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<<   作成日時 : 2007/03/11 22:21   >>

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私は、駅のホームの端の方で、電車が来るのを待っていた。

――別に、電車に乗ってどこかに行くわけじゃない。
電車が来たら、飛び込んでしまうつもりだった。
何をやってもうまく行かない、パッとしない人生を、早く終らせたいのだ。
老いぼれて死ぬまでこんな人生が続くのかと思うと、とても日々を楽しむ気になれない。

私が死んだら、悲しむ人がいる?

そんなことはない。

納税者が一人いなくなって、使える税金が減ってお役所が困るぐらいのものだ。

私は、自分で自分の始末をするだけだ。
それも、誰にも迷惑なんかかけない方法で。

……それにしても、電車が遅い。
他の人達もそう思っているのだろう。
イライラしたり、そわそわしたりしながら、時刻表が表示された電光掲示板を見上げてる。
と、その時、ホームにアナウンスが響いた。

「えー……ただ今、K駅で人身事故が発生しました影響で、電車、全線、運転を見合わせております……」

駅員のアナウンスが聞こえた途端、えぇーっ!という怒りと不満の混じった声があちこちから上がった。

「ちょっと! ふざけんじゃないわよ!」
「こっちは急いでいるんだぞ!」

中には、駅員を捕まえて怒鳴り散らしてる人もいる。

「自殺かなあ?」
「だろうな」

近くにいる若い男の二人組の会話が聞こえてきた。

「電車に飛び込むなんて、とんでもない自殺の仕方だぜ」
「何でだよ」
「電車ってな、運行を止めるとバカ高い金取られるんだよ。あと、乗客への払い戻し分も請求されんだ」
「死んだっていうのにそれじゃ、踏んだり蹴ったりだな」

私は、電車に飛び込んでの自殺をあきらめた。
死んだ後で家族にそんな金を払わせるなんて、後味が悪すぎる。
私は、誰にも迷惑をかけずに死にたいのだ。
電車に飛び込んでの自殺が無理なら……どこか、高い所から飛び降りてしまおう。

私は、駅を後にして、大型スーパーに向かった。
そこの屋上の駐車場から飛び降りたなら、きっと死ねる。
あそこは三階建てで、その上に駐車場がある。
高さとしては十分だろう。
店側から入れば、目立たないハズだ。

そう思いながらたどり着いてみると、入り口近くに人だかりが出来ていた。
おまけにパトカーが止まっている。

「飛び降りですってぇ?」
「えぇ、屋上の駐車場から飛び降りたらしいわよ」

人ごみの中から、中年のおばさん達の会話が聞こえてきた。

「まあ、何をそんなに気に病んでいたのかしら」
「それはわからないけど……気の毒に、小さい女の子が飛び降りの巻き添えになってしまったらしいわよ」
「巻き添え?」
「えぇ。飛び降りてきたところに、ちょうど女の子がいたんですって。お母さんが駆けよってかばおうとしたんだけど、間に合わなかったらしくて……ねぇ」
「まあ、かわいそうに……」
「女の子のお母さんが半狂乱で泣きわめいてねぇ。本当に見てられなかったわ」

飛び降り自殺でも、誰かに迷惑をかけてしまうのか……。
私は、飛び降りての自殺をあきらめた。


こうなったら……首を吊って死のう。

私は、ホームセンターに立ち寄って丈夫なロープを買い、マンションに帰ることにした。
マンションの部屋なら、きっと、誰にも迷惑をかけない。

マンション前までやってくると、管理人夫婦が二人の警察官と話をしていた。
泥棒でも入ったのだろうか。
そう思いながら近付いていくと、奥さんが突然髪をふり乱した。

「なんで……なんでうちのマンションで自殺なんかするのよ!」
「死んだ人を責めるものじゃないよ……」

そう言ってなだめようとする旦那さんを、奥さんが睨む。

「じゃあ、あなたは平気なの!? 若いうちからコツコツ貯金して、やっと買ったマンションなのよ? それなのに、自殺なんかされたら、事故物件っていうことになって、借り手に敬遠されるわ! 空き部屋を作らないために、家賃を下げなきゃいけないのよ……っ! 私達の若い時の苦労も、これからの老後も、何もかも滅茶苦茶よぉ!」

奥さんは、うわーっと大声で泣き叫んだ。

マンションでの首吊り自殺も、取り止めだ。
管理人夫婦に多大な迷惑をかけてしまう。

私は、ホームセンターに引き返した。
さっき買ったロープを返品するために。


……誰にも迷惑をかけずに自殺する方法なんて、この世にはない、という事だろうか。

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