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zoom RSS 足元からの危機(三十七回目)

<<   作成日時 : 2008/09/29 23:44   >>

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――これ以上、地下にいる理由はない。
そんなわけでオレ達は、若桃の術で地上に戻ることになった。

オバちゃんいわく、地下への移住の時も、若桃の術を使ったそうだ。
それから、地上に兵士を派遣する時も。

「お前、地上に戻ったらどうするんだ?」

術を発動させる前、オレは何となく若桃に聞いてみた。

「まずは父上に会って、長年心配をかけたことを詫びようと思う」

そうかそうか。
そりゃあな、桃太郎ずいぶん心配してたし、顔を見せてやらないとな。

「その次は?」

「余の地上侵略のために人生を狂わされた人々に、償いがしたい」

「そんで、あとは?」

「侵略の後始末をする。本格的な侵攻には至っていないとはいえ、様々な影響が出ているだろうからな」

「……なんか、詫びたり償ったり、そればっかりだな」

オレの指摘に、若桃が怪訝な顔をする。

「当然だろう、余は悪事をはたらいたのだから」

……当然ねえ。
なーんか、素直に納得できねえな、それ。

「でもそれって、鬼の総大将にだまされて利用されてたせいだろ。お前一人が悪いわけじゃねえじゃん」

口に出してみたら、真っ当な意見のように思えた。
だよな、一人で全部背負う事ないよな。

若桃は、まっすぐにオレを見た。

「確かに利用されていた。だが、だからと言って免罪を求めるのはおかしいだろう。余の心の弱さが、そもそもの原因なのだからな」

迷いのない口調に、胸が、じ〜んとした。
自分の非を認めた上で、逃げずに責任を取るだなんて……。

「……お前、立派な奴だなあ」

思わず、しみじみつぶやいた。

見た目はオレと同い年ぐらいにしか見えないのに、何だろうね、この違い。
生きてきた年数の違いか?

「あるじ、後ほど若桃殿の爪の垢を煎じて飲むが良い」

「おい」

タマちゃんに言われて、オレはぶんむくれた。
どうせ、オレはちーっとも立派な人間じゃねえよ。ふん。

「何を言う、余はむしろそなたの主君に教えられたのだぞ」

「若桃殿っ?」

若桃に割り込まれて、タマちゃんが驚いたように仰ぎ見る。

「豊、余はお前の言葉を思い出して、自分の成すべき事がわかったのだ。感謝するぞ」

「ええっ!?」

若桃に感謝されて、オレは思いっきりうろたえた。

「オレ、そんなにすごいこと言ったか?」

全然、そんな記憶ないんだけど。

「はあ、自覚ないみたいね」

あたふたするオレを見て、オカマがこめかみを押さえてる。

「自分で覚えてたら、ただの嫌味な奴だよ」

オバちゃんがオカマの肩を叩く。

「あるじは、時折自分の言った事すら完全に忘れて行動するからな……」

タマちゃんの眉間にシワが寄って、変な顔になってる。
ケータイがあったら、その顔絶対撮ってるぞ。

って、今はそれ関係ない。

……でもやっぱり、そんなに人の心を動かすような事を言った覚えが……。

「……戻ろう。地上へ」

「そうだな」

若桃が、目を閉じて口の中で何かをもごもごつぶやく。

途端、猛烈な勢いで上向きに引っ張られるような感覚が襲ってきて――気が付くと、そこは、桃太郎が住んでる屋敷の中だった。

柱時計の、カッチコッチという規則正しい振り子の音が、ひどく懐かしいように思える。
地下帝国って、そういえば時計がなかったもんな。

「お……おお……」

感極まった、と言わんばかりの桃太郎の声に振り返ると、目に涙をにじませた桃太郎が、両手を震わせながら伸ばしてくるところだった。

オカマとオバちゃんが、サッと片ひざをついて頭を下げた。

「む、息子を……連れ戻してくれた……のか……」

「おうっ、ただいま!」

オレは、片手を上げてあいさつした。

「ほれ、対面対面」

背中を叩いてやると、若桃がぎくしゃく振り向いた。

「父上、そ、その……」

いきなり、若桃が土下座をした。

「心配をおかけして、申し訳ございませんでした! 私の心が弱かったばかりに……」

「……良い。こうして再び、無事な姿を見ることができて、私は嬉しいぞ」

桃太郎がひざをついて、若桃の背中をなでた。
その途端、若桃がわああーっと大声を上げて泣き出した。

あの、オレに向けたまっすぐな目も。
迷いのない口調も。
――きっと、崩れ落ちないための強がりだったんだな。

オレは、何となくそう思った。

「私を許してくれ。お前の気持ちを理解もせず、ただ私の血を引いているというだけで、当然のように鬼退治にやった私を……。お前を追い詰め苦しめたのは私だ……お前の過ちは、すなわち私の過ちでもある……!」

オレの目の前で、長年の断絶を経た一組の親子の関係が、ようやく回復しようとしていた。

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
いい話ですね。ラスボスとか必殺技とかはしゃぎながら、ここへ戻ってこられるとは!
自覚なしのお人好し、脱力系主人公を応援してきた甲斐がありました(笑)
もう少し続きますよね?
ia.
2008/09/30 23:19
いいシーンだあ。
やっと地上に戻れましたね。小崎君の口調に頼もしさが溢れています。きっと成長したのね。
つる
2008/10/01 00:42
ia.様>こんな出来の悪い子を応援してくれて、ありがとうございます。<自覚なしの〜
タマちゃんがいなかったら、確実にラスボスまで行けませんでしたよコイツ。
作者の都合により、あと一話で最終回でっす。

つる様>そう言ってもらえるように頑張りました。<いいシーン
小崎くんは色んな事を経験しましたからねえ。
これで変わってなかったら……それはそれで小崎くんらしいですが。
鈴藤 由愛
2008/10/01 07:39
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