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zoom RSS 私は死にました。

<<   作成日時 : 2008/07/05 21:46   >>

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七月二日、夜十時。
会社から帰る途中、私は、車にひかれて死んだ。

え?
どうして「死んだ」って自分でわかるんだ、って?

だって……今、見てるから。
自分の死体。

私の死体は、草むらの中でうつぶせに倒れてる。
顔だけは上を向いてて、じくじく赤い液体が体の下からにじみ出てる。

またその顔がねえ、我ながら気の毒になるほどぐちゃぐちゃなのよ。

眼球は外れかけてるし、鼻なんか潰れてるし、上唇は裂けてるし、ほとんど原型とどめてない。

……そういえば。

けたたましいブレーキの音がした、と思ったら、ドンッ! と何かに吹っ飛ばされて、顔面から硬い物にぶつかって、ぼきっ、だか、ぐきっ、だか、鳥肌の立つ嫌な音がしたんだよなあ。

今なら、自分に起きた事がだいたいわかる。

車にはねられて、アスファルトにぶち当たって首の骨を折っちゃって、それでも勢いが止まらなくて、道路脇から下の草むらまで転がり落ちて、そこで死んだんだな、私。

あ、即死じゃないよ。
これで、さっきまでは首すじピクピク動いてたんだから。
いやはや、人間って案外タフなんだねえ。

……って、それどころじゃないか。

私は、道路まで戻って、きょろきょろと辺りを見回した。
私をはねたはずの車や運転手の姿は、どこにもない。

……ひき逃げされたんだな、私。

あーあ、ひき逃げされて人生終わるなんてなあ。
孫が中学生ぐらいになった頃、ぽっくり逝くもんだとばかり思ってたのになあ。

……まあ、へこんでもしょうがないか。
死んじゃった以上、どうしようもないんだし。

さてと。
私はこれからどうすればいいのかな?
ここで待ってれば、そのうち死神とかが迎えに来てくれるのかな?

まったく、死んだ後どうすりゃ良いのか、ちゃんと教えといて欲しいもんだわ。

……いや、無理か。

じゃあひとまず、ここでボーッとしてよっと。

ガードレールに寄り掛かったその時、ぶーん、と何かが目の前を飛んで行った。
なんとなく行き先を目で追うと、そいつは、私の死体のある草むらに向かっていた。

……嫌な予感。

よ〜く見てみると、私の死体に黒くて小さい物体がポツポツくっついてる。
その物体は、私の死体の上を遠慮なく行き来して……。

…………ハエだ。

ハエが!
私の死体に、ハエが〜!

うわぁーんっ!

私は転がるように草むらまで駆け降りると、慌てて両手を振り回した。

離れろ阿呆ども!
卵なんか産み付けたら許さないからな!

必死こいて手を振り回して追い払おうとしてるんだけど、ハエは逃げようともせず、人の体を好き勝手に這いまわってる。

ああ、幽霊だからですか。
幽霊ってハエすら追い払えないんですか!

目が小さいとか太りやすいとか足が大きいとか、色々不満はあるけれど、仮にも二十六年生きて来た体だ。
ハエにたかられるなんて、そんなの嫌だ。
私はハエのエサになるために、二十六年という月日を生きたんじゃないっ!

追い払えないと言うのなら、なんとしてでも早急に、誰かに発見してもらわなきゃ!
ぐずぐずしてると、ハエ以外のものも集まってきちゃう。

私は道路に戻って、通行人や自転車、猛スピードで通り過ぎる車にまで片っ端から手を振り回してアピールしたのだけど……反応はなかった。

ンもう、みんな霊感なさ過ぎっ。
そもそも、この道路、交通量少ないし。

くそー、何でこんな所で死んだんだろ、私っ。

なかばヤケクソで手を振り回してると、スクーターに乗った若い男の人がこっちに来るのが見えた。
まぶしいライトをかいくぐって見た顔に、私は驚いた。

――私の弟だ!

私には、専門学校に通う弟がいる。
就職してから一人暮らしを始めた私とは、年に一、二回会うぐらいの疎遠さだ。

それが今、偶然にもここで巡り逢えるなんて!

きっとこれは、虫の知らせってやつね!

おーい、おーい、弟よ。
ここの下の草むらに、君の姉ちゃんの死体があるぞー、気付いておくれー。

弟には霊感がないから、見えるかどうかは疑問だけど……私は大きく手を振ってアピールしてみた。
もう少ししたらすれ違う……というところで、私は、カツカツカツ、というハイヒールの音に気付いた。
ちらっと目を向けると、後ろから、女の人がケータイをいじりながら歩いてくるのが見えた。

スクーターが来るっていうのに、不用心だなあ……なんて思っていたら。
すれ違いざま、弟はぐわっと腕を伸ばして、

「ちょっ、あ! だ、誰かーっ! 引ったくりよーっ!」

その女の人のハンドバッグを引ったくって、暗闇の中に消えて行った。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
オチ、そっちかよ!(つっこんでみた)
弟の登場で、皆、彼がお姉ちゃんを発見すると信じたと思う。見事に裏切られました。
こういう展開は由愛さんならではの発想だわ。
そうそう、うちのそばでもこんな事件があって、バッグのショルダー部分を離さなかったので、そのままバイクに引きずられ怪我をした方がいたそうです。物騒な世の中だ。
つる
2008/07/10 00:27
感想ありがとうございます。

このお姉ちゃん、間違いなく成仏できませんね。
目の前でこんなことになったら、弟に取り付きますよ。
「うら〜、お前何やっとんじゃあ〜」て。

うわあ、怖いですね。<こんな事件が
そういう時はあきらめてショルダーを離すしかないのかな?
でもバッグを取られるのはヤダ。
お財布とかケータイとか、大事なものが入ってるんだもん。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤 由愛
2008/07/10 21:28
つるさんに同意。意外なオチ。笑
ここからは個人的な話ですが、個人的には苦手なんです。死体のリアルな描写が。
こんなこと報告する必要なんてないのですが、自分の亡骸の表現が私には耐えられなかったので、一部をスルーして読ませていただきました。(ぉぃ)

だらしないな。私……
けビン
2008/07/11 21:30
感想ありがとうございます。

どわわわ申し訳ありませんっ!
ホラー描写駄目な方にはキツイ話ですね。
配慮が足りませんでした。

……でも唐突に書きたくなるんだよな……。
今度からホラー書く時はタイトルに注意書きしときます。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤 由愛
2008/07/12 06:07
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