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zoom RSS 霊界探索之九

<<   作成日時 : 2008/08/23 22:02   >>

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私は、ぐっと押し出されるような感覚と一緒に、まぶしい世界に放り出された。

目が慣れてくると、そこが山の中だとわかった。

――ただし、夜の。

足元からは虫の鳴き声。
木の葉や草が風で揺れて、ザザアって音を立ててる。

ぶ、不気味!
今にもオバケが出てきそうな雰囲気だわっ。

……って、オバケは私の方か。

「今なら、アカデミー賞のオバケ部門で、オスカー像もらえるかもねえ」

「何ですか、それ」

カラスのつぶらなまあるい黒い目が、不思議そうに私を見てる。

「んー……何でもない」

ああ、なんて完璧なまでのボケ殺し!
ボケを理解してくれる者も、ツッコミ役もいない悲しみが私を苛むぅ……。

そもそも、アカデミー賞にオバケ部門ないしな。

「ミチルさん。こちらに留まっていられるのは朝までです。忘れないで下さい」

……君の対応には、私への配慮が感じられないのだがね、カラス君。

「じゃあ早いトコお母さんに会わせてあげなきゃね」

その時、カラスが辺りを見回した。

「……おかしいですね。ナツメちゃんの母親がいる場所に来ているはずなんですけどね」

言われて私もぐるりと周りを見てみた。
……確かに、誰かがいる気配はない。

ん。

離れた所に、黒い軽ワゴン車がぼんやり見えるぞ。

「あの車、なんだか怪しくない?」

私が指差すと、カラスはけげんな顔をした。

「え、どこです?」

指差した辺りをキョロキョロしてるけど……気付く気配、なし。

おーい。もしもーし。
しっかりしてくれー。

「ちょっと、見えない?」

いくら暗いからって、そんなに気付かないもんかしら?

「はい。僕、鳥目ですから」

「とりめ?」

「夜になると見えにくくなるんですよ」

夜になると……。
ってことは、ひょっとしてコイツ使えないんじゃ!?

うわあああ、じゃあ私、一体誰を頼りにすればいいのよー!

「ちょっと、何のためについて来たのよアンタ!」

「ミチルさんとナツメさんを現世に連れて行って、また連れ帰るためです」

大真面目に答えないでよ、怒るのが馬鹿らしくなっちゃうじゃないのさ……。

私は、ふーっとため息をついた後、ナツメちゃんに目をやった。

……ナツメちゃん、暗い顔して、じっと足元を見てる。

「だ〜いじょうぶだって! もうすぐお母さんに会えるからっ、ね?」

「……ん」

一応、うなずいてくれたけど……こりゃ、百聞は一見にしかず、ってことで、会えるまではこの調子なんだろうな。

仕方ない。
私が頑張ろう。うん。

取りあえず、あの車を調べてみようかな。
あの車、誰か乗ってるのかな?
……まさか、練炭自殺……とか。
いやいや、いちゃついてるラブラブカップルだったらどうしよ。

「カラス、ナツメちゃんをお願い」

「はあ」

「ナツメちゃん、ちょっと待っててね」

私はカラスにナツメちゃんを頼むと、車に近付いた。

これで、教育上よろしくないものだった場合の配慮はバッチリ。

さてさて、まずは車を観察といきますか。

車はワックスがかかっていて、ピカピカだった。
ただ、ここまで来たせいか、タイヤ近辺はものすごく泥だらけ。
車体にはナントカ連合だのナントカ命だの、派手なステッカーがベタベタ貼ってある。

ええと、中には……。

私は、顔を近付けてのぞきこもうとした。

ぐいっ。

その時、強い力で着物を引っ張られた。
見ると、いつ来てたのか、ナツメちゃんが両手で私の着物を掴んでいた。

「どうしたの?」

私が聞くと、ナツメちゃんはぶんぶんと首を横に振った。

「みないで」

ええと……見るな、っていうのは。

「車の中を見るな、ってこと?」

こくり。

ナツメちゃんが、私の目をまっすぐに見てうなずいた。

うーん。どうしたものか。
私としては、見たいんだよな。
何か、手掛かりがあるかもしれないし。

でも、ナツメちゃんは「見ないで」って言うし……。

「ええと……手掛かりがあるかもしれないから、ね?」

ぶんぶん。

ナツメちゃんは首を横に振るばかり。

参ったな……。

「う、うん。わかった。見ないよ」

カラスのところに戻ろっか、って言いつつ、私はナツメちゃんの背中を押して歩き出す。

――ごめん、ナツメちゃん。

何気ない風を装いながら、私はちらっともう一回振り返って、車の中をのぞき見た。

――ああ。

私は、ぎゅっと目を閉じた。

車の後部座席の床。
そこに、ナツメちゃんが履いているのと同じ靴を履いた足が、見えた。

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
やっと現世に帰ってきましたね。カラス、鳥目だ(爆)そのまま、逃げちゃえ!
同じ靴?なんだろう?続きが気になります。
ia.
2008/08/24 01:53
感想ありがとうございます。

タイトルに反して現世での話になりました。
鳥目設定は書いているうちに追加されました。
「あ、こいつ鳥だから夜目きかねえじゃん」って気付いたので。
逃げたら翌朝が怖いっす、きっと。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤 由愛
2008/08/24 07:57
なんかちょっと気づいちゃった。
最後がものすごく気になります。

鳥目をいいことに逃げたら
きっと明るくなって見つかったら
くちばし突きの刑に処されそうで
痛いのでやめたほうがいいですね。

2008/08/24 09:44
感想ありがとうございます。

そうですか、気付いちゃいましたか。
ハッキリ書くのもなーと思ってぼかしておいたのですが。

いたたた、それは痛そうだ。<くちばしつつきの刑
カアカアうるさく鳴いて仲間呼びそうだし、逃げられそうにないですね。怖いや。

よろしければ、またおいで下さいませ。

鈴藤 由愛
2008/08/24 19:38
ここまで軽快に進めてきて、最後の三行で身が引き締まりました。効果的な手法だわ。おっと、新しい記事がアップされてる。急がなくっちゃ。
つる
2008/08/24 23:27
感想ありがとうございます。

死んだ人の物語ですからね、絞めるところで絞めなきゃ! という思いが、三行の中に濃縮されてます。はい。

よろしければ、またおいで下さいませ。

鈴藤 由愛
2008/08/25 07:25
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