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zoom RSS ミントチョコの実と笑わない姫の話

<<   作成日時 : 2007/02/04 22:00   >>

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そこは、おとぎの国とでもいうべき場所であった。

小人や言葉をしゃべる動物がいて、毎日、たわわに実るミントチョコの実を食べている。
その実をつける木の幹や枝はクッキーでできていて、小人達は風の吹いた次の日に、落ちた小枝を拾うのを楽しみにしていた。
誰かの手で折った枝は元に戻らないが、風に吹かれて折れたものならば元に戻るのだ。

ミントチョコの実のなる木を見上げ、ウサギに良く似た、ふさふさとした毛の生えた小さな体をぼりぼりとかきながら、そいつは鼻をひくひくと動かした。

「やあ、一体どうしたものか。おいらの食べるものがない」

実のなる枝は、彼にとってはるか頭上の存在だ。
しかも彼は木登りが苦手であった。
枝から枝を伝って歩くのは得意なのだが。
彼は、普段、落ちた実を食べているのだが、今日に限って一つも落ちていない。
途方にくれて見上げるも、『落ちてくる』などと、そうそう幸運というものは巡ってこない。
このままでは、今日は腹ぺこだ。

そこへ、一頭の馬が現れた。

「そこの小さいお前、一体何をしている。うっかり踏んづけても文句を言われる筋合いではないぞ」

そいつは、黒目がちの瞳でじっと馬を見上げた。

「馬のだんな。おいら、あの実に手が届かないんだよ。ちょいと背中に乗せておくれでないかい?」
「良かろう。そのかわり、俺の分ももぎ取ってもらおうか」
「合点でさあ」

言うと、そいつは馬の尻尾に飛びついた。
馬は尻尾を勢いよく一振り。
そいつはぽいっと馬の背に放られ、みごと着地した。

「ありがたいありがたい」

そいつは馬の背を渡って枝に移ると、ちょこまかと動きまわり、いくつかの実をもぎ取った。

「だんなには、大きいのをあげるよ」

馬の足元に大きめの実をいくつか落とすと、そいつは自分の分を抱え、ちゃっかり背中に座った。

「そういえば、知っているかい馬のだんな。山の向こうのお城の姫様が、笑わなくなっちまったらしいよ」

ミントチョコの実をかじりつつ、そいつは他愛ない世間話を持ち出す。

「笑わないのは異常なことではないだろう。おかしいことがないのに笑えるものか」
「そりゃあ、そうだけど。姫様は、王様や王妃様までもが大笑いするような、こっけいな話にすら笑わなくなっちまったんだとさ」
「なるほど。それは妙かもしれん。だが、王様や王妃様が笑っている話の内容が、たまたま姫様にとっては不愉快な思いをする内容だったのではないのか?」
「そうかなぁ? そういうものかなあ?」
「そういうものだ。ちなみに、俺は今、お前が俺の背中を踏み台にした礼をたったこれだけで済ませようとしているのが、不愉快でたまらぬ」
「あ、馬のだんなは体が大きいから、おいらの何倍も食べるんだね。これは失敬」

そいつは、そそくさと馬の背中を渡り、枝に移った。


――少しばかり月日が流れた。
そいつと馬は、ミントチョコの実をかじりながら話をする仲になっていた。

「馬のだんな。姫様の婚礼が決まったそうだよ。相手は隣の国の王子だとさ」

「ほう。そいつはめでたいな」
「そうかい? だって、姫様はまだ笑わないんだよ?」
「人間の男というものはな、どんなに笑わない女でも、美人だったら気にしない生き物なのだ」
「そうかなぁ?そういうものかなあ?」

―それからまた数ヶ月後。

「馬のだんな。お姫様がついに笑ったそうだよ」

「ほう、そいつはめでたいな。しかし、姫様を笑わせたのは一体何だ?」
「城下の町で盗みを働いていた男がつかまって、公開処刑ってやつで、ギロチンで首をすぱんとやられたとさ。その、男の首が落ちたのを見て、姫がころころと笑ったらしい。それはそれは美しい声で笑ったそうだよ」
「……悪趣味な笑いだ。いつか滅びをもたらすぞ」
「そうかなぁ? 悪人が根こそぎいなくなれば、世の中ってのは良くなるもんじゃないのかい?」
「物事の善悪は、そう簡単に決められないものだ」
「そうかなぁ? そういうものかなあ?」


その後は馬の懸念した通りであった。

姫の笑顔の美しさに見惚れた隣国の王子は、罪人を次々とギロチンにかけていった。
最初こそ死に値するような罪人ばかりが処刑台に送られたが、次第に大した罪ではない者までもが処刑台に送られるようになった。
そのうちに、牢獄の中にいた罪人を全て処刑しきってしまうと、今度は町中から罪人を引っ張ってくるようになった。
公園の花を手折った者。犬や猫をいじめた者。ゴミを道に捨てた者。
そんな者を見つけ次第つかまえて、処刑台に送り込むのだ。
王子の放った密偵が町中にあふれ、少しでも物を壊したり人を傷つけたりすると、たちまち捕らえて連れていくのである。

姫は首が落ちるたびに美しく笑う。
それが王子を魅了し、処刑の頻度を上げさせていった。
――また、あの笑顔が見たい。
王子の頭には、もはやそれしかなかった。

やがて人々は外を出歩かなくなり、余計なとばっちりを食わないよう、自分以外のものに関わろうとしなくなった。
それでも密偵は何とかこじつけて、町の人を連行していく。
そうしなければ、自分が処刑されかねないからだ。

……しかし、そんな生活がいつまでも続くはずもない。
人というのは、不幸に見舞われ追い詰められると、勇気を振り絞って不幸を追い出すものだ。


「馬のだんな。姫様が嫁いだ国で、国民が『革命』っていうものをやって、王家を全員、ギロチンにかけたんだとさ」

「いつか、そうなるとは思っていたが……」

馬は、目を閉じてしばらく黙りこんだ。

「ねえ、馬のだんな」
「なんだ、小さいの」

「姫様は、自分の首が落ちた時、どうだったのかな? 笑ったのかな?」

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
人の不幸ほど面白いものは無いってね。
お姫様は自分の首が飛ぶ瞬間に笑ったに一票。
全てがSになる
2007/02/05 21:45
感想ありがとうございます。
書いた人が言うのもなんですが、そんな気がします。<笑った
そして、姫様の首が落ちた瞬間、今度は国民が笑うのです。うーん。

鈴藤 由愛
2007/02/05 23:27
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