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zoom RSS もりのくまさん・転

<<   作成日時 : 2009/08/08 17:33   >>

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「エレンが見つかりました」

――高価な敷物の上に、素晴らしい作りの調度品の置かれた部屋。
その中央で大きな椅子に深く腰掛けたマードック家の当主は、部下の報告に笑みを浮かべた。
仕立ての良いスーツに身を包んだ、美しい金髪に青い瞳の若い男である。
その特徴だけなら美青年を思い浮かべる者も多いだろうが、当主の顔立ちは、美しい金髪という長所をもってしても帳消しに出来ぬ程の醜さだった。

「そうかあ。どこにいるんだい」

おまけに喋り方はもたついていて、言葉の端に愚鈍さがにじみ出ている。

「森にいます。男がかくまっている様子です……何でも、熊みたいな男だとか」

「へえ」

当主はつまらなそうな顔で、足元に転がった物体を蹴り上げる。
鈍い音と同時に、ぐっ、とくぐもった声が上がる。
……マードック家当主の足元に転がっている物体は、少女だった。
頭を両手で押さえて体を丸め、ひどい仕打ちに耐えている。

「……いかがなさいますか」

「そうだなあ。いつもの連中に、ここに集まれって伝えておいて」

当主は笑みを浮かべる。
笑顔というのは普通、人間を最も魅力的に見せる表情だが、当主の場合、よりいっそう醜さが増しただけだった。

「近いうちに狩りに行くからさ」

狩り――マードック家の当主が一番気に入っている遊びである。
買った女をいたぶり尽くしてわざと逃がし、女が見つかったらお気に入りの部下を引き連れて殺しに行く。
それを指して『狩り』と呼んでいた。

野に生きるものが生活の糧を得るために行うそれとは違う、単に残酷な欲望を満たすためだけの、およそ上品さとはかけ離れた趣味。

「今回は、ついでに熊狩りといこうよ」

彼の言う熊が、動物の熊を指したものではないことは明らかだろう。
当主の目には凶暴な光が宿っていた。

「……う……う……」

かすかなうめき声に、当主はちらりと足元の少女を見下ろした。
少女は、悪寒に震える病人のように、ぶるぶると震えるばかりだ。

ハアッと苛立たしげにため息をつき、当主は少女の髪をつかんで持ち上げる。
少女は、ほどよく肉がついていれば、相当の美少女だったのだろう。
しかし今はやせ衰えて青白く、目ばかりギョロギョロした異様な顔になっていた。

「お前、駄目だなあ。全然駄目。自分の立場、わかってる? 僕に気に入られようっていう努力すらしないし、何なの? エレンはお前の半分の値段だったけど、殴っても蹴っても片目を潰されても、ニコニコ無邪気に笑ってたよ?」

少女はのどの奥からひい、ひいと小さく音を鳴らすばかり。
精神が、完全に恐怖に呑まれている。

「うっとうしい。こいつ、もう飽きちゃった。処分しといて」

ゴミでも捨てるような当主の物言いに、少女のギョロギョロした目が見開かれる。

処分? 処分って何を? わたしを? ねえ、嘘でしょう?

徐々に事態を飲み込み始めたらしい少女の顔に、困惑と恐怖、そして媚びの混ざった歪んだ笑みが張り付く。
当主はそれを疎ましげに睨んだ。

「次の獲物になさいますか」

「しないしない。こいつ、つまんないもん」

部下は「かしこまりました」と一言告げると、少女の襟首をつかみ、乱暴にずるずると引きずって部屋を後にする。
少女の呼吸が、一気に乱れた。

「ご、ごめんなさいごめんなさいいやあ゛ああぁっっ!!」

少女は泣き叫び、死に物狂いでドアにしがみつく。
処分される……殺されるという恐怖から泣き叫ぶのだと人は思うだろう。
しかし、少女が本当に恐れているのは殺されることではなく、死ぬ前に我が身に降りかかるであろう仕打ちのことだった。
――この組織の人間が、あっさり死なせてくれるはずもない。

「クソアマ! お前はもう用済みなんだよ!」

ドアにしがみついた細い指を、部下の靴底が思い切り踏みつける。

「あぐあああああっっ!!」

悲痛な叫びが建物に響く。

「だずげでくださいいっ、おっ、おねが、お願い、おねがいぃ!」

少女は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにし、両手を滅茶苦茶に振り回して子供のごとく泣きわめく。

しかし、当主の興味は既に狩りの方へ向いていて、目の前の必死な少女には一瞥すらしないのだった。


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
金髪に青い目と、王子様の条件を満たしていながらブサイクなんですね。
ブサイクなくせに性格まで悪いなんて許せないです!ブサイク家の当主をひどい目に合わせてやってください!
ところで「ブログ村」ってやつには登録されていないんですね。そちらもRSS登録証と思ったんですが見つからなかったんで(^^
ia.
2009/08/09 16:36
美形にしようかなーとか考えはしたんですけどねえ、話数少ない設定だし、単純に救いのない悪役にしました。
次回、遠慮なく容赦なくフルボッコですよ。

あー、うち、登録してないんですよ。<ブログ村
私ひねくれ者でして、隠れ家的にひっそりやってこうとか考えてるもんで。
……でもそのうち考えます、ハイ。
鈴藤 由愛
2009/08/09 20:43
救いのない悪役と聞いて安心しました。フルボッコにしておもらい!

>隠れ屋的
そういう考え方、好きです。自分はここを知ってるからワクワクしちゃう。
つる
2009/08/10 02:06
ふるふるぼっこーふるぼっこー。
げふん、何故か妙なモン歌ってました。
当主! フルボッコにしてやんよ!

うちは隠れ家っていうより、ちびっ子の秘密基地レベルですけどね!
検索で偶然引っ掛かりましたとか、リンクを巡りに巡ってたらたどり着きましたとか、そういうのが好き。
鈴藤 由愛
2009/08/10 07:13
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