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zoom RSS 足元からの危機(七回目)

<<   作成日時 : 2008/03/22 23:52   >>

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「ただいま〜」

オレは、ずたぼろな体を引きずるようにして家に帰り着いた。
靴を脱ごうと身を屈めて、そのまま尻餅をつく感じで座り込む。

つ、疲れた。
なんつったら良いのかわからんが、途方もなく疲れた。
体もあちこち痛いし、マジでしんどい。

……明日、起きられんのかな、オレ。

そんなこと考えてぼーっとしてると、リビングにつながるドアが開く音がした。

母さんかな。

オレは、そっちに顔を向ける。
予想通り、母さんがいた。

だが……。

「だ、誰なのよあなたっ!」

振り向いたオレが見たのは、警戒心で引きつった顔の母さん。
震える両手で、しゃもじを握りしめてる。

……護身用の武器のつもりか、それ。

「な……何言ってんだよ、母さん。オレの顔忘れちまったのか?」
「うちには息子なんていませんっ」

……おい。
一体何が起きてるんだ?
腹を痛めて生んで育てた息子の顔を、ど忘れするなんてことがあるのか?

「母さん、どうしたんだよ。オレだよ、オレ! 見てわかるだろ?」

スーツ男に、顔が変わるほど殴られた覚えはない。
オレは必死で訴えたのだが。

「いい加減にして。これ以上居座るつもりなら、警察を呼ぶわよ!」

ヒステリックに叫ぶ母さんを前にして、黙って立ち去る以外に、一体どんな選択肢があったんだろう。
オレは、すごすごと家を出た。
玄関先に待たせていたタマちゃんを連れて。

「御母上の様子がおかしいな」

しばらく歩いたところで、タマちゃんがぽそっと呟いた。

「……聞いてたのか?」
「犬は耳が良いのだ。聞いたというよりは聞こえた」

オレは、頭をかいた。

これから一体どうしたもんか。
家には入れないし、だからって特に行くアテもないし……。

あ、そうだ。
もしかしたら、母さんは頭をぶつけたか何かして、一時的な記憶障害とかになってるのかも!

オレは、早速携帯電話を取り出して、父さんの携帯電話にかけてみた。
もちろん、母さんの異常事態を報告するためだ。
母さんが大変なことになってても、父さんが正常だったら、安心っていうものだ。

コール音三回の後、「もしもし」という父さんの声がした。

「もしもし、父さん。あのさ……」

母さんの様子が変なんだ、と言おうとした矢先。

「あの……どちら様で?」

父さんの他人行儀な声がした。

「とう……さん……」

自分の声がかすれているのが、わかった。
頭から冷水をかぶせられたみたいに、血の気が引いていく。

「あの……私には息子はおりませんが」

おい。
母さんだけじゃなく、父さんまで記憶障害になってるのか?


――電話は、いつの間にか切れていた。


そ、そうだ、サトルに電話してみよう!
父さんと母さんは、グルになって何かイタズラを企んでるのかもしれない。
もしそうだったら、うちの親とあまり面識のないサトルは、オレのこと「知らない人」とは言わないはずだ。

オレはカバンから携帯電話を取り出し、サトルの電話番号をプッシュした。

「はい、もしもし」
「あ、サトル!」

うちの親が何だかおかしいんだ、と言おうとした矢先。

「はあ? アンタ誰だよ」

親しみを感じさせないサトルの声が、オレをどん底にたたき落とした。
今日の昼休みには、一緒に弁当を食った相手なのに、急に何万キロも遠い場所に離れちまったみたいで、ショックだった。

そんな……。

「サトル、おい、ふざけてんのか!」
「アンタ、たぶん番号間違えてるよ。もう一回かけ直してみれば」

ブツン、という音で、強制的に繋がりが断たれた。
ツー、ツー、という音を聞きながら、オレはうちひしがれていた。


――冗談じゃない。
こんなのは、きっと何かの間違いだ。陰謀だ。いたずらだ。

そう、そうに違いない。

オレは、携帯電話に登録されたアドレスに、片っ端から電話をかけることにした。


――それから、どのぐらいの時間が経っただろうか。


オレは公園のベンチに座り、電池の残量を示す目盛りがあと一つになった携帯電話のディスプレイを見つめ、ひたすら途方にくれた。

登録されている番号に片っ端から電話をかけたが、全滅だった。
全員、オレのことを「知らない」というのだ。
親や友達だけじゃなく、バイト先までも、オレのことを「知らない」と言った。

今のオレには、親も、友達もいない。
さらにはバイト先も。
――もうちょっとしたら、給料日だったのに。

オレ、これからどうしたらいいんだろう。
財布の中には二千円ぐらいしかない。
極端な話、一日百円で使っていったとしても、二十日ぐらいしか持たない。
二十日経ってもこのままだったら、オレは……どうなるんだろう?
どうやって生きていったらいいんだろう?

「あるじ……」

オレは、いたたまれない気持ちになって、目の前のタマちゃんを抱きしめた。

……うう。

久々に声あげて泣きそうだ、オレ。

周りに知っている人が誰もいない時。
誰かに話を聞いてもらえなかった時。
そんな時に「孤独だ」なんて感じていたが、今オレが感じている孤独感は、それの比じゃない。

だって、今までの「孤独」は時間が経てば、あるいは場所を変えれば解消されるものだったから。

オレが今経験しているのは、どうあがいても解消されない「孤独」だった。


「お久しぶりですね」


じいさんの声がして、オレは顔を上げた。

「あ……!」

このじいさん、見たことある!
ずっと前に、サトルと待ち合わせしてたオレに話しかけてきた、あのじいさんだ。

「貴方はどうやら、存在を抹消されてしまったようですね」

もしオレが冷静だったなら、じいさんに質問をぶつけまくっていたに違いない。
「どうしてあなたがここに」とか「何か知っているのか」とか。

だが、情けないことに……今のオレは上手く言葉を返すことができない。
濃い疲労感が、全身に重くのしかかっていたから。

だから、オレは、黙ってうなずいた。

「オレ……何が何だかわからねえよ。なんでこんな目にあわなきゃいけねえんだ?」

……あ。
言い終わったら、なんか涙出てきた……。

「連中のやり口ですよ。地上の人間一人の存在を抹消し、その空席に地下からの人間を置く――そうやって地上を侵略していくのです。明日にもあなたのポジションに誰かが納まることでしょう」

あやめ先生も、こうやって存在を消されたんだろうか。

「こんな手間のかかる事してないで、戦争しかけて一気に制圧した方が早いんじゃねえの?」

やっぱり、オレの頭は正常に働いていないらしい。
疑問に思う場所が、我ながら間違ってる。

じいさんは、静かに首を横に振った。

「まともに戦ったら、損害が大きすぎますよ。勝利して手に入れた物が、何もかも破壊されつくされた荒野では意味がないでしょう? 今の文化レベルの世界を手に入れたいのなら、時間はかかりますが、こちらの方が賢明で損害も少ない。支配階級のみを入れ替えることができたら、実質的には地上を制圧したも同然ですからね」

語り続けるじいさんを前にして、やっと、オレの頭が正常な働きを始めた。
オレの頭に、ようやくまともな疑問が浮かんだのだ。

「……あんた、何でそんなに詳しいんだ?」

オレの質問に、じいさんはかすかに笑ったまま、答えなかった。

「夜は冷えましょう。私の家にでもいらっしゃい。たいしたもてなしは出来ませんが、外で夜を明かすよりはましですよ」

じいさんはオレに背を向けて、すたすた歩き出す。
――ついて来い、ってことだろう。

「行こう、あるじ。この老人に敵意や悪意は感じられない」

オレは、みじめな気持ちを引きずりながら、タマちゃんと一緒にじいさんの後をついて行った。
またジクジクとかゆくなってきた片目をこすりながら。






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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
お話の核心に近づいたようで、わくわくしながら読んでしまいました。
そうか。じいさんか。いましたね。はいはい。

このじいさんは果たして何者なのであろうか!待て!次号!<つづく>
つる
2008/03/23 01:20
こんばんわ。
全部読んでから、と思ってコメが遅くなっちゃいました。
地下帝国に桃太郎、壮大なのに、なんか笑えます。タマちゃん、いい味ですね♪
今回は主人公がとんでもないピンチに陥ってるし、続きが楽しみです♪
ia.
2008/03/23 03:18
感想ありがとうございます。

つる様>やった、次回予告がついてる!
今回、じいさん出してたのを思い出したので引っ張り出して絡めました。
たぶん敵ではないですよ、たぶん。

ia様>タマちゃんいい味出てますか、ありがとうございます。
ノリとしてはB級映画のノリで書いてます。
主人公はこれからも、どんどんエライことに巻き込まれますムフ。

よろしければ、またおいで下さいませ。

鈴藤由愛
2008/03/23 18:15
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