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zoom RSS 芳田くんと木彫りのハニワ

<<   作成日時 : 2009/07/11 17:27   >>

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芳田くんは、安アパートで一人暮らしをする二十三歳の若者である。
彼は、大学卒業後、記念すべき新社会人一年生の生活に挫折し、以後、短期の仕事で生計を立てている。

ちなみに彼の名字は「よしだ」と読む。しかし、自己紹介で「よしだです」と言うと十中八九「吉田」と誤解されてしまうので、「いえ、吉田じゃなくて、草かんむりの下に方向の方って書く方の芳に、田んぼの田です」と訂正しなければならず、そこそこ難儀な思いをしていた。

そんな芳田くんの元に、ある日、荷物が届いた。
差出人は彼の友人である。
友人は考古学者を志す若者で、今は教授に誘われて海外で遺跡の発掘作業に当たっている。

海外の食べ物だろうか。食べ物ならいいんだが。食べ物大歓迎。食べ物なら何でもうれしい。

余裕のない一人暮らしゆえの食欲をふくらませながら箱を開けて――芳田くんは固まった。
衝撃を和らげるエアークッションに包まれていたソレは、あきらかに食べ物ではない形をしていた。

芳田くんは突っ伏した。
食べ物じゃないからがっかりした、という単純な話ではない。
ある日突然、派手なペイントをほどこされた木彫りのミニチュア版ハニワ、としか形容のしようがない物体を送られて喜ぶ人間が、はたしてこの世に何人いるだろうか。つまりそういうことである。

一緒に入っていた手紙には、現地に伝わるお守りだと書いてあった。何でも、持ち主が寝ている間に、取り憑いている悪霊を食べて守ってくれるのだという。
確かに霊力というものが備わっていそうな見た目である。なんだか、お守りという割にまがまがしいオーラさえ漂って見えるのだが。

「これでお前の人生、ちょっとでも運が向いてくるといいな」

手紙はそう結ばれていた。

――根はいい奴なんだ。こないだ飲み会で「俺ってなんて運のない奴なんだ。きっと何か悪いものが取り憑いてるんだ」って愚痴ったのを覚えてて、俺を励まそうとしてくれているんだ。ただちょっと感性がずれているんだ、あいつ。

芳田くんはふざけんなバカヤロウと叫んで木彫りのハニワを窓からぶん投げたくなる衝動を必死にこらえた。


……その夜、芳田くんはやたら息苦しくて目を覚ました。

寝返りを打とうとして、違和感に気付いた。
体がピクリとも動かないのだ。
――金縛りである。

芳田くんは焦りに焦った。
何せ、彼にとっては人生初の金縛りである。

金縛りの時は、目だけはやたら高性能に働くものだ。
視力1.0の芳田くんの目は、月々三万七千円の安アパートの部屋の中で、大量の黒いかたまりが飛んだり這い回ったりしているのを確かにとらえていた。見たくはないが、見えてしまうのだ。
ちなみに、こんなものが見えるのも芳田くんにとっては人生初のことである。
どこからこんなに沸いてくるのかというと、窓からじゃんじゃん入って来るのだ。窓が閉まっていようがおかまいなしに、するするとガラスをすり抜けて。

ああ目を閉じたい。頭から布団をかぶってしまいたい。そうすれば見なくて済むのに。
芳田くんが嘆きに嘆いていると、更なる奇怪な現象が起きた。
汚いミニテーブルの上に置きっぱなしにしていた木彫りのハニワが、彼の顔の前まですーっと浮かんで移動してきたのだ。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」

芳田くんは声にならない絶叫を上げた。もはや失神寸前である。
そんな芳田くんの目の前で、木彫りのハニワの口が、ぐわあっと開いた。
この緊急事態に、さらなる危機が!

何だこのハニワ! お前一応お守りなんだろ、何とかしろよ! 余計な恐怖与えんな!

芳田くんが内心叫んでいると、木彫りのハニワにまた変化が起きた。
木彫りのハニワが、まるで掃除機のように、ズホーオと黒いかたまりを吸い込んでしまったのだ。
部屋にいた全ての黒いかたまりが吸い込まれると同時に、芳田くんの金縛りも解けた。
吸い込んだ木彫りのハニワは、これにて一件落着とばかり、するするとミニテーブルの上に戻った。

た、助かった……。

芳田くんはモアイににじり寄った。
……確かに、悪霊を食べてくれるらしい。守ってくれるらしい。
芳田くんは心身ともに疲れ果てながら、それでも考えた。

「これで安心!」とホッと出来ないのは……何でだろう、と。


その「何で」が何なのか、はっきりするまでに時間はかからなかった。

次の日も次の日もまたその次の日も、寝ている間に黒い塊が部屋いっぱいに集まっていて、ハニワがそれを吸い込むというパターンが繰り返されたためである。
さすがに誰でも気付くだろう。
この木彫りのハニワ、なんか怪しい、と。

最初の怪奇現象から四日後、芳田くんはついにツテを頼って友人に電話をした。

「おお、久しぶりだな。お前に送ったお守り、届いたか?」

はつらつとした友人の声を恨めしく思いながら、芳田くんは自分の身に起きたことを全て話した。
ところが、である。

「よかったじゃないか」

「はあ!?」

友人の思わぬ反応に、芳田くんの口調は乱暴になった。

「お前は悪いものには取り憑かれてないってことさ」

「どういうことだよ!」

「あのお守りは、持ち主が寝ている間に、取り憑いている悪霊を食べてくれるんだけど……」

「ああ」

「持ち主に悪霊が取り憑いていない時は、別のところから悪霊を集めて食べるから」

集めて食っちゃ駄目だろ! 

この時芳田くんが、今すぐ友人に送り返そうと決意したのは言うまでもない。


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
これも展開が読めなかったです。
ハニワってところがいいですね。恐いんだか可笑しいんだか微妙で(笑)
芳田くん、名前の説明のところですでに運の悪さが漂ってましたよ。

コメが遅くなってすみません<(_ _)>
ところで「ドラクエ9」買ったよ〜♪
ia.
2009/07/14 01:57
ハニワにするかモアイにするか、随分悩みました。
で、モアイの浮いたところを想像したら怖かったので、ハニワにしました。

おお、ドラクエ9! もう遊び倒してるとこかな?
私、ドラクエ9の発売日ってことを忘れて、前々から目をつけていた中古ソフトを買いに行きましたよ。
見事な混雑に巻き込まれましたよ、ええ(泣)
ドラクエはいつか買います、いつか。
鈴藤 由愛
2009/07/15 22:26
うわ。うちにもこのハニワ欲しい。

わたしも展開が読めませんでした。しかも別のところからの悪霊も吸い込んでしまうなんて、二段落ち的な発想だわ。

ドラクエの話で置いてきぼりになりました。こどもに聞いてみます。ゲーム関係は、どうにも疎くてだめだあ。
つる
2009/07/25 22:48
うわー! だめですよ、毎晩金縛りにあっちゃいますよ! せめて盛り塩とかにしといてくださいっ!

いやー、二段オチのつもりはなかったんです。
某芸人の「こんな○○はいやだ!」シリーズの雰囲気を目指して書いたので(あ、その人のネタはパクッてないですよ)

いえいえ、私も近頃は新作ゲームから離れておりまして。ドラクエの新作発売の話はニュースで知りました。
でも興味ない人にはおいてけぼりな話でしたね、すいません。
鈴藤 由愛
2009/07/26 11:52
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