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zoom RSS 予言が当たらない理由

<<   作成日時 : 2007/03/07 00:02   >>

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「君、明日、出張してきてくれないかね」

書類を書いていると、突然、上司から出張を命じられた。

「はぁ、出張……ですか」

私が浮かない表情をしていると、

「大丈夫だ。何度か行った所だ」

と、上司はなだめるように明日出張する場所を告げた。


――出張なんて、楽しいものじゃない。

交通の便がそれほど良くなかった頃は、出張というとかなりの時間を費やすことになり、仕事が終わる頃には帰る手段がなくなるので、そのまま飲みに行ったりという『お楽しみ』があったらしい。
しかし、私が社会に出る頃には、交通網が随分と改良・発達したために日帰りが可能になってしまい、出張に楽しみを見出すことができなくなった。

……私の場合、酒がどうこうというのではない。
だいいち私は酒が飲めない。

確かに、上司の言う通り、そこは何度も行っている。
そこの地域の担当者達とも顔なじみで、仕事の合間には雑談を交わしたりもする。

ただ……どういうわけか、私はいつも、出張というと遅刻をしてしまい、非常に気まずい思いをする羽目になるのだ。
きちんと気をつけて、前の日にしっかり準備をして、当日は早起きして向かうというのに、何かしらのドジで遅刻してしまうのだ。
向かう途中でケガをするだとか、家に重要な書類の入ったカバンを置き忘れて慌てて取りに戻るだとか、そんなことが多い。

私のついている職業は少々特殊なもので、ほんの少しの遅刻であってもたちまち仕事に大きな影響が出てしまう。
それなのだから、私がいつも遅刻をするという事が、どれだけ仕事に差し支えるか、想像もつくだろう。

現に、私のせいで仕事ができなかった、という事がある。
そのために以前から着々と進められていたという計画が台無しになり、ご破算になった。
その時は始末書をうんと書かされ、胃に穴が開くほど反省した。
『遅刻魔』という不名誉な呼ばれ方をされるようになったのも、その一件以来である。

また遅刻をするかもしれないので、行きたくありません……と言えたら、どれだけ気楽だろうか。

上司の指示を仰ぎながら仕事をしている身の上で、そんなこと言えるはずもないのは百も承知だが、それでも考えずにいられない。

「どうしたんだ。「はい」と言わないか。明日どうしても出張してもらわなければならないんだ。明日中にすべての下準備を整え、来月になった時点で前々からの巨大プロジェクトを実行する。これはずっと昔から決まっていたことで、もう覆すことはできないんだ。この大きな仕事のために、君を出張させたいのだ。君にとっても、このプロジェクトの成功は将来、大きなプラスになるんだぞ」

上司は「お前が行け」という意味のことを、しつこくしつこく説いてきた。

それでも、断るのに最適な理由があれば、出張は避けられるのかもしれないが……あいにく、思いつかなかった。




次の日、私は駅のホームに立っていた。

時計を見る。
早朝6時。

……よし、今回は何もミスをしていない。

重要な書類は全てそろっているし、今乗ろうとしている電車も間違いない。
始発に出るコレにさえ乗ってしまえば、あとは大丈夫だ。
私は電車の座席に座り、ほっとため息をついた。
これで、あとは勝手に乗り物のほうが私を出張場所まで運んでくれる。
出張場所までは、かなりの時間がかかる。

……早起きしたところだし、少し仮眠を取っておこう。

――……と、ふと目を覚ますと、見なれた景色が目に飛び込んだ。
どこかの駅についたらしい。
伸びをし、ついでに駅名を見ると――それは、降りるはずの駅だった。
冷や汗が、どっと噴き出してきた。

「うわあああっ!」

慌ててカバンを手に取り、出入り口に走ったのだが、ドアは無情にも閉じてしまった。

また、やってしまった……。

思わず、がくりとひざをついた。

ほどなく電車が発車し、やがて、カタタタン、カタタタン、と規則的な音が足元から響き始めた。

次の駅は確か、終点の1つ前だ。
しかも、あの駅は乗り降りする人が少ないと言う事で、始発は通過してしまうのだ。
ということは、その先にある終点までまっしぐら、ということになる。
終点までは恐ろしい時間を要するし、またそこから引き返すことを考えると……。

遅刻だ。

それも、今までに経験したこともないような規模の。

もしかしたら、今日中に出張場所に行けないかもしれない。

私のせいでまた一つ、計画が台無しになってしまう。
ああ、今度こそクビになる。
仮眠なんてするんじゃなかった。
上司になんて言おう。
そもそも顔向けすらできない。
とてもそんな度量はないけど、どこか遠くへ逃げてしまいたい。

私は、ゆううつになりながら、時計についている日付をちらりと見た。


今日は、6月30日。

そして、明日は――7月だ。1999年の。


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