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zoom RSS 足元からの危機(三十一回目)

<<   作成日時 : 2008/09/22 22:38   >>

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「余のことは……放っておいてくれ……」

そう言う若桃は、無表情だった。

「余にはもう、生に執着する理由はない。死を恐れる理由もない。何もかもどうでも良い。放っておいてくれ……」

オレは、若桃に向かって歩み寄った。
すぐそばで繰り広げられてる戦いを、ずっと遠い所で起きている事のように感じながら。

「他に言うことは?」

若桃の前に立ってから、オレは聞いた。

「……ない」

若桃が力なく答える。
表情といい声といい、気力ってものがまるでない。

「じゃ、遠慮なく」

ゴッ!

オレは、若桃の顔面に渾身の力をこめて、パンチを叩き込んだ。
若桃が後ろによろけて、顔面を押さえる。
それを見ながらオレは、槍を小脇に抱えて若桃を殴った右手をさすった。

……痛ぇ。

心が、なんて言えたらカッコイイかもしれんが……純粋に手が痛い。
折れてはいないと思うが……くうっ……涙が……っ。
手を押さえて飛び回りたいところだが、槍を小脇に抱えてることだし、ぐっとこらえる。

「な……何をするっ!」

顔面を押さえながら、若桃が吠える。

「あのな、自覚ないみたいだから言っとくぞ」

オレは、息を吸い込む。

今、どうしても言っておかなきゃ気のすまないことがあった。
何もかも終わった後で話す、なんて行儀のいい真似は、どうしてもできそうにない。

「オレの存在消して、居場所なくしたのはどこのどいつだ? ふざけんなよお前、無責任だぞ!」

若桃が、息を飲んで目を見開く。

そうだ。
オレにしてみりゃ若桃は加害者だ。
それなのに、自分一人だけがひどい目にあったみたいな顔しやがって……そんなん、納得できるか!

「それは……すまなかった……」

若桃が、申し訳なさそうに目を伏せる。

「そう思ってるんだったら、ちゃんと責任取れ! 取りあえず生きてここから脱出!」

オレは、持っていた槍を押し付けた。

「……オカマやオバちゃんは、お前のために必死こいて戦ってんだぞ。どうでもいいなんて、絶対言うなっ」

オレは、若桃の肩を掴んで横を向けさせた。

――見れば、わかるはずだ。

オカマとオバちゃんは、押し寄せる鬼の兵士達から若桃を守るために、数の上では圧倒的に不利な戦いを続けている。

そう、若桃のために。

自分のために、こんなに頑張ってくれる奴がいるんだぜ?
それを見ても、どうでも良いなんて本気で言えるか?
言える奴は、自己中心的なものの見方しかできない最低な奴だ。

ぐっと唇をかんで、若桃が槍を掴む。

「……そうだな」

そう言う若桃の表情には、もう迷いはなかった。
引きしまった顔で、まっすぐ前を見てる。

「キジ、猿! 世話をかけたな!」

そして、若桃はオカマとオバちゃんのところに駆けて行った。

「若桃様!」

「また共に戦ってくれるか?」

「もちろんよ!」

……なんか、いいもん見たなあ、って気がするよ、オレ。

「おらあっ!」

その時、兵士がオレめがけて剣を振り上げてきた。
とっさに槍を構え直そうとして、オレは気付いた。

……あ、槍。

そういや若桃にやっちまった。
つーことは……今のオレ、丸腰だ。

「うわああああっ!」

「あるじ!」

タマちゃんが走ってくるが……間に合いそうな距離じゃない!

と思ったら、いつまで経っても剣が振り下ろされてこない。
そっと目を開けてみると、兵士は剣を振り上げた姿勢のまま、固まっていた。

……なんだ?

周りを見ると、他の兵士達も動けなくなっていた。

オカマかオバちゃんか若桃か、それともタマちゃんの仕業か?
そう思ったんだけど、全員けげんな顔でお互いを見るばかりだったから、どうも違うとわかった。

じゃあ、一体誰だ?

「私が解かないうちに術の効果が消えたから、死んだとばかり思っていたが……まだ生きていたとはな」

この声は……っ!

「メガネ男っ!」

若桃の身につけていた金ピカの鎧を着たメガネ男が、処刑台の上に姿を現した。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
私もいいもん見せてもらいました。いよ!若桃!オトコマエ!
そろそろクライマックスなのに名前を覚えてもらえない「メガネ男」。結構重要キャラなのに(笑)って、ごめん、私も覚えてないや(笑)
ia.
2008/09/23 00:03
若桃を説得するはずが、つい殴ってしまいました。
まあいいや、ヘタってたのが直ったんだから。結果オーライ。

「スーツ男」「メガネ男」「鬼の総大将」「陛下」……そういえばコイツには個人名がない!
菖蒲京一郎はあやめ先生をもじってつけた偽名だしな。
でもまあ、オカマやオバちゃんにも個人名がないことだし、このままでも良いかな(モノグサめ)
鈴藤 由愛
2008/09/23 08:42
小崎君の拳、痛そうです。人を殴ったことがあるとわかりますが(おいおい)素手だと痛いんですよね。ボクサーにグローブが必要なわけがわかる、ってコメントになってません。
つる
2008/09/24 22:39
若桃を殴った痛みは、世間のお母ちゃんが悪さをした我が子を殴って言う、「痛いか? でもお母ちゃんの心はもっと痛いんやでえ!」というやつですね。
……え、違う?
今、思いついた。
小崎くんの攻撃、名付けて「小崎拳(おざきけん)」!(さらに遠ざかる)
鈴藤 由愛
2008/09/24 22:58
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