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zoom RSS 足元からの危機(二十二回目)

<<   作成日時 : 2008/09/11 23:23   >>

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もうろうとする意識の中で、誰かがオレを覗きこんでいるのに気付いた。

……誰だ?

だんだん視界がはっきりしてくると、それがオバちゃんだとわかった。

いかにもお節介を焼くのが好きそうな、スーパーの特売品を買うのに情熱を傾けるごく平凡な主婦そのもの、といった具合のオバちゃんだ。

なんでこんなとこに、オバちゃんが。

と思うと同時に、ふと気がついた。

……なんか、どっかで会ったような気がする。

聞いてみようと口を開けると、オバちゃんは、自分の唇に人差し指を当てて、オレを見た。

黙ってろ、ってことか。

オレが口を閉じるのを見て、オバちゃんは小さくうなずくと、すっと両手を広げて、出し抜けに、手を叩いてパンッと音を立てた。

その時、オレの頭の中で小さな何かが弾けて消えた気がした。

「よし、これで大丈夫」

オバちゃんが、心底ホッとしたように言った。

「な……何が……?」

「お前さん、耳に術をかけられてたんだよ。もう解いたからね、しゃべっても問題ないよ」

術……。

ああ、メガネ男にかけられてたんだっけな。
オレが聞いてるものを、あいつも聞ける術、だったか。

オレは、ずるずる身を起こした。

「うっぐ!?」

その途端、まるで槍で頭からぶっ刺されたみたいな激痛が襲ってきた。

痛ってえ!

オレはもう起き上がるどころじゃなくて、ひいひい半泣きになりながらうずくまった。

い、痛いの、早くどっかに消えてくれぇ……。

「あらあら、まだ起きちゃ駄目よぉ。一応傷はふさいでおいたけど、完全には回復してないから」

……オバちゃん、止めるならもうちょっと早く止めてくれ。
くっそー、文吾が言ってたことはホントだったんだな。

「おぶっ」

――苦痛、追加。

のどの奥から、ごぶっ、と気持ち悪い物がせり上がってきて、オレは中途半端に立った姿勢で部屋のすみに走った。

何をするのかは……言わなくたってわかるだろ?

痛いよ、そりゃ、動くのためらうぐらい痛いよ、うん。
だけどな、さすがに人の目の前でゲーしちゃうほど無神経じゃないから、オレ。

「ああ、血がたまってたんだねえ。大丈夫かい」

ゲーゲー苦しんでるオレの背中を、オバちゃんがさすってくれた。

……まあ、このテの問題、出しちまえばだいぶマシになるもので。
やっとこ吐くのが治まったオレは、ぐったり壁に寄りかかった。

少しは余裕が出来たので、部屋の様子を観察する。

……牢屋なんだろうか。
あまり広くない部屋だ。
天井と床と左右、そして前後を四角い石で敷き詰めてできた壁に囲まれてる。
地下帝国の壁って、このデザインが主流みたいだな。

で、前の壁には鉄製の扉が一枚。
扉の下に小さく柵の部分があって、そこから空気が入り込んでくる。

「なあ」

「何」

「この部屋って、牢屋か?」

オレの質問に、オバちゃんは、笑って手をひらひらさせた。

「やーね、違うわよ。ここは死体置き場だよ」

お゛……。

あっけらかんと言われて、オレは固まった。

死体置き場って、死体置き場ってー!

「じょ、冗談だろ、オレまだ生きてるのにっ」

死体置き場と知った途端、とてつもなく怖くてたまらなくなるのはどうしてだろう。
ついつい、どっかから何か出てきたらどうしよう、なんて考えてしまう。

「仕方ないわよ。ここに運ばれて来た時には、もうほとんど意識がなかったからね。ほっときゃ死ぬと思って、運ばれたんじゃないのかい」

あ〜……確かにそうかも。
左胸……っつうか心臓狙って刺された日にゃ、助かるなんて思わないわな。

「ところで、お前さん」

オバちゃんが、すっと正座した。
つられて、オレもつい正座してしまう。

「私と一回会った事あるんだけど、覚えてないかい?」

あ、やっぱり。
オレの直感当たってた。

「ん……会った事ある気はするんだけど、どこで会ったかがわかんない」

正直に答えたら、オバちゃんがため息をついた。

「駅で、お前さんに荷物を預かってもらったこと、覚えてるかい?」

その時の光景が、すぐさま頭に浮かんだ。

「あー! あん時のオバちゃん!?」

オレは、思わず身を乗り出す。

そうだ。
このオバちゃん、バイトに行く途中のオレに箱を預けて行って、待ってる間に襲ってきた連中相手に大立ち回りしてみせた、あのオバちゃんだ!

「やっと思い出したみたいだね」

オバちゃんが、にこにこ笑ってオレを見た。

「思い出した思い出した! あン時のオバちゃん、すごかった!」

「はっはっは、何のあれしき。若桃様にお仕えしてるのなら朝飯前だよ」

……ぴた。

オレの表情が凍りつく。

「オバちゃん……今、なんて?」

「若桃様にお仕えしてるのなら、って言ったんだよ」

若桃様にお仕えしてる……?

キジはもう、会ったよな。
犬はうちのタマちゃんだよな。

ってことは、このオバちゃんは……。

「私は、若桃様にお仕えしている猿だよ」

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
オ、オバチャンが猿!?ちょー意外でした。かっこいいオバチャンだわ。
つる
2008/09/12 00:40
やっと出せたー! という満足感と充実感で胸が一杯です。
最後ぐらいに唐突に出すしかないのかしら、とかぐるぐる考えてましたわ。
オバちゃん、キャラの中で一番強いような気がする……。
鈴藤 由愛
2008/09/12 12:15
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