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zoom RSS 百話達成記念リクエスト1:「G氏と友人」〜ia.様に捧ぐ。〜

<<   作成日時 : 2008/05/01 22:53   >>

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その男の名を、仮に、Gとしよう。

G氏は、コンクリートの壁で四方を囲まれた薄暗い部屋で、一人黙々と作業をしていた。
床に赤い塗料で丸い円を描き、角度や線のを几帳面に測りながら、色々と書き込んでゆく。
出来上がったそれは――一般に悪魔を呼ぶために使われる、魔法陣というものだ。
G氏はその前に立って両手をかざし、何やらぶつぶつと呪文のようなものを唱え始めた。

すると、ぼわん、と嫌な臭いのする煙とともに、魔法陣の中心に、黒い体に二本の角を持つ悪魔が現れた。

「俺様を呼んだのはお前か」

低い声で、悪魔はG氏に尋ねる。
普通の人間なら、逃げ出したい衝動に駆られていることだろう。

「ああ」

しかし、G氏は臆することなく悪魔を見つめる。

「何が望みだ?」

悪魔の言葉に、G氏はきっぱりとした口調でこう言った。

「死んだ友人を生き返らせて欲しい」

「ほう……なんとも友達思いなことだ」

悪魔は赤い目を細める。
感動しているのではない。
あざわらっているのだ。

しかし、G氏は真剣な表情を崩さない。

「では、代わりにお前の命をもらうが、かまわんのだな」

悪魔の言葉に、G氏はためらうことなく、静かにうなずいた。

「ああ。あいつが生き返ってくれるのなら、俺の命など安いものだ。俺には幸い、妻も子供も、親兄弟もいないからな」

「ふふん。麗しい友情に乾杯、と言っておこうか」

悪魔は、G氏の前に手を差し出した。
それから、さほど時間はかからなかった。
G氏の心臓がずくん……っと無理矢理に動きを止める。

G氏はうめきながら胸を押さえ、やがて、ばったり倒れた。
薄れゆく意識の中で、死んだ友人の顔が浮かぶ。

――これでいいんだ。

G氏の唇が、ゆがむ。

とにかく、あいつが生き返ることだけが今の俺の一番の望みなのだから。
あいつが生き返ることは、すでに別の人間に知らせておいた。

だから、これでいいんだ。





――それは、唐突に起きた。

火葬場についた途端、棺桶がガタガタ揺れ始めたと思ったら、中から死んだはずの男が現れたのだ。
居合わせた人間が「幽霊だ」「怪奇現象だ」と大騒ぎをする中、生き返った男の元に、一人の若い男が近付いた。
見るからにガラの悪そうな、チンピラ風の男だ。

「よお、死に損なったな」

気楽な雰囲気をまとい、親しい間柄であるかのように肩に腕を回す。
顔にかかる息が煙草臭い。

「じゃあ、これからも頑張って借金を返してもらおうか」

生き返った男は震え出した。
このチンピラ風の男が誰なのか、自分が何故自殺をはかったのかを思い出したのだ。

行き詰まった事業を立て直すため、友人を説得して連帯保証人になってもらい、資金を調達した。
だが、立て直しはうまく行かず、莫大な額の負債を抱えた彼は、会社も住むところも家族も失い、友人の所に転がり込んだ。
そこへ、毎日のようにこのチンピラ風の男がやって来て、借金を返せと迫ったのだ。
チンピラ風の男は、当然、友人にも執拗に絡んだ。

友人には、すでに多大な迷惑をかけている。
この上さらに自分が死ねば、友人が多額の借金を背負うことはわかっていたけれど……それでも男は、死を選んだ。

確かに、死んだはずなのに……。

首にかかったロープの食い込む感触を思い出していると、チンピラ風の男がニヤリと笑って顔を覗き込んだ。

「オレがここにいるのが信じられないか? 実はなあ、昨日、お前のお友達が電話で教えてくれたんだよ。お前が『戻ってくる』ってな。だから葬式に潜りこんで待ってたのさ。まったく手のこんだことしてくれるぜ。死んだフリして借金踏み倒して逃げる気だったのか?」

チンピラ風の男は、パン、と生き返った男の肩を叩く。
大した痛みはないはずだが、男の体は大げさなほどビクッとはねた。

「ああ、また死んでどうにかしようなんて考えない方がいいぜ。連帯保証人になってたお前のお友達な、心臓麻痺で死んだから」

生き返った男の耳元にそう囁き、チンピラ風の男は背を向ける。


落ちつく様子もなくパニックに陥っている人々。
そのただ中にある生き返った男。
一人、悠々と火葬場を後にするチンピラ風の男。

――本当の事情を知る者が、そこにいるはずもなかった。









 * * * * * * * * * * 


百話達成記念リクエスト第1弾は、ia.様のリクエストにしました。
では、ここで以前頂いたコメントに返事をしたいと思います。

1.百話は一気には読めませんものね。読めって言われたら、ぶん殴っちゃいますね。
「おなかいっぱいの復讐」はアイディアが出てから形にするまで長いこと間があった作品なんで、そう言っていただけると浮かばれます。
「ベッドの下に……」は元々が怖い話なので、オチを変えりゃ怖くないかも、とぼんやり思った記憶が。


2.悪魔にするかホラーにするか、あるいは欲張って両方か、と悩んだんですが、悪魔を採用しました。
期待に添えられてるといいんですが、どうですか?(ドキドキ)
「読みたかったのは、こういうんじゃないわー!」とか言われたらどうしよう。


3.二百話達成……あと何年かかるんだろう。でもがんばりまっす! 生暖かく見守ってくださいませ。



次のリクエスト第2弾は、レイバックさんのリクエストにお答えします。


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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
あっ!私のリクエストで書いてくれたんですね。これ好きです〜!私の好みで書いてくれたのですから当たり前なのかもしれませんけど。歴代順位を上回り、一番好きです。
不思議さと怖さ、オチの意外性、ショートショートならではの面白さが満載ですね。ありがとうございました。
ia.
2008/05/02 20:54
前半に魔法陣とか悪魔をだしたから、後半のリアル話もマイルドになって全体に不思議な印象で終わってると思います。味付けがうまいなあ。
つる
2008/05/02 21:29
感想ありがとうございます。

ia.様>何とかご希望に添えることができたようで、ホッとしました。
これからも、歴代順位を次々に塗り替える話を書くよう精進しまっす!

つる様>神様じゃなく、悪魔にお願いするというところがミソです。
もし神様だったら、目的を見抜いて生き返らせてくんないんだろうな。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/05/03 11:31
百話達成記念リクエスト1:「G氏と友人」〜ia.様に捧ぐ。〜 プラスマイナス1/BIGLOBEウェブリブログ
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