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zoom RSS 霊界探索之十一

<<   作成日時 : 2008/08/25 23:51   >>

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「おかあさん」

ナツメちゃんの呼びかけに、女の人……ナツメちゃんのお母さんがピクリと身動きした。

「ナツ、メ……?」

かすれた声で、名を呼んで。
それから、のろのろと顔を上げる。

――死人みたいな顔だ。
目には生気っていうものが感じられないし、何より表情がない。

ナツメちゃんのお母さんは、ナツメちゃんを見つけると、震える手でおかっぱ頭に触ろうとした。

「ナツメ、ごめん、ごめんね」

だけど、幽霊には触れないらしくて、その手はナツメちゃんをすり抜けてしまった。

「あたしが、悪いのよ……もっと、ちゃんとした父親を選んでいれば、こんなことにならなかったのに! あんなパチンコ狂いの男、どうして選んじゃったんだろう! ごめんね、ごめんねえ!」

うううあああ〜うああ〜と、ナツメちゃんのお母さんが、地面に身を投げるような恰好で泣き出した。

――ズキン。

なんか……頭痛い。

激しい感情が、うず巻くように体を突き上げてきた。
怒りや憎しみや恐怖が、私の中に容赦なく流れ込んでくる。


これは――誰の記憶?


――子供の泣きじゃくる声。


「お前が子供なんか産みやがるから、俺ばっかり苦労してんじゃねえかっ」

夫に腹を蹴られて、あたしは床にうずくまる。

すぐ近くには、鍋が転がってる。
ぶちまけられた作りかけのみそ汁が、床を濡らしていた。

俺ばっかり?
あなたは給料をパチンコと車に注ぎ込むばかりで、ちっとも家に入れてくれないじゃない。
あたしが稼いだお金で、食費や子供の養育費を何とかしてるのよ。

でも、言えない。
言ったらもっとひどい目にあうから。

「くそっ、ビービー泣いてんじゃねえ!」

夫が、ドスドスと娘に歩み寄る。
何度か平手打ちをする音がして、ごめんなさい、ごめんなさいと泣き叫ぶ声がする。

ざらついた視界の中で、ガタガタ震えたあたしの手が、包丁をつかむ。
それを両手で握りしめて、あたしは夫の背中に突進する。

――最後に、名前を呼んで抱き着いたのは、いつだったかしら。

あたしは無我夢中で、夫に何度も何度も包丁を振り下ろす。

動くな!
しゃべるな!
あたしの前からいなくなれ!

夫は、そのうち動かなくなった。

――どうしよう。

あたしは悪くない。
悪いのはこの男。
娘を虐待して、あたしを執拗にいじめ続けた、この男。

なのに、あたしは殺人犯になってしまった。

包丁が床に落ちる音で、あたしは我に返る。

……どこかに隠さなきゃ。
見つからないように、捨てなきゃ。

こんな男のために、人生を台なしにされてたまるもんか。

――おかあさん。

部屋のすみで、娘が震えていた。

かわいそうに。

こんなに怯えて、かわいそうに。
あざを作って、かわいそうに。
ロクデナシの父親を持って、かわいそうに。
殺人犯の母親を持って、かわいそうに。

この子が受けた傷は、一生、消えない。

あたしは、娘の頭をそっとなでる。

この子は、これから世間のむごたらしい好奇心や無理解や差別にさらされながら生きて行くのだ。
なんて残酷な運命だろう。

――いいえ、そんな惨めな思いはさせない。

だって、あたしの大切な娘なんだから。

あたしは、娘の首に手をかける。

――おかあさん。

もう大丈夫よ。
お母さんが、天国に送ってあげるから……。



べしっ。


頭をはたかれて、私はハッと気が付いた。

頭を押さえながら振り返ると、閻魔様が腕組みをして私を見ていた。

「ありゃ、閻魔様」

「ありゃ、じゃない。お前、今ちょっとまずい状態だったぞ」

「え?」

「あの母親の過去の記憶が流れこんできていただろう。おかげで少しばかり姿が消えかけていたぞ」

その後、閻魔様が、どうして姿が消えたりするのか、という辺りを説明してたけど……私は聞いてなかった。

あの母親の……過去の記憶?

さっき見たものを思い出した私は、ひざの力が抜けて、その場にへたりこんだ。

ナツメちゃん……。
ナツメちゃん、お父さんに虐待されてたのか。
その挙句、お母さんに殺されて……。

それじゃあ、怨みを残していたって、悔いを残したって、無理ないよ!

目を向けると、ナツメちゃんは、泣きじゃくるお母さんを黙って見ていた。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
あぶないあぶない。ミチルは憑依体質なんだろうか。次へ急ごう。
つる
2008/08/27 21:57
普通じゃないのは確かですね。
しかし、頭を叩いて助けてくれる閻魔様って……。
鈴藤 由愛
2008/08/27 23:24
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