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zoom RSS 王様の料理

<<   作成日時 : 2007/09/08 22:47   >>

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とある王国に、食べることに目のない国王がいた。

彼の食事は、国民の間で噂になるほどすごかった。
味や豪華さ、そして食材の高級さ。
ただの国民など、一生口にできないだろう料理の数々を毎日味わう国王の食生活を、国民の誰もがうらやましがっていた。

……しかし、国王には奇妙な習慣があった。

一日に一度だけ、自分で調理して食べるのだ。
調理には城の中にある厨房を使うのだが、調理をする時間が近付くと、厨房とその近辺の人払いをしてしまう。
やりかけの仕事があろうが何だろうが、王様の命令なのだから立ち去らないわけには行かず、これが案外不評である。
人払いを済ませると、国王は厨房を取り囲むようにして兵士を配置し、見張りにあたらせる。
見張りがいては、こっそりと中をのぞき見ることもできない。
その上で、持参した材料で料理をし、食べ終えてから兵士を解散させ、「もう戻ってもよい」と仕事を再開させる。

そんなわけで、国王の料理に関しては誰も何も知らないのだった。


「一体、どんなものを召し上がっているのかしら」
「王様の召し上がる物だから、きっと、天にも上るような美味しい物に決まってるさ」
「でも、どうしてわざわざ自分で作るんだろうね。王様なんだから、ふんぞり返って待ってれば、いくらでも美味しい物が食べられるだろうに」
「本当に美食を愛している人間は、自分の手で一から作ってみたくなるらしいよ」
「いやいや、もしかしたら、王族だけに伝わる、不老長寿をもたらす料理なのかもしれないぞ」

国民達は、国王がこっそりと食べている料理に、あれこれと想像をふくらませるのだった。


そんな中、いても立ってもいられない状況にあったのが、城の厨房を取り仕切る料理長だった。

料理人にとって、厨房というのは神聖な領域である。
たとえ国王だろうと、それをやすやすと侵犯されては我慢がならない。

理屈ではなく、職人としての気質が許さないのだ。

そのうえ、勝手に料理を作って食べているなどと聞いては、穏やかではいられない。
いつだって、見た目や味わいだけではなく、栄養面や食材の新鮮さに細心の注意を払いつつ料理をしているというのに、何故国王自ら腕を振るうのか。
国王がそれほどの料理上手だとは聞いたことがない。

「俺の作る料理が、そんなに不満なのか」

そう怒鳴ってやりたくなるのを、彼は必死に押さえ込んできた。

それが、もう、五年になろうとしている。

ついに耐えかねた料理長は、一日だけ暇をもらうことにして、こっそりと厨房の天井裏に隠れた。
国王の作る料理とやらがどれほどの物か、この目で見てやろうと思ったのだ。

今か今かと待っていると、料理長のお望みの時間がやってきた。
すなわち、人払いが始まったのである。
料理長は息をもひそめ、天井裏の板をほんの少しだけ外し、その隙間から下の様子をうかがった。
人払いの済んだ厨房は、空気がしぃんと静まりかえり、耳が痛くなるほどだ。

ほどなく、ギィ、とドアを開けて、国王が現れた。
大きなカゴを抱え、エプロンを身につけている。
国王はカゴを調理台の上に置くと、中から材料を取り出して並べ始めた。
料理長はその材料を知りたいと思ったが、隙間からではよく見えなかった。

――料理が、始まる。

国王は何かを刻んだり、鍋に入れて煮こんだり、オーブンに何かを入れたりして、一応、料理らしい作業をしていた。
プロである料理長からしてみれば、まだまだぎこちない動き、といったところだが、本当なら椅子にふんぞり返っている立場の人間がしていること、と思えば充分称賛に値する。

そうこうしているうちに、料理は完成したらしい。
国王はいそいそとテーブルに料理を並べ、椅子に腰を下ろした。

と、そこで、フォークやナイフ、スプーンがないことに気付いたようだ。
国王は、それらを探して厨房を出ていく。

――下に降りるなら、今がチャンスだ。

料理長は天井裏から降り、つい今しがた国王が作った料理を見た。

国王が並べた料理を見ると、大したものではなかった。

にんじんとキノコのクリームスープ。
サラダ。
あまり見なれない魚をそのまま丸ごと焼いたもの。
ワイン。

――見ただけでもわかる。
自分が作る料理の方が、はるかに良い。

料理長は、少しだけ自尊心を取り戻した。
国王の作った料理は、刻み方も煮こみ方も甘い。
どうやら、国王は美食家どころかイカモノ食いのようだ。
気に病んで、損をした。
料理長は思わず苦笑いを浮かべていた。
それから、さっさと天井裏に戻らないと、見つかった時に面倒になる、と考えた。

料理長は立ち去り間際に、一口味見でもしてやろうと、サラダの中から一枚の葉を引き抜き、口に入れた。
すると、口の中いっぱいに青臭さと苦味としびれるような感覚が――。


「やれやれ、私のいないうちに、つまみ食いをする奴がおるとはな」


厨房に戻ってきた国王は、床の上に倒れている料理長の姿を見つけると、ため息をついた。
料理長は青黒い顔をしており、ひぃひぃと弱々しく呼吸をし、体をけいれんさせていた。

「おや、誰かと思えばお前は料理長ではないか。一体なぜ、こんなことをした?」
「…………あれ、は……」
「ん?」
「あれ、は……なん、の、りょうり……で…すか」

息も絶え絶えに、料理長は尋ねる。

国王はあごヒゲをなで、料理長を見下ろした。

「あれか? あれは毒草のサラダだ」
「……な、に……?」

あっさりとした、しかし思いもしなかった答えに、料理長は目を見開く。

「王族代々の伝統でな。将来の国王には、幼い頃から毒を少しずつ体に入れて、毒に慣れさせるのだ。将来、毒殺される恐れがないように、と。この慣らしていく量を少しでも間違えると大変なことになるのでな、代々、自分で計って取り入れるよう、しつけられておるのだよ」

国王の話を聞き終えた料理長は、愕然とした目つきをすると……そのまま、がくりと顔を横に向け、動かなくなった。


国王はしばらく料理長の姿を見ていたが、そのうち、椅子に腰掛けると、優雅な手つきで食事を始めた。


本日の国王の手ずからの料理。

毒にんじんと毒きのこのクリームスープ
三種の毒草のサラダ
猛毒魚の一本焼き
毒入りのワイン


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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
いつも結末(おち?)を自分で想像しつつ読み進んでいくのが楽しみですw
kon
2007/09/09 07:29
感想ありがとうございます。
今回の話は楽しんでもらえましたか?
オチをどうするかは毎回すっごく悩むところなので、楽しんでもらえると幸いです。
いい意味で、konさんの想像を超えるようなオチが書けるように精進します。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤 由愛
2007/09/10 21:19
>毒に慣れさせる
毒殺ならともかく「慣れさせる」という発想に感心しました。
オチってムツカシイです。ほんと。
つる
2007/09/11 02:11
>つるさん
感想ありがとうございます。
今週の更新もう無理かもー!とか嘆きつつ、必死に書き上げた作品なので、そう言っていただけるとホントに嬉しいです。
ちなみに、実はこの王様にはモデルがいます。
詳しい話は忘れましたが、ヨーロッパ辺りの皇帝だか王様だかで、実際に毒草を食べて毒への耐性を身につけていたそうです。
……モデルがいるってことは、この話、完全なオリジナルとは言えないってことなのかなぁ。

よろしければ、またおいで下さいませ。
鈴藤 由愛
2007/09/12 21:53
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