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zoom RSS 月夜の魔法使い

<<   作成日時 : 2007/11/09 22:12   >>

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駅前の通りに、ストリートパフォーマーがいた。
ひょろひょろした体を黒づくめの衣服で包み、客のいない今は小さな椅子に座っている。
それだけならどうという事もないが、隣に立てた紙製の看板に変わった文句が書かれていた。

「魔法 一回三百円」

……だそうだ。

俺は、思わず立ち止まってしまった。

魔法って……それ、手品とかマジックのことじゃないのか?
それを魔法と言い切ってしまうほど凄いことができるんだろうか。

「あんた、手品師なのか?」

俺が尋ねると、男はムッとした顔で「違う」と答えた。

「私は正真正銘、本物の魔法使いだ。あんなペテンと一緒にするな」

えーと……。
俺に言わせりゃ魔法なんて、ファンシーな衣装の少女がヘンテコな呪文を唱えつつ魔法のステッキとやらを振り回して変身するアニメのイメージしかないんだが……。

「んじゃ、証拠に何かして見せろよ」
「まず三百円を先にいただこうか」

男がシルクハットを差し出してきたので、しぶしぶ三百円を入れた。
疑問なんだが……もし本当に魔法が使えるんだとしたら、なんで三百円ぽっちで路上で見せたりするんだ?
やっぱインチキじゃないのか?

「では、魔法をご覧にいれよう。何をして見せて欲しいかね?」
「何ができるんだ?」
「何でもできるとも。君の前に山のように金を積むことだって、君の理想とする女性を作り出すことだって、何でもお望みのままにね」

余裕たっぷりな男の態度がちとシャクに触ったので、俺は無理難題を吹っかけてやることにした。

「じゃあ、何かデカイものを消して見せろよ。そうだなぁ……」

視線を巡らすと、夜空にぽっかりと浮かぶ月を見つけた。
そうだ!

「あの月なんてどうだ?」 

ふふん。
どうだ、降参するなら今のうちだぞ。
俺は、男が慌てるか変な言い訳を始めるかする展開を期待していたのだが。

「何、あんなもので良いのか? 簡単すぎて話にならん」

男のすました様子には、ちっとも変化がなかった。
……ちっ。

俺が見ている前で、男は両手を組み合わせ、何やらぶつぶつ唱え始めた。
インチキくさい……。
やっかいなものに関わったかもしれないと考えながら夜空を見上げ、俺は声を失った。
月が欠けているのだ。
欠けるというよりは、溶けていくと言った方が近い。
月はみるみる小さくなり、やがて夜空の暗闇に溶けてしまった。

す、凄い……。

これはやっぱり、魔法なのだろうか?
いや、そうに違いない!
布で隠したりしただけじゃ、こんな消え方できっこない!

「どうかな? 私の魔法は」
「スゲェ、すげぇよアンタ! 俺、こんなスゲェの始めて見たよ!」

俺は興奮して男の手を取った。

「はっはっは。私ほどの力の持ち主なら、あれぐらい簡単なことなのだよ」

さっきまではシャクにさわっていた男の態度さえ、風格が感じられる。
俺の目は、きっと子供のようにキラキラしていることだろう。

「では、次は消した月を元に戻して――……」

そこまで言って、男は突然「うっ!?」と胸を押さえた。

「お、おい。 どうしたんだ?」
「く、くるし……い……!」

男は胸をかきむしって苦しむと、ばたんと倒れてしまった。
俺は慌てて救急車を呼んだが、結局男は帰らぬ人になってしまった。
死因は心臓麻痺ということだった。
その後俺は警察に色々と質問され、帰れたのは明け方近くだった。


それからというもの、世界中の科学者達が連日大騒ぎして月が消えた原因と今後の影響を話し合っている。
科学に心血を注ぐ彼らには、魔法で消されたなんて発想はおそらく一生出てこないだろう。
今日も今日とて、テレビでは「ブラックホールに飲みこまれた説」「宇宙人が関与している説」だのが大真面目に論じられている。


俺は、せんべいをかじりつつそんなテレビを眺めていて、ふと思った。


月が消えたのは、間接的には俺のせい、ということになるんだろうか……?


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
そうだ!月が消えたのは、おまえのせいだぞ!って、こんばんは。
魔法かぁ。なんとも小説心をそそる単語ですね。

まさか元に戻す前に心臓麻痺とは意外な展開でした。
これを読んで思い出したのが流れ星。人間て欲があるようでも咄嗟に願い事とかでてこないですよね。このお話の俺もそうです。欲って突き詰めたら案外ないのかもね。そんなこと考えさせられました。含みがあって面白かったです。
そうそう改めてなんですがリンク貼らせて下さい。フレンドになって安心してウッカリしてました。
つる
2007/11/10 00:30
感想ありがとうございます。
星をネタにした翌週に月をネタにするのは、ちょっとばかし「うーん……」と悩んだのですが、他にアイディアが浮かばなかったので押しきりました。

とっさに「願い事叶えてあげる」っていう状況になったら、確かに出てこないですよね。
欲しいものや食べたいものとかやりたいこととか、山ほどあるのに。
それとも、山ほどあるから突然一つだけなんて抜き出せないのかな。

リンクの件ですが、ありがとうございます。
こちらからも貼らせてもらいますね。
貼ったらご挨拶にうかがいます。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤 由愛
2007/11/11 22:20
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