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zoom RSS 足元からの危機(六回目)

<<   作成日時 : 2008/03/20 12:47   >>

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オレは、じりっ、と後ずさった。
頭の中で、ガンガン警報が鳴ってる。
逃げろ、逃げろ、と誰かが耳元でうるさく叫んでいる気がした。

「言え。お前はどこの勢力のスパイだ」

こんな状況でも猛烈にかゆくてたまらない片目をこすっていると、スーツ男はがいきなりそんなことを言い出した。

「ス、スパイ?」

一体何の濡れ衣だ、おい。
オレはただの高校生だ。

「忘れたか。謁見の様子を盗み見ていた時に眼球をつつかれた事を」

……って、ああー!

オレは思い出していた。
道路に開いていた穴を興味本位でのぞいて、片目をつつかれてものもらいになった、あの事件を。

「私はスパイを特定するために、片目をつついた時に特殊な術をかけておいたのだ。地下帝国に関した人間や事物に接触すると、うずいて猛烈なかゆみを起こす術だ。お前は今、片目がかゆくてたまらないだろう? それでもなお弁解が出来るのなら、聞いてみたいものだ」

片目をこするオレの手が止まる。
そう言えば、このスーツ男、オレの片目をつついた奴と同じ声じゃねえか。
鎧を着てたから顔がわからなかったけど、なんで気付かなかったんだろ、オレ。

「誤解だって! オレはただ、道路に穴が開いてたから、気になってのぞいてみただけなんだよ。スパイなんかじゃねえって!」

オレは、ありのままをしゃべった。
そうだ。
興味本位でのぞいただけだ。
何かあったら面白いとは思ってたけど、あんな物騒な場面を目撃したかったわけじゃない。

「そうか。あくまでもシラを切るつもりだな」

スーツ男が、低い声でつぶやいた。
同時に、右手をそっと動かすのがわかった。

動物的な勘が、オレに大声で警告した。

今すぐ逃げろ! と。


「うわあああっ!」


オレは、走り出した。
殺される殺される絶対殺される!

一番近い教室の中に飛び込んで、近くの机を片っ端から引っくり返す。

何か……何か、身を守れそうな物は!?

なぎ倒すようにして近くの机を引っくり返していたオレは、ふと黒板の下に目が行った。
数学の授業で使っていた、黒板に図形を描く時に使う巨大な三角定規があった。

――これだ!

オレは、巨大な三角定規を引っつかむと、教室のドアを閉めて壁に身をくっつけた。

スーツ男が教室に入ってきたら、こいつで思いっきりぶん殴る。
思いっきりぶん殴って、スーツ男が激痛にのたうちまわってる間にもっと遠くに逃げる。
もしこっちのドアじゃなく向こう側のドアから入ってきたなら、その時は攻撃しないで逃げる。

それしかない!

ああ、でも。
もし打ち所が悪くて、スーツ男が死んじゃったりしたら、オレ、殺人犯だよな?
裁判所行きだよな? 刑務所行きだよな? あれ、少年院か? とにかく前科一犯のフダ付きだよな?

でもでもでも、オレ、今はっきり命の危機を感じてるもん。

――やらなきゃ、殺られる、ぐらいの。

息をひそめていると、やけにゆっくりした靴音が近付いてくるのがわかった。

くそっ。こいつサドだ、絶対サドだ!
オレが怯えて隠れてるのを知ってて、さらに追い詰めて楽しんでるに違いない!

「隠れても無駄だ。そこにいるのはわかっているぞ……」

オレのいる方の教室のドアが、細い隙間を広げ始めた。


――今だ!


オレは、巨大な三角定規をスーツ男の顔面めがけて振り下ろした。
無論、力いっぱい。

スーツ男、鼻血が出てもメガネが壊れても歯が欠けても恨むなよ!!

なのに。
木でできた頑丈な三角定規は、バキッと折れて飛んでいった。

「始めに言ったはずだが。無駄だ、と」

スーツ男が、涼しい顔でオレを見ていた。
間違いなく当たったはずなのに、メガネの位置すら動いていない。

こいつ……どんだけ頑丈なんだよ!?

オレの腹に、拳がめりこむ。
はずみで、オレは後ろにぶっ飛ばされた。
がしゃごしゃがたん! という派手な音が炸裂して、体が壁に叩きつけられた。

ぐええ、マジで痛ぇ……。

息をしようとしたら、むせて止まらなくなった。
口の中に、嫌な感じの酸っぱい味が広がってくる。
頭がガンガンして這いつくばっていると、スーツ男の足が視界に入った。

「正直に言う気になったか。スパイ」

ぐいっと髪を引っ張られて、頭を持ち上げられた。
視界いっぱいに、スーツ男の顔が映る。
感情のない冷たい目に、オレが映っていた。

「スパイじゃ、ねえって……」

うげっ。
何か言うだけで、吐きそうだ。

「なるほど。ではもう少し痛い思いをするがいい」

やべえ……。
スーツ男の声に、凄みが増した。

「ところで……術をかけられた眼球がどんな状態になっているか、見てみたくはないか?」

ぐい、とスーツ男の親指が、オレの片目のふちを押さえた。

悪寒が体を突き抜ける。

オレ……ただの高校生なのに、なんでこんな目にあわなきゃいけないんだろう。
今までごく普通に生きてきたのに、なんで今、生きるか死ぬかの瀬戸際にいるんだろう。

「ぐっ」

突然、くぐもった声がして、スーツ男の目が見開かれた。
オレの頭から、手が離れる。
バランスを崩したオレは、ぶざまに床に顔面をぶつけた。

い、今のは……ゴッっていったぞ……頭蓋骨にちょっと響いた……。

「あるじ、ご無事ですかっ」

ああ、タマちゃんの声がする……。
タマちゃん、オレ無事じゃないよ……苦しくて痛くてなんか目の前グラグラするよ……。

「あるじに危害を加えるというのなら、容赦はせん!」

顔を上げると、見慣れた白い毛むくじゃらが、オレとスーツ男の間に立ちはだかるのが見えた。
ああ、タマちゃん……オレを助けに来てくれたのか……。
何をしたのかはよくわからないが、スーツ男が腕を押さえているところを見ると、どうも腕を攻撃したらしい。

「ふっ、神犬の末裔を従えていたとはな。お前はやはり、一般人ではないな」

いや、ただの単なる一般人だってば……。

「戦って負けるとは思わんが、ここは一旦退くとしよう」

スーツ男は、やけにあっさりと引き下がった。
そう、危険なことには全く縁のない……もとい、なかったオレですら不自然に思うほど、あっさりと。

「忘れるな。計画は進行しているのだよ。今、こうしている間にも、な」

そして、妙に気になる言葉を残して教室を出て行った。

口元にうっすら笑みが浮かんでいたように見えたのは……気のせいか?
……なんか、気になるな。
何か、別のこと企んでねえか?


「あるじ、立てるか?」

その声で我に返ると、タマちゃんがオレを見上げていた。

「無理……あちこちすっげー痛い」

痛い、と言った瞬間、なんだか痛みが増したような気がした。

「……申し訳ない。もっと早く気付いていれば、奴に危害を加えられる前に駆けつけることもできたのだが……」

うなだれる様子が気の毒で、オレは思わずタマちゃんの頭をなでていた。

「……気にすんな」

腹やら頭やらはズキズキするが、足はケガしてないから、休めば何とか歩いて帰れるかもしれない。

と、視界が急に変わった気がした。
明確に何かが変わったというわけじゃなく、霧が晴れたというか、明るくなったというか、そんな感じだ。
タマちゃんが顔を上げて、鼻をひくひくさせる。

「どうやら結界が解かれたようだ。これで自宅へと戻れよう」

へー。
結界が解けるってこんな感じなのか……。

と、周りを見てみると、オレがなぎ倒した机や散乱した物が元通りになっていた。

「何もなかったみたいになってるねぇ……」
「そのための結界ということらしい。奴らめ、痕跡を残しておきたくないようだ」

……結界が解けても、オレのケガは「なかったこと」にはならないようだが。

「あー。痛いよー。タマちゃーん、ちょっと枕になってくれぃ」

言いつつタマちゃんの背中の毛に顔をうずめると、

「甘えるでない、あるじっ」

しっぽで顔をはたかれた。
ちぇ。


この時オレは知らなかった。
安らげる場のはずの家で、絶望させられる羽目になるなんて。






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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
危険だわ、危険すぎる。目が痒いどこンの騒ぎじゃないのね。こうなったら「オレ」は本気モードね。変身するのかしら。それともタマちゃんが変身……
読めない。展開が全く読めない。
つる
2008/03/22 00:22
感想ありがとうございます。
実は書いてる本人ですら展開が読めません。
いきあたりばったりです(お前
変身かあ、それもいいけどやっちゃったらさらにお話が長くなりそうだなあ。
近いうちに完結させたい……。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤 由愛
2008/03/22 22:25
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