プラスマイナス1

アクセスカウンタ

zoom RSS 足元からの危機(十一回目)

<<   作成日時 : 2008/04/02 22:38   >>

トラックバック 0 / コメント 2

通路を黙々と進んで行くと、いきなり視界が開けた。

……気がつくと辺りの風景が変わっていた。

後ろに延びていたはずの通路はなくなっていて、だだっ広くて見渡す限りなーんにもない部屋の中にいた。
天井も床も壁も、白い石を敷きつめて作られている。
奥の壁に、出入り口らしいのが小さく見えた。

「タマちゃん、ここって……」

オレがきょろきょろしていると、タマちゃんは鼻を動かして匂いをかいだ。

「あるじ、ここは地下帝国だ。それも、奴らの中枢に近い位置にいる」

おお、そりゃラッキーだ。
もし何もない原っぱにいきなり放り出されてたら、さすがに途方に暮れてたぞ。

「おーし。ではでは、『陛下』とやらに会いに行こうじゃねえの」

オレは、右手で作った拳を左手に打ち付けて、ぱん、と音を出した。
妙にやる気が出てきて、顔が自然と笑う。

「気をつけた方がいい。そうたやすくはいかぬと思うぞ」

タマちゃん……君って、何があってもハイテンションになったりしないんだろうね、きっとね……。

「まあ、取りあえずここを出ようぜ」

オレは、奥の方に見える出入り口らしいところを目指して歩き出した。
だって、面倒なことはさっさと取り掛かって早く終わらせるのが一番じゃん。

「あるじ、それ以上動くな!」

「へっ?」

タマちゃんが、いきなり切羽詰まった声を上げたので、オレは足を止めた。

ただ……声を聞いてから一歩、踏み出していた。

タマちゃんの表情を見るまでもなく、マズイことをしたのだとわかった。
踏ん付けた床石が、がこ、と床にめり込んだからだ。

……欠陥住宅?

なんて思ってたら。

「うおっ!?」

轟音と一緒に、恐ろしいスピードで床がせり上がってきた。
……いや、違う。
床から、壁がもの凄いスピードで出てくる!
オレは慌てて後ろに飛びのいて、巻き込まれないようにした。

「な、何じゃこりゃあ!」

その後も壁は続々と床から出現してきた。
でも、「右!」とか「左!」とかタマちゃんが言う方に逃げると、出てくる壁にぶつからずに済んだ。

……ちと油断して、背中や靴先をこすって心臓が縮み上がったりしたが。

「やはり……」

壁を避けて走りながら、タマちゃんがつぶやくのをオレは聞き逃さなかった。

「やはりって何だよ、タマちゃんっ」

ああ、走りながら何かしゃべると、すっげえ息がツライわ……。

「床に敷かれた石の高さが、あるじの踏んだ所だけ少し高かったのだ。不自然だと思っていたが、仕掛けがされていたのだな」

タマちゃんすごいや。
オレ、全然気付かなかったぞ。

必死に避けて、避けて、避けまくって、どのぐらい経ったのか。

――ついに壁の出現が止まった。

オレは、さっき見た出入り口らしいところの前にいた。
肺がねじれたみたいに痛くて、ぜーぜー言うのを止められない。
こんなにぜーぜー言ったのって、小さい時に犬に追いかけられてトラウマになった、あの時以来じゃないだろうか。
ごぉぉぉん……という残響が消えると、辺りは恐ろしく静かになった。
ああ、轟音の中で走り回ったせいか、耳がキーンッて痛い。

で……でも!

オレはあの迫り来る壁を全て避けてみせた!
タマちゃんの指示通りに避けただけって言われりゃそれまでだけど、でもやり遂げた!
どうだタマちゃん、見なおしたか。
これでもオレを、髪の毛より根性無しのヘタレ男呼ばわりするのか!?

「あ、あれ……?」

そこへ来てオレは、タマちゃんがいないことに気付いた。

「タマちゃーん、おーい、どこ行ったー?」

ここで大声を上げていいもんなのか迷いはあったが、オレはタマちゃんに呼びかけてみた。
まさか……床から出てきた壁に潰されたりしてないだろうな……?

「あるじ、無事かっ」

タマちゃんの声がした。
ああ、良かった。生きてた。

「おう、何とかな。ところで今、どこにいるんだ」

取りあえず、オレの位置から見える所にはいないみたいだが。

「あるじ、目の前に壁があるだろう。我はその向こうにいる。どうやら、我々はこの壁によって分断されたようだ」

オレは、目の前の壁に触った。
ざらざらした感触が指に伝わる。
この向こうに、タマちゃんがいるのか……。

「乗り越え……んのは無理だな」

壁は天井にくっついていて、乗り越えて向こうに渡るのは無理そうだった。
うーん。どうやってタマちゃんを迎えに行ったらいいものか……。

「仕方ない。先に行け、あるじ」

悩んでいると、タマちゃんが、思ってもみないことを言い出した。

「ええええっ!」

む、無茶言うなよーっ!
こんな右も左もわからんような所に放り出されて生き延びられるほど、オレたくましくねーよ!

「あるじ、心配するな。必ず後から追い付く」

いや……実を言うと、タマちゃんの身の心配をしているというより、自分の身の心配しちゃってんだけどね……。

「あ、ああ……」

タマちゃんがそう言うなら……行った方がいい、よなあ。

オレはショルダーバッグを肩にかけ直し、出入り口らしいところに入った。
入ってみるとそこは、奥の方まで、ずううっと通路が続いていた。
さっきの部屋と同じで、白い石が敷き詰められている。
……進んで大丈夫かなあ。
さっきの騒ぎを聞き付けて、誰かが来たりしないんだろうか。
誰かが来たら逃げ場ないよなあ。

……ここでウダウダ悩んでたってしょうがねえか。

オレは、てくてく進むことにした。
タマちゃんのことが気になるけど……先に行けって言うし。

通路を進んで行って突き当たりを曲がった所で、どんっと何かにぶつかった。

何だ? 行き止まりか?

顔を上げると、ムキムキマッチョな大男が、オレを見下ろしていた。

……冷や汗、たらり。

「お前……ここで何してるっ?」

マッチョ男の顔に、あからさまに警戒する表情が浮かんだ瞬間。

「ぎょええええ〜っ!」

オレは、マッチョ男を力いっぱい突き飛ばし、走った。

いきなりの大ピンチ。
こいつを何とかして、タマちゃんと再会して、じいさんの息子を説得して、家に帰るんだ!

だけど、マッチョ男が走る早さの凄いこと。

このままじゃ追い付かれる!

オレは走りながら、ショルダーバッグを開けて中をまさぐった。

な、何か。
何か、武器になりそうな物は入ってないか!

まさぐっている指先に、かさ、と慣れた感触がある。

これは……ポケットティッシュ〜!?

オレは、一瞬だけ気が遠くなった。
状況が許してくれたなら、その場にへなへな座り込んでたに違いない。

そりゃ、ポケットティッシュは必要だ。
鼻水垂らしたままじゃ格好悪いし、鼻血が出た時に必要だもん。

だけど……だけど、遠足じゃあるまいし、いらんだろコレ!

ポケットティッシュを奥に押しこんで、さらにガサゴソやってると、指先が大きめの袋に当たった。
引っ張り出してみると、豆がいっぱい詰まったビニール袋だった。

ブツッ、と頭の中で何かがぶち切れる音がした。

おい、じいさん。
これのどこが「使えそうな物を入れておきました」なんだよ!
ポケットティッシュに豆に、わけわからん道具に、全然使えそうにないモンばっかりじゃねえか!
なんか武器になるモンなかったのかよ!
スタンガンとかスタンガンとかスタンガンとか!

ええい、こうなりゃヤケクソだ!

オレは、袋を破って手を突っ込み、豆を一つかみすると、走るスピードをちょっと緩めた。

マッチョ男は、猛然と追い掛けてくる。

「おらあああっ!」

オレは振り向きざま、奴の顔面に豆を思いっきり投げ付けてやった。
これで撃退できるなんて思ってない。
目くらましできれば、ちょっとは逃げる時間を稼げるかと思ったのだ。

「ぐあああっ」

マッチョ男が、顔を押さえてうずくまってる。
あまりの声に、オレはぎょっとした。
そ、そんなに痛かったか?
たかが豆ぶつけられただけじゃん。

思わず足を止めてしまったが、マッチョ男はオレのことなどお構いなしで悶絶し続けていた。

……そういえば。

オレは、ふと思い出した。

節分の時って、豆をまいて鬼を追い払うんだったよな。

もしかして、このマッチョ男、鬼……なのか?
だから、豆をぶつけられてこんなに痛がるのか?

オレは、急いで近い所の床に落ちてる豆をかき集めると、袋に戻した。

……この先、何が待ち受けてるかはわからないが、この豆が有効な武器になるということは、よくわかった。






*1〜10話はこちらからどうぞ。
一話
二話
三話 
四話
4.5話
五話
六話
七話
八話
九話
十話

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
いよいよ地下帝国に侵入したのですね。
まいた豆を回収する「オレ」に笑いました。
つる
2008/04/02 23:47
感想ありがとうございます。

書いてて思いますが、どうもコイツはカッコイイ行動より笑える行動を取ってしまうようで、いまいちかっこつかないです。
こういう男が書きやすい自分にも原因あるんですがね(ふぅ)

よろしければ、またおいで下さいませ。

鈴藤由愛
2008/04/03 07:16
足元からの危機(十一回目) プラスマイナス1/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる