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zoom RSS 足元からの危機(三十八回目/最終回)

<<   作成日時 : 2008/09/30 23:07   >>

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「なあなあ、バイト休みだったら、ゲーセン行かねえ?」

放課後の教室。

カバンに荷物を押し込んでいると、サトルが声をかけてきた。

……お前、そこは普通、彼女を誘うトコだろ。
まさか、もうケンカしたのか?

「悪ぃ、用事あるんだわ」

オレはカバンを担ぎ上げ、「じゃっ」と片手を上げてさっさと教室を出た。

――あの、地下帝国での出来事から、一ヶ月が過ぎた。

今のオレは、授業中に襲ってくる睡魔と戦いながら高校生活を送る、ただの高校生、小崎豊だ。
妙な事にも、今ンとこ巻き込まれていない。

「鬼の総大将を封印したのなら、奴に消されたあなたの存在も、もう元に戻っているはずです」

桃太郎の言葉を信じて家に帰ったオレを迎えたのは、

「無断外泊するなんて!」

そう言って泣く母さんと、そんな母さんを「まあまあ」となだめる父さんの姿だった。
どうやらオレは、帰って来なかったものとみなされたらしい。

いやー……言い訳すんの、ホントに大変だったぜ。

「同級生にタマちゃんのこと話したら、『見せて』ってしつこく頼まれてさあ。しょうがないからタマちゃん連れて、そいつン家に行ってきたんだよ〜。遠いトコに住んでる奴だし、わざわざ来させるのも悪いと思ってさあ。で、遊んでたら終電なくなったから、泊めてもらった」

本当の事を言うわけにはいかない……というより、言ったところで信じてもらえるわけないから、仕方ないんだけどさ。
我ながら、もうちょっとマシな言い訳を思いつかなかったんだろうか、と悲しくなったよ。

おかげで母さんに、「どうして一言言っていかないの」「いくら終電がなくなったからって、少しは遠慮しなさい」ってガミガミ言われたもんな。

……しかし、何より驚きだったのは、地下帝国でドタバタ大変な思いしたのに、地上じゃ旅立った時間から一分と経ってなかった、って事だな。
つまり、家に帰ったのは朝だったわけで。
「今からでも間に合うわね、早く仕度して、学校行きなさい」って言う母さんに、いまさら本当のことなんて言えなくて、疲れた体を引きずって学校行く羽目になっちまって……。

ああ、あの時はしんどかった……。
まあ、あやめ先生がちゃんと元の女の先生に戻ってるのを確認できて、それは良かったんだけど。


――オレは、学校からまっすぐ家に帰ると、カバンを玄関に置いて、タマちゃんを連れてすぐに出かけた。

向かうは、桃太郎の住んでる屋敷。

バイトのない日は、こうやってなるべく立ち寄ることにしているのだ。
なんつうか、若桃の様子が気になるからさ。

屋敷に入ると、玄関の前で、若桃と桃太郎とが話をしていた。
若桃は着る物が変わったせいか、どっからどう見てもごく普通の若者、って感じだ。
その近くに、オカマとオバちゃんが見守るように立っている。

一見すると、家族っぽく見える……かな?
じいちゃんと、お母さんと、姉ちゃんと、弟、みたいな。

「ようっ」

オレは近付いて声をかけた。

「豊、来てくれたのか」

「へへ〜」

「あるじ、いくら親しくなったとはいえ、あいさつは大事だぞ」

あーあーあーあー。
相変わらず口やかましいな、タマちゃんは。

その時オレは、若桃がショルダーバッグを持ってることに気付いた。

「何だ。どっか行くのか?」

何気なく聞いてみると、若桃がうなずいた。

「ああ。後始末をつけに行くところだ」

「へ?」

「……要するに、鬼退治だ」

若桃がオレに向き直る。

「地上に配置した兵士達は、本体に取り込まれず残っている。本体を封印された奴らは、理性がきかない状態になるのだ。いずれ凶暴化し、人々に害が及ぶだろう。そうなる前に退治する事にした」

「いいのかよ、だってお前……」

鬼退治を強制されて、苦痛だったんじゃ……という気持ちが、オレの顔にしっかり出ていたらしく。
全部言う前に、若桃が表情を和らげてオレを見た。

「案ずるな。これは、自分の意志で決めたことだ」

「そ、そうか……」

本人の意志なら、まあ、良いのかな?

「父上、行ってまいります」

「……うむ。気をつけるのだぞ」

桃太郎が、目を細めて若桃を見る。

「オカ……キジと猿も一緒に行くのか?」

オレの質問に、若桃は首を横に振った。

「いいや、余は一人で行く」

「えええっ!? 戦う時不利だろ!」

敵が集団で来たらどうすんだ、おい!

「それでもだ。余は誰にも頼らずに、自分の力でできることをしたいのだ」

「若桃……」

下手すりゃ、自分の命も危なくなるっていうのに……相当、強い覚悟なんだな。

「帰ってこいよ、絶対!」

「ああ、必ずな」

若桃は、まっすぐ前だけを見て、一人旅立って行った。
その背中を見ながら、オレは頭の中で、昔話ふうの文章を思い浮かべていた。

――こうして、若桃は、強制されてではなく、自分の意志で鬼退治に出かけましたとさ。
めでたし、めでたし。


<完>

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
元の日常がとても大切に感じる最終回でした。わたしも小崎君を追って長い旅をしていたような気分です。集中連載、御疲れさまでした!書くのはシンドイときもあったろうけど、<完>これを打つ瞬間は最高ですよね。ほんと、連載、楽しかったです。
つる
2008/10/01 00:53
おかげさまで何とか完結しました。
<完>を打ち込んだ時の感慨深さといったら、滅多に味わえるもんじゃないですね。

「無理だ〜」だの「投げ出してえ」だのと(自分で連載決めたくせに)弱音を吐きつつ、ここまでこぎつけたのは、コメントのおかげです。
「もうちょいガンバろ」って思えましたもの。

退屈だろうが何だろうが、穏やかに何事もなく過ぎていく日々って、大事ですよね。

ここまでお付き合い下さいまして、ありがとうございました!
鈴藤 由愛
2008/10/01 23:21
お疲れ様でした〜!
桃太郎の話がどうなるのかと思っていたら、ゲーム風バトルあり、師弟愛&家族愛あり、お笑いありと、とても楽しめました。

感想が遅くなってすみません。すっかり書いたつもりになってました。ボケてる(^^;

あれ?絵文字が使える
ia.
2008/10/03 00:56
色んな愛があふれてる、「足元からの危機」。
でも男女の愛がありません。
そう、「ヒロインがいない」のです。
うっかり設定し忘れて、そのまま最終回まで突っ走ってしまったのです!
いかんよなあ、いかんなあ。

それは小人さんの仕業ですね。<書いたつもり
そういやなんかちっさく「絵文字」と出てますね。
……でも私の心が踊るようなのがない。

ここまでお付き合い下さいまして、ありがとうございました!
鈴藤 由愛
2008/10/03 07:54
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