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zoom RSS 失われた「半分」の行方

<<   作成日時 : 2008/05/29 23:03   >>

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夕方、旦那から「残業で遅くなるから、外でご飯食べて帰る」ってメールが来た。
私は「大変だね、ビール冷やしておくからがんばって」ってメールを返して、ほくそ笑んだ。

夕飯の支度してなくて良かったー!
よーし、今日の夕飯は好きな物食べよっと。
掃除に洗濯、それに食事の用意、毎日がんばってるんだもん、それぐらいの贅沢したっていいよね!

私はいそいそ出かける支度をした。

目指すは大手のハンバーガー店。

店内は満員状態で、注文した後に番号札を渡された。
本当はお店で食べようと思ってたけど……あんまり混んでるもんだから、お持ち帰りで注文した。

でもでも良いの。
「タルタルエビカツバーガー」を味わえるのなら、多少の苦労もしてやるわ。

この「タルタルエビカツバーガー」は、エビを使ったカツにタルタルソースを乗せた、期間限定販売のバーガー。
CMを見て、そのうち一緒に食べに行こうって話してたんだけど……旦那、ごめん。抜け駆けしちゃうよ。

お店で食べて帰るよりも、家で食べるほうがバレちゃうリスクは高いけど、まあ、食べた後の証拠隠滅さえちゃんとしてれば、大丈夫だよね。
包み紙は目につかないように捨てて、食べた後に歯を磨いて、消臭スプレーをまくとか。

家に帰ると、私はコーラを用意して、タルタルエビカツバーガーを一口。
かぶりつくと、エビカツの衣が、サクッ、といい音をたてる。
う〜ん。やっぱり、エビにはタルタルソースがよく合うわ〜。
レタスもシャキシャキして、美味しい!

うっとりしながら半分ぐらいまで食べたところで、玄関の方で唐突に、ガチャ、とノブの回る音が聞こえた。

私はギョッとして身構える。

だ、誰?
もしかして強盗!?

「ただいま」

続いて聞こえたのは旦那の声。

ええっ!?

私は、食べかけのタルタルエビカツバーガーをつかんで立ち上がる。

ちょ、ちょっと。
今日は遅くなるんじゃなかったの〜!?

そうこうしてるうちに、ゴソゴソ靴を脱ぐ音がして、聞き覚えのある足音が近寄ってくる。

私は慌てふためいてキッチンに駆け込むと、食べかけのタルタルエビカツバーガーを食器棚の引き出しに隠した。
一番端にあって、何も入っていない引き出しだ。
旦那がここを開けることは、まずない。

「あ、おかえりなさい。遅くなるって言ってたから、もしかして今日のうちには帰って来ないんじゃないかって思ってたよ」

私は、皿を片付けてました、みたいな調子で振り向いた。

「ん。思ってたより早く片付いたから帰って来た」

だったら寄り道してくればいいのに……とは口が裂けても言えない。

「それより、いいもん買ってきたぞ」

旦那はそう言って、白い紙袋を私の前にぶら下げた。

「あの……これ、もしかして」

紙袋を指差す私の手が震える。
妙に見覚えあるんだけど、まさか……。

「おう。タルタルエビカツバーガー。CM見て食いたい食いたいって言ってたろ」

予感的中!

ええええーっ!
私、ついさっきまでそれ食べてたのよ〜!

……なんて正直に言えるはずもなく。

「なんだ? うれしくないのか」

ぎくっ。

「ま、まさかあ。びっくりして言葉が出てこなかっただけよ」

私は紙袋を受け取ると、開けてみた。
中に入ってるのは、間違いなくタルタルエビカツバーガーの包みだ。

「そうかそうか。あ、俺先に風呂入ってくるわ。ビール出してて」

「はいはーい、ごゆっくり〜」

旦那が脱衣所に入ったのをしっかり確認して、私は行動を開始した。

今のうちに始末しなきゃ。
音をたてないように引き出しを開けると……タルタルエビカツバーガーがなくなってた。

あれ……?
確かにここにしまったはずなのに、変だなあ。

勘違いしてるのかもと思って他の引き出しも開けてみるけど、どこにもなかった。

あれー……?
もしかして買いに行った記憶そのものが間違いとか……いやいや、レシートあるからそんなわけない。

……じゃあ、どうして?

そう言えば、さっき開けた時、引き出しの中が妙に暗かったような気もするけど……。

ま、いっか。
旦那が買ってきてくれた分もあるんだし、失われた半分は取り戻せるわ。


――次の日。


家事をあらかた済ませた私は、昨日食べたタルタルエビカツバーガーの分を消費しようと、腹筋運動をすることにした。

テレビを見ながらやろうかと、チャンネルをいろいろ変えてみるけど……ダメだ。どこもかしこもグルメ特集やってて、見てるだけでお腹空いてきそう。
それでもあきらめずにチャンネルを変えていると、国会中継をやっていた。

……まあ、グルメ特集よりはいいか。

画面の中では、賄賂を受け取ったと疑われている与党の議員と、追及する野党の若手議員がわいわい大声でやり取りしていた。
だんだん議論は白熱してきて、相手の言い分を途中でさえぎって意見を言ったりし始めて、険悪なムードが漂い始める。

と、その時、追及されている議員の頭上に、何かがパッと現れた。

「それ」は 引力に逆らうことなく落下して――議員の頭にべしゃっと当たり、バウンドして肩に落ちて、ぬたあっとグレーのスーツに汚れをつけて床に落ちた。

スーツを汚した液体の色を見て、私は気付いた。
あれ、タルタルソースだ。
ってことは落ちてきたのって、タルタルエビカツバーガー?

しいいいぃぃぃぃん……。

議場が、恐ろしいほど静かになった。
野次の声のない議場って、こんなに静かなのね……。

私は腹筋運動のことも忘れて、画面に釘づけになった。

議員は、わなわな震えながらポケットからハンカチを取り出すと、汚れた顔とスーツを拭いた。
そして――いきなり、机を力任せに殴りつけた。

「この野郎っ、てめえ、よくもやったなあ!」

議員は、とんでもない罵声を張り上げた。
今にも掴みかかりそうな勢いだ。
顔が真っ赤で、怒りを前面に押し出してるから、なんだか鬼にも見える。

「ち、違う! 私じゃないっ」

野党の若手議員は気の毒なほど真っ青になってる。

「嘘つくんじゃねえぇーっ! ナメた真似すんじゃねえか、ああ!?」

「やめろっ」
「落ち着きなさいっ」

議員がバラバラッと走ってきて羽交いじめにするも、それを引きずるようにして若手議員ににじり寄る。

「ああ、そうか。そういう態度に出るのか。じゃあいいぜ。お前んとこの裏金の話、バラしてやるよ!」

「な、何っ?」

「いい加減にしたまえ。見苦しいぞ」

「へっ、あんたの秘密だって知ってるんだぜ。あんたはずいぶん企業に口利きしてやってるよな!」

「い、言い掛かりはやめたまえ!」

「賄賂をさんざんもらってるアンタに、人を非難する権利なんかないっ」

「同じ穴のムジナだあ! こうなりゃ全員道ずれにしてやらあーっ!」

「静粛に! 静粛にーっ!」

――かくして、議場はたちまち大騒ぎになった。

コップの水をぶっかけたりマイクを投げたりしているうちはまだマシだったけど、そのうち椅子が飛び、殴り合いや飛び蹴りに発展した。

スーツがビリビリに敗れながらも、雄叫びを上げて誰彼まわずひざ蹴りと肘鉄を食らわせる大臣、奪い取った誰かの眼鏡をぐしゃぐしゃに踏ん付ける女性議員、何故か味方のはずの同じ党の議員(後でわかったことだけど)をボコボコにする若手議員……しっちゃかめっちゃかな状況だ。

……これ、収拾つくの?
なんて思ってたら、そのうち、「しばらくお待ち下さい」という画面に切り替わった。

私は、ふと思い出した。

あの議員にタルタルエビカツバーガー、半分ぐらい食べられたやつだった。

……もしかして、アレ、昨日行方不明になった私の……?



――その後しばらくして、国会は解散した。
名付けて「タルタル解散」だそうだ。

その解散の理由となった事件を耳にするたび、私の胸に小さな罪悪感が去来するのは、内緒だ。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
リアルに国会も荒れ模様ですね。
タルタル解散。とても不思議な解散だったことには間違いないでしょう。笑

最後の段落にコミカルさを感じました。^^
けビン
2008/05/29 23:56
由愛さん、これ流れがあってとても読みやすいしまとまってるわ。うまいなあ。
この主婦の小悪魔ぶりがよくでてるし、そこから国会に繋げてしまうところがぶっ飛んでて面白かったです。

つる
2008/05/30 00:56
タルタル解散(笑)歴史に残りそうですね。
タルタルエビカツバーガーをこっそり食べるウキウキ感、わかる〜♪めっちゃ、おいしそう!明日私もこっそりチーズカツバーガーを食べよう。
ia.
2008/05/30 01:16
感想ありがとうございます。

けビン様>最近の国会は陰湿だなあと思います。
ハマコーさんがいる国会を見て育ったので、「ネチネチしてねえで暴れろ〜」と妙な期待をする自分がいたり……。

つる様>きっとこの夫婦は、結婚して一年たつかたたないか位です。
そのうち旦那が帰って来ても平然と食べてるようになるのです。お土産なんて買ってきてくれなくなるのです。
初期案では国会ではなく、宇宙だったり石器時代だったりしました。

ia.様>「タルタル解散」は数年後には教科書にも載るのです。
テストにも出るのです。
あ、チーズカツバーガー良いな。
こっそり食べると何故かおいしいですよね。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/05/30 07:21
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