プラスマイナス1

アクセスカウンタ

zoom RSS 足元からの危機(十回目)

<<   作成日時 : 2008/03/28 22:42   >>

トラックバック 0 / コメント 3

「今日は体を休めて、明日の朝に行動を開始しましょう」

じいさんの言葉で、オレは洋館の一室にお泊りすることになった。

遅い晩メシを食わしてもらい、風呂まで用意してもらった。
自分の家じゃないから、あんまりくつろげなかったけど。

んで、その次の日の朝。

オレは、洗面所で、爆発したみたいな寝癖だらけの頭と格闘していた。
髪を水に濡らしては手ぐしでとかしたり、押さえたり、あるいはちょっとひねってみたり。

……直らない。

跳ね上がった前髪は、びしょ濡れになって勢いを失うどころか跳ね上がったままだ。
くそー。
オレの髪ときたら硬くて太くて、一旦寝癖がつくとなかなか取れないのだ。

オレ、枕が変わるとこうなるんだよなあ。
おかげで修学旅行でも恥かいたっけ……。

「どうです、直りますか」

ドアの外から、じいさんの声がする。

「ダメだ〜。もうあきらめるわ」

オレは、洗面台の栓を引っこ抜いた。
ごぼごぼごぼ、と渦を巻きながら、水がなくなっていく。

「あるじよりも、あるじの髪の方がよほど根性があると見える」

ムカッ。

足元に座ってオレを見上げつつ、失礼なことを言うのは……もちろんタマちゃんだ。

「何か言ったかな〜タ〜マちゃ〜ん」

しゃがみこんでタマちゃんの頭をぐりぐり乱暴になでるオレ。

「うっとうしい。我は先に出ているぞ」

オレの手をすり抜けて、タマちゃんはドアの前へ。
何をするのかと思って見てると、タマちゃんは背伸びしてドアに寄り掛かり、前足を伸ばしてドアノブを器用に回して開けた。

「おお、すっげえ〜!」

こういうことするペット、テレビで見たことある!
なんて感激してたら、

「あるじ、今、物凄く馬鹿みたいに見えるぞ」

……タマちゃんにシラけた目で見られた。
あ、あるじをそんな目で見ていいと思ってんのか、おい!

洗面所を出たら、じいさんが居間に案内してくれた。

「朝食を用意しておきました。たいしたものは用意できませんでしたが……」

とは言いつつも、テーブルに用意されていた朝メシは、見た目も味も完璧な、昔ながらの日本の朝食って感じなメニューだった。
卵焼きの巻き方なんかはきれいにできてるし、ご飯もふっくら焚けてるし、みそ汁に入ってるねぎのしゃきしゃき感は、本当に食欲をそそられる。

……でも、なあ。

オレは、うまいうまいと食べながら、頭のどこかで思った。
昨日の肉じゃがの残りをみそ汁に入れてたり、ご飯は時々妙に柔らかかったり、ひどい時はおかずが生玉子だけっていう、母さんの作る朝メシが妙に懐かしいな、と。

ちらっと足元を見ると、タマちゃんは何かの肉を何もつけずにそのまま焼いたみたいな物をもらって食べていた。

「ごちそーさまでしたっと」

食べ終わって、手を合わせてそう言うと、「おそまつさまでした」とじいさんが部屋を出て行った。
何だ? と思っていると、黒いショルダーバッグを持って戻って来た。

「これを渡して置きましょう」

受け取ってみたら、結構ずしっと重かった。

「何だこれ」

開けて中を見てみるが、よくわからん道具ばっかり入ってる。

「あちらで行動する時に使えそうな物を入れておきました」

おお、いたれりつくせりだぜ。

「その……ありがとな。オレ、できるだけのことはしてみるよ」

地下帝国の支配者を説得するなんて大役、正直こなせるかどうかわからんが……オレはやれるだけやってみよう、と思った。
その……期待されてるわけだし、さ。

じいさんは「ありがとう」と、安心したような、でも申し訳ないような顔で言うと、

「それでは、行きましょうか」

打って変わって、顔を引き締めた。

オレは、椅子から立ち上がってショルダーバッグを肩にかけると、じいさんの後にくっついて歩き出した。
足元にいたタマちゃんが、オレの横にぴたりとくっついて歩く。

じいさんは、古い柱時計の前で足を止めると、上ぶたを開けた。
上ぶたを開けた向こうには、振り子も文字盤もなかった。
どうにか一人通れそうなぐらいの通路が、ずうっと奥に続いている。
奥から、何ともいや〜な感じの生ぬるい風が吹いてきて、顔をなでていった。

「老いぼれた私には、地下帝国に通じる道を作るのが精一杯でした」

「これをずーっと歩いていくと、地下帝国にたどり着くってわけだな?」

「はい」

なんか、お化け屋敷の通路を進む前みたいな気持ちになってきた。
これ、途中で何か出たりしねーだろーな……?

「……あなたは、聞かないのですね」

「ほえ?」

オレは、じいさんに振り向いた。
何か、普通は聞くようなことを忘れてるかな? オレ。

「元々父親である私に責任があるだろうとか、お前の息子のせいでひどい目にあったとか、そういうことを追及しないのですか?」

あ、ああ。
言われてみれば、確かにそうかも。
でも……。

「オレ、そこまで考えなかった」

……としか言いようがないよな、うん。
だって、そんなことちらっとも頭に浮かばなかったもん。
と、それよりも大事なことをオレはふと考えた。

「ところで、あんたは一緒に行かないのか?」

じいさんは「はい」と申し訳なさそうに答えた。

「この通路は、私にしか開けられないのです。私がこちらに残っていないと、戻って来られなくなりますので……」

あ、それで意思を継いでくれる人を探してたのか。
納得しつつ視線を戻そうとすると、タマちゃんの姿が目に入った。

「えーと、タマちゃんはどうする? 一緒に来るか?」

足元のタマちゃんを見ると、フンッと鼻を鳴らした。

「あるじの行く所は我の行く所。どこまでも共に参る所存だ」

オレは、胸の奥がじいーんと熱くなった。
頼もしいぜ、タマちゃん。

……なんて感動してたら。

「……というのは建前で、あるじを一人で行かせたら何が起きるかわからぬからな。奴らの中枢にたどり着く前に迷子になって、野垂れ死にするのが関の山、といったところか。仕方ないからついて行ってやろう」

右前足を上げつつ、タマちゃんがミョ〜に滑らかな口調でのたまった。

「ぅおい!」

あー!
そうだよな、お前って奴はそうだよな!
『忠誠を誓う』って言いながら結局オレのことないがしろにしてるよな!
お前ホントは忠誠なんて誓ってねえだろっ。

「あるじ思いですね。あなたの先祖を思い出しますよ」

じいさんがタマちゃんに微笑んでる。
お〜い……どこがどうなりゃそう見えるんだよ〜。

「では我が先導つかまつる。ついてくるが良い」

だ〜か〜ら〜。

タマちゃんに続いて通路に片足を乗せたところで、オレは大事なことを思い出した。

「んじゃ、行ってきます」

オレがそんなことを言うなんて、思いもしなかったのだろう。
じいさんは、ほんの少し目を丸くしていた。
だけど……オレはそう言いたかった。
今、オレがこの言葉を言えるのは、世界中でただ一人、じいさんだけだったから。
……いや。
それよりも、無性に誰かの『行ってらっしゃい』という言葉を聞きたかったから。

「行ってらっしゃい。どうか、無事に戻って来てください」

じいさんの言葉に、オレは一つ頷くと、振り返らずに歩き出した。






*1〜9話はこちらからどうぞ。
一話
二話
三話 
四話
4.5話
五話
六話
七話
八話
九話

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
いよいよですね。丁寧に書かれてるから、すっかりこちらも主人公と一緒に準備万端の構え。
つる
2008/03/28 23:27
>あるじの髪の方がよほど根性がある
タマちゃん、ナイス(笑)
でも、この主人公好きです。ショボイ感じも健気で、応援したくなります!
ia.
2008/03/29 02:38
感想ありがとうございます。

つる様>あ、わかります?今回は描写を丁寧に書くように気をつけてみたんですよ。
「」があまり連続しないように、とか。
でも今見たらあちこちミスがあったり……。

ia.様>下手したらタマちゃんの方が主人公より立場上ですからね。
こういうしょぼい男の方が書きやすいんです、私。
例えると、女の人を素敵にエスコートできる男よりも、ドアを開けてあげたは良いけど閉める時に自分の指はさんで悶絶してるような。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/03/29 22:49
足元からの危機(十回目) プラスマイナス1/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる