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zoom RSS 足元からの危機(四回目)

<<   作成日時 : 2007/09/19 22:35   >>

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ひさびさに、ばあちゃんの家に行った。
母さんが「これ、おばあちゃんのところへ届けてきてくれない?」なんて頼んできたからだ。

届けてこいと頼まれたものは、タッパーに入った、二層に分かれたゼリーだかムースだか寒天だか、そんなようなデザートだった。
テレビだかご近所の奥さんに聞いたんだか、簡単にできる方法があるらしく、このところ母さんが作るのはもっぱらコレだ。

てなわけで、ばあちゃんのところへ行ったわけだが。
出迎えたばあちゃんはすごく喜んでくれて、お土産をくれた。

しかし……その「お土産」に、俺はちょっとずっこけそうになった。

だってさあ、きび団子だぞ。きび団子。
昔話の桃太郎で、犬とか猿とかキジが「一つください」って言ってる、あれ。
ばあちゃんは、茶飲み友達に作り方を聞いて、作ってみたくなったらしい。

しかしなあ、きび団子って。

「これ、犬にやったら家来になんのかな」

思わずつぶやいた俺を見て、ばあちゃんは笑ってた。

「猿とキジにもあげれば、桃太郎になれるわね」って。

冗談じゃねぇ。
そんな物騒なこと、警察か自衛隊にまかせるに限る。
だいいち、俺、5段階評価で体育3だもん。
なんか柔道とか剣道とか空手とか習ってるわけでもないし。

……って、なんで俺こんなにグチってんだか。
鬼なんかいるわけねえじゃん。
非現実的ってやつですよ、まったく。

さーて、コンビニにでも寄って買えるか。
と、気を取りなおしたところで、俺は背後に妙な気配を感じた。

……なんか、いる。

誰かいるのかと思って振り返ってみて、俺は後悔した。

へっへっへっへっへっへ。

振り返った先には、舌を出して息をはずませている白っぽい犬がいた。
でっかい犬だ。
野良犬……にしちゃあなんか妙に小奇麗だし、でも飼い犬が逃げてきたにしては首輪してないし。
そいつが、しっぽをブンブン振りながら、俺のことを見上げている。

俺は、全身からサーッと血の気が引いていくのを感じた。

実は俺、犬が嫌いなのだ。
ガキの頃に近所の犬に追い掛け回されたのがトラウマになってる。

そろ〜っと移動しようとすると、犬がワウッと吠えた。

や、やめいっ、ほえるな!
心臓に悪いだろうがっ!

「や、やあ、ワンちゃん」

我ながら、たかが犬一匹になんて情けない声出してんだと思うよ。
でも、しょうがねえじゃん。
さっきから鳥肌が立ってるんだぜ。

「こ、これが欲しいのかなぁ?」

俺がきび団子の入った袋を頭上に掲げてみせると、犬は「それだ!」といわんばかりに飛びついてきた。

ぎょえええーっ!

だだだだだだめだだだだ誰かなんとかしてくれっ!!

俺はパニックになった。
苦手でたまらない犬の顔が、どアップで迫ってきているのだ。
誰だって、嫌いなものがどアップで迫ってきたらパニックになると思う。

「お、お、おすわりっ!」

と言ってみると、犬は案外おとなしくおすわりをした。
……しつけ、されてるんだなぁ。
やっぱ、どっかで飼われてるんじゃねえのかな。

「よ、よーし、よーし、よーし。いい子だねー、ねー、おとなしくしててねー、いい子だねー、うん、いい子だねー」

俺は、犬を猫なで声でなだめつつ、袋からきび団子を一つ取り出した。

「いい子だねー、うん、コレあげるからねー」

おるるりゃあああ!

俺は覚悟を決め、きび団子をできるだけ遠くの方へとぶん投げた。
俺がこれから帰る道と、正反対の方向にだ。
犬は大喜びして、猛ダッシュで追いかけていく。

おし、今のうちだ!

俺は、くるっと後ろを向くと、犬に気付かれないうちにと家まで走った。

コンビニ?
んなもん、行ってられっか!
まずは身の安全だ!

俺は、走って、走って、走り抜けて、我が家へと飛びこんだ。

「はぁ……」

ため息をついて、玄関のドアにずりずりと寄りかかる。
つ、疲れた……。
なんか、今日一日分の疲れを一気に集めたみたいな疲れ方だ……。

まあ、でも、あの犬は追いかけてこなかったし……?

「げっ!?」

俺は、尻餅をついた。
振りきったはずの犬が、平然と俺の隣に座っていたからだ。
走ってくる俺についてきて、一緒に入ってきたんだろうか。

とにかく、こいつは家の外に出さなければ!

「わ、ワンちゃん。ここはワンちゃんのお家じゃないよ。さ、さあ、お帰り」

猫なで声、再び。
玄関のドアを開けてやると、犬がフンッと鼻を鳴らした。

「いい加減、茶番はやめていただきたい」

うおっ!?
犬がしゃべった!?

「貴殿は、近代において忘れられた古来のやり方に基づいて、主従の関係の取り結びを求めた。私は貴殿のことを気に入った。今より、貴殿を我があるじとし、一生涯をかけての忠誠を誓う」

俺は、答える言葉が見つからなかった。

犬がしゃべってる。
なんか小難しい言葉で、ようするに「家来になります」みたいなことを言ってる。
てか古来の方法って。
なんだこの桃太郎みたいな展開。

ど、どこから突っ込んだらいいんだ、この状況!

「お、俺、なんのことかさっぱりわかんねぇんだけど。どういうこと?」

人間の言葉がわかるようなので、俺は話しかけてみた。
犬は、俺をまっすぐに見つめてきた。

「何を言う。私にきび団子を差し出したではないか、我が一族において、きび団子を与えられるということは、すなわち主従の関係を取り結ぶという宣言なのだ。きび団子をもらい鬼退治に同行したご先祖から、話が家系に代々続く伝統的な慣わしだ」

えーっと……。

「お前、桃太郎の犬の子孫なわけ?」
「いかにも。我が一族はそこいらの犬とは格が違う。知力体力もそうだが、神通力をも持ち合わせている。あるじの戦いを補佐するために」

な、なんか話がぶっ飛んでいる。
俺は、急に恐ろしくなってきた。

「と、とにかく。俺そんなつもりできび団子あげたわけじゃないから。な、飼い主のとこに帰りなって」

俺がなだめ始めると、犬はギラリッとした目で俺を見据えた。
こ、怖い。

「いったん結んだ主従の関係は、どちらかが死ぬまで続く。それともあるじ、貴殿は私が死ぬことをお望みなのか?」
「いやいやいやややや、それは望んでないっ、望んでないからっ」

俺は、慌てて手を振った。
いくら犬が苦手だからって、そういう物騒なことはちょっと……。

「あら。何これ」

声がしたのでそっちを向くと、いつの間にか家の奥から出てきた母さんが、目を丸くしていた。
俺は、疲れ切った顔のまま答えた。

「いぬ……」

声がかすれている。
聞いてて悲しくなるぐらい、かすれてる。

「見りゃわかるわよ。このワンちゃんどうしたの? 誰かから預かったの?」
「……ついてきた。家においてやってくれ」
「はぁ?」

母さんは、ちんぷんかんぷんな顔をした。
そりゃ、そうだ。
犬のこと苦手にしてた息子が、いきなりでっかい犬を連れてきてるなんて、明らかに異常だもんな。

「あんた、どうしたの」

ああ、ひたいに手を当ててきやがる。

「熱はないわねぇ」

ああ、そうだよ。
熱なんかないよ。
でもなあ、俺だって、熱に浮かされて何かを見間違えたか聞き間違えたって思いたいよ!
いっそ夢ならどんなにいいか!

「……まあ、高校生なんだし、自分でちゃんと世話できるなら飼ってもいいけど。あ。エサ代とかワクチンのお金は、自分のバイト代でなんとかしなさいよ。あんたの犬なんだからね」

く、くそー。
俺のバイト代が、よりによって、苦手でたまらない犬のために費やされるなんてー!

「で、名前どうするの? 犬って登録しないといけないのよ」
「じゃあ、くそ犬」
「ワン!」

やけっぱちになって、わざとひどい名前の候補を上げてやると、犬が鳴き声で反論してきた。

「んじゃ、バカ犬」
「ワンワンッ!」
「だったら、アホ犬」
「ワンワンワンッ!」

「ワンちゃんが怒ってるでしょ! ふざけてないで、まじめに考えなさいっ!」

ついに母さんがものすごい形相で怒り出したので、俺はそれ以上の悪ふざけをやめた。

あーあ……名前決めなきゃいけねえのか。
犬、苦手なのになぁ。
あとはエサやりに毎日の散歩に……って、犬嫌いの俺が犬を散歩させるのかっ?
犬の散歩ってあれだよな。


ウンコも拾わなきゃいけないんだよな?



…………………………。



俺は、真っ白になる、というのがどんな状態か、身をもって知った。



……数日後、俺の片目はまた、ものもらいになった。
今回は犬の毛でも入ったんじゃなかろうか。
医者に行き、すっかり慣れた眼帯をされ、目薬をもらって帰った。

「あるじ。片目、いかがなされたのだ?」

家に帰ると、まず真っ先に犬が出迎えた。
最初に出迎えられた時は思わず絶叫したもんだが、時間が経つと、まあ、初対面の時よりかは怖くなくなった。
ただ、数日たった今も、犬にはまだちゃんとした名前がない。

「ただの『ものもらい』だよ……たいした病気じゃねえって」

俺が答えると、犬はちょっと首をかしげて俺を見た。
正確には、俺というより、俺の片目、だが。

「あるじ。詳しくはわかりかねるが、それは通常の眼病とは少々違うようだ」

「……は?」


俺は、犬の言葉に、いつも一定の方向に流れているものが、急に方向を変えて流れ出した……そんな感覚にとらわれた。






*1〜3話はこちらからどうぞ。
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三話 


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。
わたしこの男の子けっこう好きかもしれません。

周囲に振りまわされてる感がすごくよくでていますよ。なんか憎めない。
つる
2007/09/20 22:31
感想ありがとうございます。
かっこいい男とか、美学を持ってる男とかが書けなくて、ちょっと情けない一面アリの身近な感じの男しか書けないのが悩みですが、そう言っていただけると嬉しいです。
完結させられるように頑張ります。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤 由愛
2007/09/22 21:28
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