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zoom RSS 百話達成記念リクエスト3:「眠れ 眠れ」〜つる様に捧ぐ。〜

<<   作成日時 : 2008/05/10 22:47   >>

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私は、ベッドの中で小さく身じろぎして、目を覚ました。

部屋の中は真っ暗だ。
……今、何時だろ。
手探りで目覚まし時計を探し出し、目の前に持ってくる。
……二時か。
草木も眠る丑三つ時、ってやつだ。
ちょっとだけ開けている窓から、生ぬるい風が入り込んでくる。

やれやれ、あと三時間ばかし、目を覚まさないでいたかったのに。

このまま寝ようかと思ったのだけど、妙に目が冴えて眠れず、私は仕方なくベッドから這い出した。
仕方ない、睡眠薬を飲むとしよう。
寝室の明かりのスイッチを入れてみると、いつも通りパッとついた。

……まだ、電気が通ってるのか。

とっくに止められていると思っていたので、意外だった。
リビングに入って、また明かりをつけると……乱雑なテーブルが目に入った。
ワインの瓶が、空になったおつまみの袋の中に埋もれている。

……そういえば、寝る前に飲みまくったんだっけ。

思い出したら、のどが渇いてきた。

キッチンに行き、出るかどうか蛇口をひねってみると、真っすぐに落ちた水がシンクを叩いた。
水も止められていないらしい。
これは幸運だ。

ワインを飲んでいたコップを持ってきて、水を入れる。
自分が使っていた物だし、別に汚くはないから平気だ。

それから、戸棚の上に置いた薬箱から、目的の睡眠薬を取り出す。

たくさん飲んで、もう目が覚めないようにしよう。
私は、錠剤を飲めるだけ飲み下した。

何も考えず、黙々と。

――気が済むまで錠剤を飲み下し、壁にかかった時計に目をやると、二時半を少し過ぎたところをさしていた。

秒針の進む音が、やけに大きく響く。
私は、まだ水の残っているグラスを片手に窓辺に近寄った。
真っ黒い夜空の大半を、大きな大きな月が支配している。
その輪郭が、見る間にじわりと広がった。

目の錯覚なんかじゃない。
月が地球に近づいているのだ。
今、こうして見上げている間にも。

――月が地球に落ちてくる。

何かの冗談のような話が、世界各国の政府から真顔で告げられたのが、おとといの朝。
公式な機関とやらの計算では、今日の朝五時ごろ、月が衝突するらしい。
マスコミの「どうして今まで隠していたんだ」という追及には、「混乱を避けるため、極秘に解決するつもりだった」という間抜けな答えが返ってきた。

世界はそれから大混乱に陥った。
混乱に拍車をかけたのが、噂だ。

「政府の高官とその家族にはシェルターが用意されている」という噂には信憑性があったけど、「宇宙人が助けに来てくれる」だの「セロリを食べ続けていれば助かる」だの、とてもじゃないが信用出来ない噂も多かった。
私は昨日の昼間、何かの噂に惑わされたらしい集団が、奇怪な声をあげて転がりながら道を行くのを見た。
ああすれば助かるというのだろうか。はたから見たら、ただの馬鹿な集団に過ぎないのに。

常識のある人間は、政府からの情報を頼りに、月の直撃する位置から少しでも遠くヘ逃げようと、旅立った。
私の父と兄も、そうした。

私は……家に残ることにした。
生き延びることに、何の魅力も感じなかったからだ。

月の直撃を免れたからといって、めでたしめでたしでは終わらない。
生き延びた者どうしで行われるだろう、過酷な環境での生存競争に巻き込まれるのは御免だ。
だったら、眠っている間に全てが終わってくれればいい。
痛みも恐怖も感じることなく、人生に幕を引きたい。
中途半端に生き延びて、争い破れ、叩かれ踏みにじられて惨めに死ぬよりずっといい。

私は、空になったグラスをテーブルに置くと、寝室に向かった。

――最後くらい、せめて楽しい夢を見たい。










* * * * * * * * * *


百話達成記念リクエスト第3段は、つる様にしました。
では、ここで以前頂いたコメントに返事をしたいと思います。

1.自分自身を主人公にするというのは、なかなか勇気のいることでした。でも、「自分ってどういう人間なんだろ」って振り返る良い機会でした。
考えた末、「こういう人間になりたい」みたいなものを出そうと思ったのですが……いかんせん、学生時代にこのテの質問で良い子ちゃんな答えばっかりしていたせいで、思考がひねくれて、「こういう死に方をしたい」という方向に……。
寝てる間に、なーんにも気付かずに死にたいです私。
後ろ向きですいません。


2.「自転車に乗って」は思い出深いですねぇ。つる様に誘っていただかなきゃ書かなかっただろうし、何より、珍しくするっと出てきた話なんです。一瞬、「私って、こういうほろ苦い話向いてるのかしら」などと考えましたが、ただの偶然でした。
「天罰」は時代考証めちゃくちゃですが、気に入っていただけたなら嬉しい限りです。わーい。


3.「スズフジメモ」に初めてつる様から感想を頂いた時、「これ書いてる意味あんのかな」と悩んでいた頃だったので、すごく励みになったのを覚えてます。
目次はいずれ……。てか今まで書いた話をジャンルごとにまず仕分けしなきゃいけないのか。
文体は確かにずうううっとこんな具合ですね。安定しているといえば安定してるけど、成長もしてないっていうことで……何せのんべんだらりとやっている人間ですので(涙



次のリクエスト第4段は、火群様のリクエストにお答えします。

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
由愛さん、これお世辞抜きで面白いわ。構成がいいんだわ、きっと。
>――月が地球に落ちてくる。
ショートショートにありがちな設定なのに、導入部にそれを使わないで、主人公の視点から入ってるでしょ。それからそこんとこに触れるから新鮮だったし、主人公の行動はそういう事情だったのかと納得できるし、しかもリクエストに答えちゃってるし、最後もまとまってるし、言うことないです。
そして、わたしもこんな最期が理想。
>スズフジメモ
は、好き。物書きさんなら、みな楽しみにしてると思いますよ。
ほんと、ありがとう。
つる
2008/05/11 00:35
これもいいですね〜。シンとした静寂感があって。中盤で意外な展開があって驚きました。
ところで、ご自身をテーマにされたんですか?最後のコメントを読んで、さらに驚きました。他の方のリクエストを把握していないので、次の火群さんのリクエストで何が出てくるかも楽しみです。
ia.
2008/05/11 02:40
感想ありがとうございます。

つる様>「違う。リクエストしたのはこういうんじゃない!」って言われないかドキドキしながらアップしたので、ホッとしました。
構成までほめられて、ホントに嬉しいです。
つる様が毎回感想を下さるので、それを励みにここまで来ることができました。
これからもまた頑張ります!

ia.様>静寂感を文章で現すの、苦労しましたよ〜。
昔、家族が寝静まった夜中に起きてひっそりゲームしてる時期がありまして(音は消してた)、その時のこと思い出しながら描写しました。
あの時感じた夜の静けさは、今でも特別な思い出です。

火群さんのリクエストはアンドロイドの出てくる話なんですが……初めて書く分野だから、どうなることやら。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/05/11 16:13
百話達成記念リクエスト3:「眠れ 眠れ」〜つる様に捧ぐ。〜 プラスマイナス1/BIGLOBEウェブリブログ
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