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zoom RSS 予知能力者

<<   作成日時 : 2007/04/06 23:17   >>

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僕には、生まれつき、予知能力というものがある。

相手に少し触れるだけで、これからその人に起こることが、頭の中に浮かぶのだ。
まるで、映画のように。

素晴らしいこと――例えば長年の夢がかなうだとか、理想の人と運命的な出会いをして結婚するだとか、幸せな出来事が見えたら、僕は思わずニコニコしてしまう。

だけど、知り得るのは、良いことばかりじゃない。
信じていた人に裏切られるだとか、悲惨な事件の被害者になるだとか、そういう不幸な出来事も、同じように見えるのだ。

……僕は、自分の境遇を呪わずにいられない。

不幸な出来事が見えた時、心が悲鳴を上げて、目を背けたくなるから?

……確かにそれもあるけど、僕が一番悲しいのは、頭の中に浮かんだものを、うまく伝えられないこと、なのだ。

声を上げて、何とか、こっちに注意を引くことはできる。
でも、そこからが難しい。
とにかく、伝えられないのだ。
僕が、何をどう、一生懸命訴えても、誰一人理解してくれない。
皆、戸惑ったような、困ったような顔をするばかりで、しまいには疲れたような、少しばかりウンザリした表情で去っていく。
……それが、赤の他人なら、僕はまだ、耐えられた。
二度と会うようなこともないだろうから、と諦めることもできた。

だけど、僕は今、どうしても諦めるわけにはいかない状況にある。

僕の母親のことだ。

――少し前のことになる。

母さんは、熱を出した僕の額に、そっと手を当てた。
その時、少し未来の出来事が見えた。

車を運転し、急カーブの続く山道を行く母さん。
山道ということもあってか、スピードは控えめだ。
そこへ、後ろから迫ってきた大型のトラックにあおられて、母さんはハンドル操作を誤る。
スリップする車。
耳障りな急ブレーキの音。
母さんはハンドルにしがみつき、悲鳴を上げる。
そして、母さんの乗った車は、カーブを曲がりそこね、ガードレールを突き破り――落ちていった。

大型トラックは、一旦スピードを落としかけて、突然、猛スピードで逃げていった。
他には、自動車も人もいなかったから、逃げられると思ったのかもしれない。

……僕の母さんは、そう遠くない未来において、事故にあう。
生死までは見えなかったが、全くの無事ということもないと思う。

僕は、何度も何度も母さんに伝えようとした。
大切な、この世にただ一人切りの母親なのだ。
そんな人が、死んでしまったり、大怪我を負ったりしてしまうなんて、耐えられない。

例え伝わらなくても、何度でも何度でも、僕は訴え続けた。
いつかは、ちゃんと聞いてくれるものと信じて。

……それなのに。
僕が伝えようと声を張り上げるたびに、母さんは、疲れた、やつれた表情でやってきて、僕の声をひたすら無視して的外れなことをした挙句、また戻っていくという行動を取り続けた。

違うんだ。
僕の話を聞いて欲しいんだ。
母さん、お願いだから、聞いて。
事故にあうんだ。
大型トラックにあおられて、カーブを曲がり損ねて。
だから、車には乗らないで。
母さん、母さん……!

それを、何度繰り返したのだろう。
僕は、すっかり疲れてしまい、悲しくなった。

伝わらないんだ。
血の繋がった親子なのに、僕の言いたいことは、伝えられないんだ。

僕は、母さんを助けたいのに――……!





 
  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  





とある一軒家の玄関先。
台の上に置かれた電話の前に、一人のエプロン姿の女が立ち、電話番号のボタンを押す。

「あ、もしもし、お義母様ですか? えぇ、送っていただいたあれ、すごく助かりました。おかげさまで、あの子の夜泣き、収まりましたわ。あの子、あんまり泣くものだから、私、どこか病気にかかっているんじゃないかって、不安で不安で、毎日気をもんでいましたの。オムツも濡れていないし、お腹も空いていない様子なのに、どうしてなんだろう、って……。本当に、お義母様に相談して良かった……」

安堵した様子で、女は息をはく。

「えぇ、それは是非。今度の日曜にでも……もちろん、赤ちゃんも連れて行きますわ。えぇ、はい、そうですね。それじゃ、失礼します……」

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