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<<   作成日時 : 2007/02/17 00:12   >>

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ある王国で、数人の若者が捕えられた。
彼らは、国王の暗殺を企てていたのだ。
密告が元で足がつき、兵士達によって一網打尽にされた彼らは、両腕と両足を頑丈に縛られて国王の前に転がされた。

「陛下のお命を狙うとは、なんと恐ろしい連中でしょう。即刻、打ち首にして見せしめのために首を広場にさらしましょう」

老いた大臣の提案に、国王がうなずきかけた時、側近の一人が進みでた。
まだ三十代にもさしかかっていないような、側近の中でも最も若い者だ。
彼はみなし子で、十三になるまで育った村を出て各地をさまよい歩いていたところを国王の気まぐれで拾われ、教育を施された。
いくら国王に拾われたとはいえ、それはただそれだけのことだ。
国王は後ろ盾になってくれない。
彼が側近にまで上り詰めたのは、純粋に、自身の才能と努力のたまものである。

側近は国王に向かって片膝をつく。

「お待ちください。この者達は私がかつて暮らした村の出身でございます。どうか、この一件は私めにお任せください」

その声は、実に朗々としていて、よく通るものだった。
捕らえられた若者達は、助かるかもしれないという期待をこめて、側近を見つめる。
老いた大臣が、不愉快そうに眉をはね上げた。

「口出しするとは何事だ、馬鹿者! 貴様が何を言おうとも、陛下のお命を狙う輩を生かしておくことはまかりならぬ!」

感情的になって吠える老いた大臣を尻目に、側近は尚も国王に頼みこむ。

「お願いでございます。私が明日、処刑の前に一つ、この者達に質問をしましょう。三つ数える間に口ごもることなく答えられたなら、どうか、慈悲をお与え下さいませ」

頭を深く下げて微動だにしない側近を見て、国王は退屈そうにヒゲを生やした顎をなでた。

「うむ。良かろう」
「陛下!」

老いた大臣は抗議をしたが、国王直々に許したことだったので、結局黙ることになった。

しかし、発言した側近にまで黙っているつもりはない。
老いた大臣は、側近と話をする時を見計らい、嫌みたらしくたたみかけた。

「ふん、どこの馬の骨ともわからぬ若造が、よくもまあ、ぬけぬけと陛下に進言できたものだ。お前のような、血筋すら定かではない者は、いくら努力しようとも上には行けぬ。お前、陛下に拾われたと思って良い気になっているのではないか? まったく、図々しいことだ。きっとお前の父親はろくでなしで、母親は売春女に違いない。血筋がいやしくなければ、そのように図々しい身の程知らずなことなど、できるはずもない」

側近は驚いたような、戸惑ったような、困ったような、そんな顔をしたまま、何も言おうとしない。
時折、通りがかる者を見つけては、ちらちらと見ている。

きっと、こいつにはまともに反論するだけの頭すらないのだ。
誰かが助けてくれると思って、通る人間をすがり見ているのだ。

――取るに足らない大馬鹿者め。

そう判断した老いた大臣は、最後に、侮蔑する目つきを残して去って行った。


側近は、その背中をじっと見ていた。
が、辺りに誰もいないのを用心深く確認すると、ため息まじりに呟き出した。

「過去というものほど、恐ろしいものはないでしょう。何故ならば、それはもはや修正のきかない事だから。隠し通したつもりでも現れて、忘れたつもりでもいつの間にか背後に忍び寄っていたりするものなのですよ」

側近は目を閉じる。
ややオレンジ色の混じり始めた光に包まれて、彼はかすかに微笑んでいた。

「……貴方は私のような青二才よりもずっと長く生きておいでだ。一体、どんな過去を持っているのかな」

再び開いた目は、残酷さと狂気とを宿していた。




――翌日。

城の中庭に、昨日捕らえられた若者達が集められ、固い地面の上に座らされた。
全員、両腕と足をがんじがらめに縛られ、自力では立ちあがれない状態である。
背後には首切り役人が待機している。
首切り役人は耳が不自由で、側近が指を折って三つ数え終えたのを合図に、斧を端から順番に振り下ろして行くことになっていた。


彼らの前に、側近が立つ。

「それでは、質問だ。三つ数える間によどみなく答えるのだぞ」

一体、どんな質問か。
若者達の間に緊張が走る。
何せ、その質問への答えによって、生死が決まるのだから。

側近は、顔を動かさず、目だけで城の中庭に面した一階部分のとある窓を見た。
そこには、老いた大臣がいる。
国王への報告のために、隠れてそこから監視しているはずだから。

「覚えているか。あの村に、みなし子がいたのを。お前達は、寄ってたかってそれをいじめた。最初は遊びの輪に入れなかった。次に、仲間内で笑い者にし始めた。次に、見掛けるたびにからかい、それが石を投げて追い払う行動になり、石が当たると楽しそうに笑うようになり、石を手に村中を探してまわるようになり、やがては集団でことある事に殴る蹴るの暴行を加えるようになったのだ。『臭い』だの『汚い』だの、一体何度言われたか覚えてさえもいない」

側近の口からつむがれる言葉を聞く彼らは、次第次第に血の気を失い、震えだした。

「お、お……いや、あなた様は、あの……」

リーダー格の男は、こびるような目つきを向け、許しを乞う言葉を口にしようとした。
しかし、なかなか出てこない。
少年時代に染みついた侮蔑の心は、彼を根底からどっぷりと支配しており、今更、へりくだって許しを乞うなどという行為をさせないのだ。

側近は、真上からそれをじっと見下ろす。
怒りも、悲しみも、憐れみも浮かばない表情で。

「質問だ。お前達は、なぜあの時私にそのような事をした?」


側近はすっと手を上げて、親指から順番に指を折って数を数えていく。



ひとつ。

ふたつ。



首切り役人の持つ斧が、ゆっくりと振り上げられる。
斧の刃は太陽の光を受けて、ギラリと鈍く反射した。





……みっつ。





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