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zoom RSS おなかいっぱいの復讐

<<   作成日時 : 2007/11/16 22:23   >>

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あたしは、食べ終ったポテトチップスの袋をゴミ箱に投げ込むと、ペットボトル入りのミルクティをグビグビ飲んだ。
続いて、メロンパンの袋をバリッと開ける。

「夜中だっていうのにそんなに食べて。太るわよ」

振り向くと、お母さんがあきれ顔してる。

「へーきへーき。太らないわよ」

あたしは、メロンパンをちぎって口に入れる。

あたしは、太らない。
そう、絶対に。

「せっかくやせたのに、また太ったら台無しでしょ。リバウンドってこともあるんだから」
「はいはい」
「“はい”は一回」
「はーい」

……あたしはこの日、メロンパンをたいらげた後でカップラーメンを食べてから寝た。


次の日、トースト六枚とめだま焼き五つ、ボウルいっぱいのサラダを平らげてから学校に行くと、教室の窓際で何人かの女子が話をしていた。
別に仲の良い人達じゃないし、あたしはさっさと自分の席につく。
教科書とノートをカバンから出していると、話し声が聞こえた。

「そういえば、昨日アイツ見たよ」
「ええっ、アイツ、外に出たんだぁ。で、どうだった?」
「それがさあ、最悪。相撲取りみたいな体型になってた」
「やっだ〜! 最悪!」
「ありえね〜!」
「私だったらもう生きていけな〜い」
「でっしょ〜? もう、デブって感じじゃないの。激デブ! って感じ」
「でさ、なんか視線感じたみたいで、こっち見たの。めっちゃ焦った顔して、逃げてった」
「あははははは!」

あんまり声が大きいからちらっと見てみると、全員手を叩いて、ゲラゲラ笑ってる。
あの子達はきれいでスタイルも良くておしゃれとか流行には人一倍敏感なのに、そうやってると下品で見られたもんじゃない。
毛色の変わった山猿を見てるみたいだ。
もっとも、男子の前じゃ絶対やらないんだろうけど。

……そうか、アイツ、そこまで太ったのか。

あたしは、ちらっとアイツのことを思い出した。



あたしは、幼稚園ぐらいの頃から、デブだった。
そしてアイツは、すでにその時から美少女だった。

あたしはデブだから、いつもいじめられた。
いじめられるのが嫌で、学校に行くのがいつも苦痛だった。
中心になっていたのは、もちろんアイツ。
男にはちやほやされるし、女の子はあっと言う間に自分の手下にしてしまう。
どこにもあたしの味方はいなかった。

あたしは、これ以上いじめられまいと、何度もダイエットを試みた。
だけど、それをネタにしてのいじめが始まると、心が折れて続かなかった。

「やせたら美人になれるとでも思ってんの?」
「デブが何やったってムダなのよ」
「へぇ、今まで平気で太ってたくせに、今ごろになって「太ってて恥ずかしい」とか考えるんだぁ」

あたしは、アイツに生きていく希望をことごとく奪われていくような気がした。
生きていくことに、何の価値も見つけられなくなった。
いつか良いことがあるさ、なんて言葉を信じられなかった。
一生こんな生活が続くっていうのなら、死んだほうがマシだ。

そんな時、あたしは悪魔に出会った。
あたしの命と引き替えに、どんな願いでも叶えてくれると悪魔は言った。

あたしは真っ先に、アイツに復讐したいと思った。
だけど、なぶり殺すっていう方法じゃ手ぬるいと思った。
もっと、残酷で悲惨で、心に一生立直らないぐらいの深い傷を負わせなくちゃ、気が済まない。
あたしの味わった苦しみは、たった一度の死じゃ拭えない。

それであたしは思い付いた。
あたしがどんなに辛かったか、同じ目にあわせてやろう、と。
代償に、あたしの命を差し出して。

悪魔はあたしの思いつきを「面白い」と言った。
そして、それを了承してくれた。

それ以来、あたしが食べる総カロリーは、アイツの取るカロリーに加算されることになった。
アイツは焦ったに違いない。
いつも通りにしているだけなのに、どんどん太っていくのだから。
まさに、空気を吸っても太るデブの誕生だ。
アイツは慌てて極端にカロリー制限したり運動したりしたけど、ハッキリ言って無駄。
あたしがそれを遥かに上回るカロリーをあげているのだ。
たとえどんなに運動しようとも、どんなにカロリーを押さえようとも、充分過ぎるほど太れるように。

今のアイツは、完全にいじめられっ子だ。
周りにいた男や取り巻きは見事なくらい離れて行って、さっきみたいにけなしてゲタゲタ笑うようになった。
長いこと「美少女」で通ってきたアイツにしてみれば、プライドがズタズタになるような事態だったに違いない。
ほどなく不登校になったアイツは家に引き込もり、ウワサでは水すら飲めない状態だという。
それでもぶくぶく太っていくのだから、そろそろ精神的におかしくなってくる頃かもしれない。


あたしは、カバンの中からチョコレートバーを取り出すと、無心にかじりついた。
このチョコレートバーは、授業と授業の間にも食べられるように、何本も持って来ている。
そのうえでお昼にはお弁当を食べるし、放課後にはおやつを買うついでに買い食いをする。

どこからどう考えても、太ることはあっても痩せるはずのない食生活だ。
だけど、今のあたしは昔とは別人のように痩せている。
計るのが面倒になったので正確なところは知らないけれど、ざっと見積もって20kgは痩せただろう。

別に不思議なことじゃない。

……あたしの総カロリーを差し出すということは、逆に言うとあたしの方はどんなに食べてもカロリーが摂れないということだ。

ただ単に腹が満たされるだけで、生きていくのに必要な栄養素は一切摂れていない。
悪魔と取引をした翌日から、あたしはみるみるうちに痩せ細った。
今のところ、ダイエット中ってことにしてある。
もうしばらくは、ためこんできた脂肪があるから生きられるだろう。

だけど……それが尽きた日。


このあたしは、おなかいっぱい食べ続けていながら『餓死』という結末を迎えるのだ。

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
>あたしが食べる総カロリーは、アイツの取るカロリーに加算されることになった。
アイディアがいいと思いました。
題名もにも納得です。明るい印象の内容なのに、本文とのギャップにやられた〜です。
つる
2007/11/17 01:46
感想ありがとうございます。
実はこれ、だいぶ前に思いついてたネタなんですが、いまいちまとまらなくて3話ほど見送りました。
完結させられて良かった……。
それはそうと題名にはいつも悩みます。
ひねるか、直球で行くか、ギャップを狙うかで悩みます。
今回は成功したのかな?

よろしければ、またおいで下さいませ。

あと、リンクはもう少し時間がかかりそうです。
パソコンに触る時間がだんだん減ってきちゃって……(涙)
鈴藤 由愛
2007/11/18 22:28
いいよ。いいよ。気にしないでね。
わたしもリンクタグ貼れなくて文字になってます。自作の音声とか写真をアップをされている方を尊敬します。時間かかるだろうなあって。
たかが題名されど題名。これひとつでピリッと作品が引き絞まったりしますもんね。
ヘンな話、題名が決まった時にするすると、お話がでてくることあります。
つる
2007/11/19 00:43
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