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zoom RSS 現代○○事情 3

<<   作成日時 : 2007/06/06 22:58   >>

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特に予定のない休日。
私は、誰にも邪魔されずに昼寝を満喫していた。

この前買った長座布団の上で、うとうと、うとうと。
はぁ〜、このお気楽な時間が、ずっと続けばいいのに。

……ただ、人間という生き物は悲しいもので、時間が経てばお腹が空く。
ついでに言うと、のども乾く。

私は、コンビニに行くことにした。

コンビニは、私の住んでいるワンルームマンションから歩いて三分ぐらいのところにある。
駐車場が広くて、なんとなく入りやすい感じのところだ。

コンビニに入って、取りあえず、新発売のジュースをカゴに入れて。
えぇと……何を食べようかな。
お弁当にしようかな、サンドイッチにしようかな、おにぎりにしようかな。
パスタもいいな、新発売のパンも気になるな。
それとも、手っ取り早くカップラーメンにしようかな。
お菓子で軽く済ませちゃうっていうのも、アリかな。

……き、決められない。
そういえば、私、二者択一とか、何かを選ぶのが昔っから苦手だった……。

コンビニの中をうろうろしながら、私は後悔と苦悩の中にいた。
お腹が空いているせいか、早く何か食べたいのに何を食べるかが決められないという、我ながらもどかしい状態なのだ。
ああ、ジュースを先に選ぶんじゃなかった。
このまま悩んでいたら、ぬるくなってしまう……。

うろうろした挙句また到着したパンのコーナーで立ち尽くしていると、とんとん、と肩を叩かれた。
ひょい、と振り返ると、男の人が「よぉ」と気さくに笑っていた。

……えぇと、誰だっけ。

考え込んでいると、男の人の気さくな笑いが、ちょっと苦笑いの方に変わった。

「何だよ、俺のこと忘れちまったのか?」

えぇと、えぇと、誰だったかな?
仕事関係で知り合った人じゃなさそうだし……いや、でもスーツから普段着に変わると印象ってガラッと変わるし!
思い出せないでいると、じれったくなったのか、男の人は自分を指差して、

「俺だよ、お・れ。ガキの頃、よく一緒に遊んだだろ。ほら、家が近所で、小学校と中学校、ずっとクラスが一緒で……」

と、笑った。
その顔を見て、私の頭に、とある人物の顔が浮かんだ。

「ああ! きーちゃん!」

思わず、あだ名が出てきた。

きーちゃん、こと木原(きはら)君。
家が近くて、物心ついた時には一緒に遊んだりしていた同い年の男の子。
とは言っても、二人きりで遊んでいたわけじゃなく、いろんな年齢の子が集まって遊んでいたから、幼なじみというよりは遊びのグループの一員、って感じだ。
それでちょっと思い出せなかったのだ。
それに、しばらく見ないうちに成長して見た目が随分変わってるし……って、私も二十代なんだから、コイツだって二十代になってるわよね。

「やっと思い出したな? 薄情モン」
「いやー、仕事で覚えなきゃいけない事が多いもんだから、昔のことが遠くなってるのよ」
「年なんだろ」
「違いますぅっ」

年の話はしないで欲しい。
最近、ちょっと気にするようになってきたから。

「でも、ちゃんと思い出したわ。嫌いなヘビを持って追いかけ回してきた時のこととか」

あれは忘れもしない、小学校に上がったばかりの頃。
校庭でシロツメクサをつんで、花輪を作っていると、後ろからきーちゃんが「おーい!」と呼んだのだ。
降り返ると、茶色っぽいロープみたいなものを片手に、こっちに走ってくるところだった。
だけど、よく見るとそれは、ロープにしては不自然に動いていた。

そう、そいつはロープなんかじゃなく、ヘビ、だった。

悲鳴を上げ、作りかけの花輪を放り投げて逃げる私を、きーちゃんは大笑いしつつ全速力で走って追いかけてきた。
私が転んで、突っ伏したまま大泣きするまで、追いかけるのをやめなかった。

まったく、ヘビを持ってかよわい女の子を追いかけ回すなんて、極悪非道なやつだわ。

「……根に持ってんだな、お前」
「忘れろってのが無理よ、あれは」

おかげで私は、それ以来ヘビはもちろん、よく似たもの――例えばロープだとか電化製品のコードだとか――が大の苦手なのだ。

「で、お前何してんだ?」
「見てわかんない? 買い物中よ」

そっけなく答えてやると、きーちゃんはじっと私の顔を見つめてきた。
な、何よ。
何か、顔についてる?

「……何買うか、悩んでんだろ」

ぎくっ。
ばっちり指摘されてしまった。

「な、なんでわかるのよ?」

私の言葉に、呆れた顔でため息をつく。

「ガキの頃、アイス買う時に冷凍ケースのふた開けてから悩むもんだから、店のおばちゃんに『どれにするか決めてから開けな』って説教食らってただろ。悩んでる時のしぐさ、あの時のまんまだったぞ」
「もうっ。余計なことばっかり覚えてるんだから」
「そりゃこっちの台詞だ」

店の中に居座るのも迷惑なので、私は一番近いところにあったという理由でメロンパンを選び、レジへ持っていった。
きーちゃんが、缶コーヒーを片手に後ろに並ぶ。

お金を払い、

「それじゃね」

と帰ろうとすると、肩に手をかけられた。

「何よ?」
「……お前、今ヒマか?」
「へ?」
「ヒマなら話相手になってくれ」

……ま、いいか。
久々に会ったことだし、家に帰ったってどうせゴロゴロするだけだし。

私は、「いいよ」と返事をした。




「妹、今日結婚式なんだ」

公園のベンチに腰掛けて、メロンパンをほおばりつつ、雑談をしていて。
突然きーちゃんの口から飛び出した思いがけない言葉に、私は驚いた。

「えぇっ、そうなの? 知らなかった」
「身内だけで済ませるっていうからな。お前の実家の方には、たぶん顔見せぐらいには行くと思う」
「ふーん、おめでとう!」
「おぅ、サンキュウ」

片手を上げて、きーちゃんは応える。

……ん?

「きーちゃん、なんでこんなとこブラブラしてんの?」

いくら身内だけで済ませるからって、普通は兄も出席するもんだよね?
それが、どうして普段着で、コンビニなんかにいたの?

私が、疑問を投げかけると。

「んまっ、男に面と向かってブラブラなんて、エッチぃ」

両頬を手で挟んで、わざとらしくオカマみたいな声を上げる。

「話の腰を折らないっ!」

私が強引に疑問を突き通すと、やれやれ、みたいな顔をして、きーちゃんは話し始めた。
ただ、言いづらいのか、ずっと足元を見たままで。

「……妹がさ、『兄さんが出席するんなら式なんかしない!』って泣いて大騒ぎするもんだからさ。どうしても抜けられない用事がある、ってことにして、俺は欠席したの……だから、今日のうちは家に帰れねぇの」

私は、言われた意味を理解するのに時間がかかった。
つまり……それって……?

「ちょっと、それ、ヒドイじゃない! 家族に向かって出席するな、なんて! 誰も何も言わなかったの?」

意味がわかった瞬間、私はきーちゃんに詰め寄っていた。

「言うわけねーじゃん。親の方だって、なるべく俺のことには関わりあいになりたくないんだから」

落ちつけ落ちつけ、と両手で私を押しとどめ、きーちゃんは笑う。


彼は、小さい時からご両親に煙たがられていた。
親戚の集まりなんかにも、呼んではもらえなかったらしい。
その理由を、私は知っている。
彼が、家族や親戚とは違う身体的な特徴を持っていたからだ。
そのことで、ご両親は「本当に自分達の子供か」と言い争いをしたらしい。

一度、「奥さんの方が浮気をしたんじゃないか」と、彼の親戚らしい大人がひそひそ話していたのを、聞いてしまったことがある。

……私には、ごく普通の人間にしか見えないのだけど。


「まあ、妹の気持ちも分かるからさ。俺、自分でも思うもん。こんなアニキがいたら、できるだけ距離置いて、避けるぜ」


私は、なんともやりきれない気持ちになった。
だって、たった一つ、皆と違うところがあるからと言って、家族からも疎まれるなんて……。
しかもそれを本人が、当たり前のことのようにして受け入れているなんて……。

「目が二つあるのは、私達人間にしてみれば何でもない、ごく普通のことなのにね……」
「人間はな。だけど、俺のとこは一つ目妖怪の家系だもん。俺が異常なんだよ」


彼はそう言うと、少しだけ大きさの違う左右の目を細め、なんとなく寂しげに笑った。



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