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zoom RSS お題DE小説「自転車に乗って」

<<   作成日時 : 2008/02/10 16:19   >>

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*このお話は、レイバック様のブログ「ショートショート風呂」にて参加表明した短編競作企画の作品です。


よく晴れた日曜日。
わたしは自転車で街を行く。

風が気持ちいい。
心に残ったモヤモヤも、どこか遠くに吹き飛ばしてくれそう。


今日、携帯電話を解約してきた。

だって、もう君から電話やメールが来ないなら、持っていてもしょうがない。

――わたしにとって携帯電話は、君にもっと近づくための道具。
ただそれだけだったんだから。

私の手元に残ったのは、三毛猫のストラップ。
いつか行ったお店で見つけて「カワイイ」って言ったら、「じゃあ買ってあげるよ」って君がプレゼントしてくれた物。

見ていると、今でも思い出す。

――君との日々を。


出会いは、去年の春先。

「すいません、このハンカチあなたのですか?」

そう言って、ハンカチを差し出してきた君。
だけど、そのハンカチはわたしのじゃなくて。
それを言ったら、君は「すいませんっ」と赤くなった。
その表情が可愛くて……わたしは恋をしてしまった。

名前もわからない君に。


この気持ちをどう整理したらいいのかわからなくて悩んでいた頃、わたしの仕事先に君がお客さんとしてやってきた。

目が合った瞬間、二人同時に「あっ」て言っちゃったね。

それがきっかけで話をするようになって……バレンタインデーに勇気を出して、わたしは告白した。

君は、わたしのチョコレートを受け取ってくれて、「オレも、あなたのことが好きです」ってはにかみながら返事をくれた。

わたしの世界は、その時からあらゆる物がまぶしい光を放つようになった。

道ばたに咲いてる小さな花まで、とてもキレイに見えた。

毎日の他愛ない会話やメールが、本当に楽しかった。


――あなたのためなら、どんなこともできる。


安っぽいと思ってた言葉が、ごく自然にわたしの心にしみこんできた。

お父さんが重い病気で入院してるという君を助けたくて、わたしは貯金を全額プレゼントした。
入院費を払うために無理なやりくりをしていると聞いて放って置けなくて、わたしが家賃を負担してあげた。

わたしだって結構ギリギリで生活してたけど、不思議とパワーがわいてきて、ちっとも苦にならなかった。


そして君は……ある日、連絡が取れなくなった。

代わりにやってきたのは、刑事。


君は、同じようなやり方でたくさんの女性からお金を集めて遊んでる人だった。
病気のお父さんがいるなんて、ウソだった。
わたしは、たくさんいる「金ヅル」の一人に過ぎなかった。

「あいつは最終的に女に借金させて、その金を持ってトンズラするんですよ。そこまでいかないうちに発覚して、良かったじゃないですか」

刑事はそう言った。


――わたしはペダルをこぎ続ける。


君と歩いた並木道。
君と行ったお店。
君と見た空。


自転車でめぐるこの街には、君以外の全てが変わらずに存在している。

わたしにとって、君は全てだった。
「救い」で、「生き甲斐」で、「希望」で、「未来」。

君がいなくなった時、わたしの中からそれは一気に失われた。

今のわたしの心は、からっぽ。
誰から何を言われても、目の前で何が起きても、わたしの中をすりぬけていくだけ。

ほんの少しだけ、こびりついたように残っているのは、君と過ごした日々。
淡くて、甘くて、あたたかくて、ふわふわしていた、あの心の揺らぎの記憶。


――君へ。

わたしは、幸せでした。


だって。

四十を過ぎた独身女に、「好き」をくれる男の人は、いないから……。


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コメント(18件)

内 容 ニックネーム/日時
いやっ!これきた。甘さと辛さのバランスがいい。オチもあるし、いつもの由愛さんの世界だあ。
わたし自転車が好きなんです。だから、
あの疾走感の中で思いをめぐらす、この「わたし」にホロリときちゃいました。
つる
2008/02/10 23:21
はじめまして。レイバックさんのところから来ました。
せつない話ですね。
ラストの一文は、結婚しない女性が増えている現状でかなり鋭いオチになっていますね。
keita2
2008/02/11 00:52
はじめまして、ia.です。
タイトルが素敵ですね。
自転車に乗って回想する、という設定が、
女性の一途さと悲しみを一層増すようですね。
静かにしみこんでくるようなお話でした。
ia.
2008/02/11 01:57
初めまして、銀河といいます。
途中までほろ苦いのかなと思い読んでましたが、最後はほんとに苦い、にもかかわらず、重さを
あまり感じなかったのは、ひたむきな想いが
残した思い出のおかげですかね。
よかったです。
銀河系一朗
2008/02/11 11:33
こんにちは。企画に参加いただきましてありがとうございました^^ しっとりと淡々と語られるお話でとても心に沁みました。詐欺に遭っても、相手の事を悪く思えない、という話はよく聞きますよね。安定した文体、ぶれない筆に脱帽です。また遊びに伺いますね☆
レイバック
2008/02/11 13:01
はじめまして^^短編競作に参加した者です。最後の一行ずしりと来ましたね。結婚評論家(?)の僕にとっては考えさせられる作品でした。いい人が見つからなければ結婚しなくていいという考えなんですけど、独身も辛いかもなぁって思っちゃいました^^;
タケシ
2008/02/11 15:07
はじめまして。
企画参加仲間の舞です。
よろしくお願いします。
とっても読み応えがありました。
初め若い子の失恋の話かなって思っていたんですけど、もっと深かったんですね。
読み終わって「あれ?猫は?」って再度読んでしまいましたが「三毛猫のストラップ」でクリアしていたんですね。さすがです!

2008/02/11 19:43
いつもの3倍以上のコメントが寄せられて嬉しいやらビックリするやら。
感想ありがとうございます。

>つるさん
自転車がお好きなんですね。
何かに乗ってる時ってやっぱりいろいろ考えますよね!
私は、本を読んだりテレビを見たりして気に入ったフレーズとかシーンとか、小説の原案とかを延々考えてますよ。

>keita2さん
初めまして。
世の中には結婚できない人と結婚しない人のニ種類がいるそうですが……私は「できない」方ですね(涙
昔の同級生はすでに小学生の子供がいるというのに、とか考えると妙に焦るのですが。
いや。でも。うーん。

>ia.さん
初めまして。
タイトル、実はギリギリまで悩みました。
何にしたらしっくり来るかなと。
雰囲気に合ってますかね? 良かった。

(続きます)
鈴藤由愛
2008/02/11 22:43
コメント返そうとしたら500文字以下で書けと怒られたので、二つに分けました。

感想ありがとうございます。

>銀河系一朗さん
初めまして。
私、こういう話の方が書きやすいもので、ついつい苦いラストを選択しています。
私の小説にハッピーエンドは……ほとんど、ない。

>レイバックさん
こちらこそ、参加させていただいてありがとうございます。
こういった形式でお話を書くのも楽しいですね。
お題を使って小説を書く楽しみに目覚めました。

>タケシさん
初めまして。
って、結婚評論家!?
いい人がいなければ〜というのは納得です。
でも周囲から「その年で結婚してないの?」という目で見られないだろうかという不安が……。

>舞さん
「お知らせ」の時にコメントを下さった舞さんと認識してよろしいのでしょうか?
猫のお題に関して、読み手を混乱させているようではまだまだですね。
精進します!


それでは皆様、よろしければまたおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/02/11 22:45
たびたび・・・
そうでした。
お知らせの時にコメント入れてました(^^;
慌て者の私ですがよろしくです。

2008/02/12 08:26
とっても素敵なお話でした。そしてラストでニヤリ。
40過ぎたって素敵な人は素敵だと思いますけどね、「大丈夫、また出会いがあるよ」って彼女に言ってあげたいです。
この前、他の作品も読ませていただきましたけど、由愛さんはすてきなお話をたくさん書かれていますね。また読みに来ますね☆
七花
2008/02/12 17:49
はじめまして。
誰が見ても酷い詐欺師は、主人公とっては幸せをくれる大切な存在だった。
理解しがたい心理であるはずなのに、
ラスト一文が生む説得力には逆らえませんでした。
単純な「実は○○でした」オチでありながら、
作品を成立させるための最重要箇所であるところが凄いと思いました。
安憧夏
2008/02/12 19:01
はじめまして。
レイバックさんの所からやって来ました。
何と言うか……最後の一文が切ない作品ですね。そういうところをこそ詐欺師は狙うんでしょうけど。

2008/02/12 21:30
コメントが二桁に到達して、感動と驚きと喜びを感じてます。

感想ありがとうございます。

>舞さん
よかった、人違いじゃなかった。
こちらこそ、うっかり者ですがよろしく。

>七花さん
初めまして。
他の話も読んでいただいてありがとうございます。
毎週ひーこら言いながら更新してますが、そう言っていただけると本当に報われます。

>安憧夏さん
初めまして。
私、書く時に「実は○○でした」オチをよく使います。
今回はラストの一文あってこそ、のお話を目指して書きました。
どうしようか随分悩んで書き直したりしましたけど、悩んだ甲斐がありました。

>鯨さん
初めまして。
詐欺師は騙せる人間しか狙わないでしょうからね。
書いておいてなんですが、この「わたし」はお人よしなんだろうなあと思います。

それでは皆様、よろしければまたおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/02/12 22:31
はじめまして。短篇競作に参加しましたshitsumaです。
最初はどれだけ甘いラブストーリーなのかと思っていたら、中盤でずしり。改めて読み返してみると、序盤では人のいい人物だった男も、詐欺師にしか見えなくなるから不思議ですね。劇団ひとりの小説を思い出すような、ずしりと来つつも心温まる感じがよかったです^^
shitsuma
2008/02/13 22:26
感想ありがとうございます。
私、甘いラブストーリーは書けないんですよ。
思いつきはするんですけど、書いてるうちにものすごく恥ずかしくなって。
劇団ひとりの小説は映画化されたこともあって、気になってるんですが、まだ読んだことないです。
金欠病をなんとかしなくては……。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/02/13 23:13
はじめまして。
うわぁ、切ないなぁ。思い出や想いの中だけに生きてしまうことは哀しいし、やりきれないけど、乗り越えたら成長が待っているのでしょうね。
>――わたしはペダルをこぎ続ける
からの主人公の心象描写がとても美しかったです。
僕もたまに恋愛書くと、ハッピーになりにくいです(笑)
火群
2008/02/15 21:39
感想ありがとうこざいます。
思い出に浸ってばかりはいけませんよね。
たまに浸るなら問題ないですけど。
話は変わりますが、いつかは前向きな話を書きたいです。
好みはこういうアンハッピーな話なんですけど。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤由愛
2008/02/16 21:00
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