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zoom RSS 蛙と老人

<<   作成日時 : 2009/03/26 20:40   >>

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昔々、ある所に古い神社があった。
そこに、人間の言葉を話す一匹の蛙が住み着いていた。
蛙は境内の下に潜み、雨の日にはゲコゲコ鳴いたりしながら、神社に拝みに来る人間を観察するという暮らしをしていた。

そんな蛙の暮らす神社に、いつからか一人の老人が毎朝拝みに来るようになった。
老人は薄汚れた手ぬぐいをほっかむりにし、つぎはぎだらけの粗末な身なりをしていた。

「毎日毎日、熱心なことだ」

蛙は、老人が何をそんなに拝んでいるのか気になった。

「何か、叶えて欲しいことでもあるのかな」

ある日、蛙は神社の柱の陰に隠れ、老人が来るのを待った。
神様のふりをして、老人の願いとやらを聞き出してやろうと考えたのだ。

そして、いつものように老人が神社にやって来たところへ、

「毎日毎日、熱心なことだ。感心したぞ。お前の願いを叶えてやろう」

いかにもそれらしい口調で声をかけた。
老人は驚いたが、物陰にいた蛙の言葉を神からのものと信じ込み、やがて「へへえっ」とその場にひれ伏した。

「ああ神様。わしゃ、是非とも叶えていただきてえ事があるんでごぜえます」

「申してみよ。何なりと叶えてやるぞ。命を助けて欲しい者でもいるのか? それとも財産が欲しいのか?」


すると、一呼吸おいて、老人はこう言った。


「わしが死んだら、もう二度と生まれ変わらなくて済むようにしてもらいてえんです」


「な、何故だ?」

思わぬ一言に、蛙はうろたえた。

「……わしゃ、もう、真っ平でさあ。人間の世の中は、何でこうも戦ってばっかりなんですかい? わしゃ、戦で何もかも無くしちまった。親も女房も息子も孫も、みんな戦で殺されちまった……頑張って働いて貯めた金も、家も、畑も田んぼも……もう、わしには何一つ残ってねえだ! わしの人生、失ってくばっかりだ!」

老人の声が詰まる。

蛙は、柱の陰からそっと老人を盗み見た。

「こんな世の中にまた生まれて来るなんて、わしゃ、もう、耐えられねえですよ……」

蛙は、老人の目に盛り上がる透明な水が、日を浴びてきらきら光るのを見た。

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
ま、リハビリということで大目に見ておくんなせえ。
鈴藤 由愛
2009/03/26 20:50
老人にひどく感情移入完了。人生には、99いやなことや見たくないことがあって、たった1つの嬉しいことで、まあ生きているのも悪くないなって思う派です。これ続きますか?
つる
2009/03/27 01:41
ですよねえ、私も同感です。<99いやなことや〜

人生は良いことと悪いことが半分ずつで、ならせば平らになるように出来てるらしいですからね。
生きてりゃ何か良いことありますよね、ね。

あ。続く予定はないです……今のとこ。
鈴藤 由愛
2009/03/27 08:01
あ、こういう作風は久々ですね。
蛙もえらく重い願いを聞かされて困ったでしょうね。由愛さんの描かれる動物キャラは茶目っ気があっていいですね。なんか好き。
「人間の世の中が嫌なら、次は蛙に」とか言うのかと思ったんですが、言いづらそうな雰囲気でしたね(笑)
ia.
2009/03/30 03:00
久々に短編を、と思ったんですが、私、短編と言ったらこういうのしか浮かばないもんで。げへ。
動物キャラは自由に行動させられるのが良いですね。
人間がやったら非難されそうな事もへっちゃら〜。
蛙に生まれ変わったら……悪ガキに捕まったり車にひかれたりしない限りは幸せそう、かな?
鈴藤 由愛
2009/03/30 07:31
蛙と老人 プラスマイナス1/BIGLOBEウェブリブログ
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