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zoom RSS 足元からの危機(三回目)

<<   作成日時 : 2007/07/25 22:18   >>

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学校が終わって、いつもの電車に乗り。
俺は、とある駅で電車を降りた。

と言っても、家に帰るわけじゃない。
これからバイトに行くところだ。

時計を見ると、バイト先に行くまで、5分ぐらい余裕がある。
うーん、ちと早いな。
コンビニにでも行って立ち読みでもしようか。

とか考えてると、「もしもし」と声をかけられた。

ちと迷ったが、俺は振り向いた。
迷ったのは、まあ、妙なもんを二回ほど目撃したり、そのせいで被害にあったりしたことがあるので、極力そういう妙なものに巻きこまれないように注意して生活しているからだ。

振り向いた先にいたのは、ケーキなんかを入れるような白い箱を抱えた、どっからどう見てもただのオバちゃんだった。
なんだ、普通のオバちゃんじゃねぇか。
警戒して損したぜ。

「すみませんねぇ、次の電車が来るまで、この箱、預かっててもらえません? 私、用事を思い出しちゃって……これ、誰かに持って行かれたら困るのよ」

オバちゃんは、愛想笑いを浮かべつつ、俺に箱をずいっと差し出してくる。

「ああ、いいですよ」

俺は、気軽な感じで返事をした。
次の電車が来るのは3分後。
時間をつぶすには持って来いだ。

「ごめんなさいねぇ、用事が済んだら、すぐに戻ってくるから。お願いね」

オバちゃんは、俺に箱を手渡すと、よっぽど急いでいたのか、そそくさとホームの階段を上がっていった。
太り気味の体格に似合わず、動きは案外軽やかで素早い。
……えーと。
取りあえず、この箱が誰かに持って行かれたりしないように見張ってりゃいいんだよな。
しかし、これ、何が入ってんだろうな。
持ってる感じからすると、ケーキ……よりはずっと重たい物のような感じだ。
何だろう。
でも勝手に見ちゃマズイし……。

――と思った矢先だった。

ずざざ、と音がしたと思ったら、俺は数人の男に取り囲まれていた。

な、なんだ?

俺は、箱を抱えたまま、立ち尽くした。

「きさま、その箱をこちらに渡せ」

いつの間にか、目の前に一人の男がいて……たぶんこいつがリーダーなんだろうけど……に、ぐいっ、と、のどに刃物を押し当てられた。
ちょっと動いたら、すぱっと切れるんじゃないんだろうか、これ。

「い、いや、あの、これは人から預かったモンなんで、勝手にどうこうできないです」

思わず声が震える俺。
ついでに足もガクガク震えてる。

「渡せと言っているんだ、小僧」

人の話聞けよ、こら。

「だ、だから。これは俺の物じゃないから、俺の意思で誰かにあげたりるのはマズイんですってば。欲しいんだったら、持ち主のオバちゃんにそう言ってもらわないと……」

そう言うと、男の目が、すう、と細められた。
こ、怖ぇ。

「……それはつまり、拒否、ということだな?」
「へ?」

拒否っつーか、俺はごく当たり前の話をしただけなんですけど……。
ていうか、そもそも、何度も言ってるように、俺には箱を渡すかどうかの選択権はないんだってば。
俺の持ち物じゃねえんだし。

「全員、構えよ。殺してでも奪い取れ。陛下から『箱さえ無事ならいくら犠牲を出してもかまわぬ』とのお達しが出ている。かかれ!」

男は、とんでもなく物騒な言葉を並べ立てた。
同時に、周りにいた連中が、いっせいに俺に飛びかかってくる。

ぎょえええええ!

俺は、箱をつかんで走った。
強そうな男が何人も飛びかかってきたのに、誰にも捕まらなかったのは、ほとんど奇跡に近い。
ホームを全力で突っ走り、階段を駆け上がる。

一体何なんだよ、こいつら!
箱ぐらいで人の命を狙うなよ!
この箱の中身ってそんなにスゲェ物かよ?

人がいれば、誰かしら警察とかに連絡してくれたのかもしれないけど、今日はあいにく誰もいないので、助けをアテにできない。
こうなりゃ、駅員のとこまで逃げるしか!

そう思いながら走っていたら、速度が落ちていたのか、えり首のところをつかまれた。

追いつかれた!

あせってみても今更遅い。
たちまち、太い腕が首を締め上げてきた。

ぐ、ぐええ。
やめてくれ、首が折れるぅ……。

俺は、手足をじたばたさせて抵抗する。


たーすーけーてーーーー!!


「てぇあああーっ!」

勇ましい掛け声がした、と思ったら、俺の背後でドサッと人が倒れた。

振り向いてみて、俺は固まった。

あ、あのオバちゃんが……。

あのオバちゃんが、合気道みたいな動きで、そいつらをばったばったとなぎ倒していた。
スーパーのタイムセールで、特売品をゲットするのに命をかけていそうな、そんなオバちゃんが。
まるで一流の格闘家よろしく、がっしりした男達を相手に対等以上に戦ってる……。

俺は、あんぐりと口を開けたまま、それを見ていた。


「ごめんなさいねぇ、大丈夫だった?」
「は、はあ」

オバちゃんは、何かの武道の達人だったらしい。
ほどなく、全員をぶちのめしてしまった。
すげぇ……。

「あ、これ……」

俺は、抱えたままの箱を差し出した。

「まあ、ちゃんと預かっていてくれたのね。ありがとう」

オバちゃんはうれしそうに笑うと、箱を大事そうに抱えた。

「そ、そんじゃ、俺、これで」

これ以上関わっちゃマズイと思ったので、俺はくるっときびすを返して立ち去ろうとした。
その俺の腕を、がし、とオバちゃんが捕まえる。

「まあ、お待ちなさいな。預かっていてくれたお礼に、何かおごってあげるわ」

冷や汗が、どばっと噴き出してきた。
じょ、じょ、じょ、冗談じゃない。
その箱のせいで、俺、殺されかかったんだぞ。
そんなもの持ってる人におごってもらうなんて、そんな恐ろしいことはゴメンだ!

「いいいいいえっ、結構です! 俺、これからバイトもあるし、時間ないんで!」

俺が断ると、オバちゃんはちょっとガッカリしたような顔をした。

「そう? それじゃあ、今度街中で会ったら、お茶でもおごるわ。気軽に声をかけてちょうだいね」

冗談じゃねぇ。
これ以上妙なことに巻き込まれてたまるもんかい。
見かけたら、隠れてやる。

「はあ、そ、そうですね。それじゃあ」

俺は、冷や汗をだらだら流しつつ、駅から逃げ出した。


……はぁ。

やっと安心して息をついたのは、駅を出てしばらく歩いた後のことだった。
まったく、ひどい目にあったぜ。
しかも今回は殺されかかっちまった。

俺、なんか最近、妙なことに巻きこまれてばかりじゃねぇか?
なんでだ?
そういうものを引きつけるオーラでも出てるのか?

……………………。

よし、今度から、知らない人に物を頼まれてもなんとかして逃げることにしよう。
俺は毎日を平和で安全に過ごしたいんだ。

さあ、今は何も考えず、バイトにはげもう。

気合いを入れなおして、歩き出したのだが……数歩歩いたところで、異常を感じた。

……なんか……目が、かゆい。

俺は、ゴシゴシと目をこすった。
ゴミでも入ったのかと思ったが、涙が出ても時間が経っても、まだかゆい。
花粉の時期じゃあるまいし、どうしたんだろうか、俺。

……俺は、すっかり忘れていた。
前にもこんな風なことがあった、というのを。


翌日、俺は、三度目のものもらいになった。






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