後のこと。


<完>


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コメント(7件)

内 容 ニックネーム/日時
全四話の予定が六話になっちまったぜ!
二人がくっついたかどうかはご想像にお任せということで♪

……次の話どうすっかなー。
鈴藤 由愛
2009/08/15 17:50
完結、おつかれさまです!
おだやかな日々が訪れてよかった。最後のドタバタがいい感じのアクセントになったラストでした。
わあ、次はなに?楽しみにしています。
つる
2009/08/19 02:33
ラストは絶対ドタバタで終わらせようって思っていたので、書ききれて良かったですわ。
原案の時は悲惨なラストでしたからな……(遠い目)

次回は……まだなーんにもアイディアが浮かんできません。
今週の更新が既にヤバイ。
鈴藤 由愛
2009/08/19 06:08
ご無沙汰してます。
まずは完結おめでとうございます!
猟師が熊に変身するところはびっくりしましたよ!全く予想できなかったです。
おかげで最後は医者まで何かに変身するのかと深読みしましたが(笑)

ドタバタな雰囲気で終わるのも面白いですね。
銀河系一朗
2009/08/28 22:15
お久しぶりです〜。
未完で放置というパターンが増えて来てたところなので、完結できてホッとしちょります。
心残りな点としては、熊の変身シーンをもっとじっくり書きたかった……。
しかし医者まで変身というのは考えてもみなかった!

重苦しくてハードな始まりだったので明るい終わり方にしてみました。
猟師の性格なら絶対こういう反応するよな! とか考えながら。
鈴藤 由愛
2009/08/29 07:07
おもしろかったです。
最後のシーン、熊さんはまんざらでもなかったんじゃないでしょうか?
でも自分は熊みたいなやつだし(っていうか実際に熊だし)女の子には好かれないタイプだと、逃げ腰になっちゃってる……みたいな感じがしました。
きっとめでたしめでたしですね♪

あと、三周年なんですね。おめでとうございます。
コツコツ頑張られていて、ほんとスゴイです!
七花
2009/11/08 22:14
めでたしめでたし、ですよ。
なんだかんだ言って、熊はエレンの面倒みていそうな気がしますねえ。
で、周りがそれ見て夫婦か恋人だって思いこむ、みたいな。

ありがとうございます。
何かをながーく続けるのは得意な性分なものでして、気がつきゃ三年ですよ。

次は四周年目指します!
鈴藤 由愛
2009/11/09 06:47
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