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zoom RSS 霊界探索

<<   作成日時 : 2008/08/14 23:51   >>

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目の前に、ダンプカーがものすごいスピードで迫ってくる光景を、私は覚えている。

銀色に光る自動車メーカーのロゴマーク、ナンバープレート。
ぐんぐんと目の前に迫ってくるのを、私は確かに覚えている。

そこで私の記憶は一旦途切れ……気がつくと、どこかの河原に立っていた。

「んー……」

なんとなく背伸びをしてみるけど、それで特に目の前の状況に変化が起こるわけじゃない。
どれだけ待とうが、目の前に広がるのは川原だ。
他に人が見当たらないせいか、うら寂しい雰囲気の。

取りあえずぶらぶら歩いていくと、川辺に木船を見つけた。
そのそばに、笠をかぶった船頭らしいおじいさんが座っていて、キセルで一服していた。
……なんか、風情のある光景だなあ。

「あの、すいません。ここはどこなんでしょうか」

近寄って声をかけると、おじいさんはキセルを逆さにして叩き、タバコの葉を落とした。

「ああ、客かい」

よいしょ、とおじいさんは木船をつないでいた縄をほどき始めた。

し、質問に答えてはくれませんかね、おじいさん……。

「さ、渡し賃。よこしな」

おじいさんはゴツゴツしたシワだらけの手を私に突き出してきた。
渡し賃って……何それ。
そもそも私「向こう岸に渡してください」なんて言ったっけ?

「わからねえのか。ったく、最近の若いモンは。どれ」

おじいさんは私の着物の袖をつかむと、何かをまさぐり出した。
……て、ちょっと待て!
何でこんな白い着物なんか着てるんだ、私。

「持ってるじゃねえか。出し惜しみしなさんな」

川原で白い着物といえば、やっぱり、アレしかないよね?

嫌な予感がして、頭におそるおそる手をやると……ひたいに、三角の布が巻きつけてあることに気付いた。

そういえば、ダンプカーがものすごいスピードで突っ込んでくるのを何となく覚えてるんだよなあ……。
こ、これって、これってまさか、まさかー!

「さ、乗りな」

どうしたらいいかわからなかったので、私は取りあえず乗ることにした。
私は船の先端に座り、おじいさんが船尾の方でぎっちらぎっちら船をこぐ。

「あのー」

「なんだい」

「私、ひょっとして死んだんでしょうか」

私のことばに、おじいさんはフンとため息をついた。

「当たり前だろうが。でなきゃここにいねえよ」

……そんなあ……。
死ぬのって、もうちょっと感慨深かったり悲しかったりおどろおどろしかったりするもんじゃないの?
こんなにあっさりしてていいの?
私、ホントに気がついたらこっちにいたんですけど、それっていいの?
ベッドに入って気がついたら朝でした、みたいな死に方しちゃったよ、私。

「じゃあここって、三途の川ですか?」

「ああ、そうだよ」

私は、水面をじいっと見つめた。
何となく、ビルの立ち並ぶ見なれた風景がゆらゆら揺れて見えるような気がする。

「――落ちてみるかい」

「えっ」

おじいさんは船をこぐ手を止めて、私を見た。

「三途の川に落ちた奴は、生き返れるんだよ。そうしたきゃそうしな」

生き返れる……。

私は、目を閉じてその意味を考えてみた。

それは、あの日常に舞い戻る、ということだろうか。

朝、目覚ましのアラームに起こされて、だるい体を引きずるようにして身支度整えて出社して、後輩にわずらわされたりお局さまのご機嫌を取ったり上司に嫌味を言われても笑顔でかわして腹の中で罵倒して、住んでるアパートに帰ったら一人でご飯食べてお風呂入って寝るだけの、毎日。

そんな日々を、また送るっていうことなんだろうか。

「……やめとく」

我ながら、何てむなしい生活してたんだろう。
わざわざ生き返ってまで繰り返したい生活じゃない。

「そうかい」

おじいさんは小さく肩をすくめると、またぎっちらぎっちら船をこぎ始めた。

「まあ、川に落ちたところで、向こう岸まで泳ぎきらないと生き返れないんだがね。だいたいは途中で力尽きて、妙な感じであっちの世界に戻っちまうんだ」

「妙な感じ?」

「ようするに、悪霊だの怨霊だのになっちまうのさ。まあ、よっぽどの覚悟がない限りはやめておくのが無難だねえ」

……おじいさん。
そんなに大変なことを、あっさり人にすすめないで下さい。
私が悪霊だの怨霊だのになったら、どう責任取るつもりだったんですか。

私は、三途の川の水を、手でそっとすくってみた。

――手の平の中に留まっていたわずかな水の中に、ぎょろり、とした目が一瞬だけ映るのを、私は確かに、見た。

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コメント(7件)

内 容 ニックネーム/日時
これから寝るところなんですが
妙な感じになっちゃってますね。
夢見そうですよ。
水の中に見えたぎょろりとした目。
不気味過ぎですってば〜!

2008/08/15 00:23
感想ありがとうございます。

いや……不気味がらせてすいません。
夏だからホラーいっとこか、っていうノリで書きました。

ちなみにこれ、もうちょっと書く予定だったりして……(えー)

鈴藤 由愛
2008/08/15 09:25
これ、あの人ですね?無慈悲な弟がいる、わりとノーテンキな女の人。
後ろに何がいるんでしょう。続きはWEBで?
ia.
2008/08/15 21:58
感想ありがとうございます。

いえ、別人です(何)<ノーテンキな女の人
でも私がホラーとか怖い話を書くと、似たような人格のキャラになってしまうのです。
話が話だから、ノーテンキな奴を持ってきてバランスを取ってるのかしら。
精進しなきゃー!

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤 由愛
2008/08/15 22:15
え?どの人?どの人?←わかってない。

船頭のおじいさんが何気にリアルでした。
だからすでに主人公と一緒になって探索する気分です。
つる
2008/08/15 22:54
感想ありがとうございます。

「私は死にました」の主人公のことです。<どの人

おじいさんといえば、キセルで粋に一服ですよ!
なので、描写にちょっと愛こめてます。えへ。

よろしければ、またおいで下さいませ。

鈴藤 由愛
2008/08/16 13:00
感が悪くてごめんね。了解です。
つる
2008/08/17 22:23
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