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zoom RSS 現代○○事情2

<<   作成日時 : 2007/01/09 22:56   >>

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俺は、ただ今就職活動中の身の上である。
俺が希望する会社は一流企業ということもあって、物凄い倍率である。
「コネでもないと入れない」なんて言われたほどだ。
ともかく、筆記試験に合格した者だけが、次の面接に臨めるわけだが……俺はどうにか残ることが出来た。
あの人数を思うと、奇跡的と言ってもいい。

だが、ここで気を引き締めなきゃならない。
面接という高いハードルが残っている。
俺はこの日のために髪を切って黒く染め、勤勉さをアピールするためにコンタクトではなくメガネをかけることにした。

そして、心臓をバクバクいわせながら、面接会場である本社ビルに向かったわけだが……入り口で、変な物を見つけた。
何のマークだか知らないけれど、赤い線で壁の目立たない所に書いてあるのだ。
植え込みを注意深く観察しなければ、多分気付かないだろう。

落書き……だろうか。

俺は何のマークか気になったのだけど、面接に遅れては困るので放っておくことにした。

面接は本社ビルの会議室で行われる。
待合室には、当然だが俺の他にも十人ほどいて、どれも頭が良くて仕事ができそうな感じだ。

……俺が筆記試験に合格したの、間違いじゃないだろうな。
ちらっと、そんなことを思った。

しばらくして、ついに俺の順番が来た。
会議室のドアに向かうまで、手足の震えが止まらなかった。
落ちつけ、落ちつけ、俺。
振るえる手でドアを二回、軽くノックする。

「どうぞ、お入りください」
「失礼します」

緊張しながら会議室に入った途端、俺は固まった。
緊張しすぎていたから……ではない。
会議室に、普通なら無いものを見つけたからだ。

真っ先に気がついたのは、会議室の壁に取り付けられた神棚だった。

何故。どうして。ここに。

でも、それよりもおかしな事がある。

五歳ぐらいの男の子が、会議室で遊んでいるのだ。
面接官である社員がズラリと並んで座っている後ろをパタパタ走っていたり、椅子の下をくぐっていたり。
それはそれは、自由奔放に動き回っている。

……ここにいる面接官の、子供だろうか。

今日、どうしても家に置いて来れない理由があって、仕方なく会社に連れて来たんだろうか。
でも……だからって、こんなに好き勝手させておいていいんだろうか。
子供が走りまわっているのに、誰一人、眉を動かすことすらしない。
……不気味だ。

「……どうかしましたか?」

マズイ。
今、完全に状況を忘れていた。

「い……いえ……」

全身から、サーッと血の気が引いて行くのがわかった。
面接官の中で、一番年長の男が咳払いをした。

「おかけ下さい」
「は、はい。失礼します」

気を取り直して、用意されていたパイプ椅子に腰掛けようとすると、

「キャハハハ」

さっきの子供が座っていた。

「な、な、何してるんだよっ」

慌てて椅子からどかそうとすると、

「あの……何か?」

面接官全員が怪訝な顔をして俺を見ていた。

「え……えっ?」

椅子をもう一度見ると、子供の姿はなかった。
ああもう、何が何だかわからない。

「あ……すみません。何でも……!?」

必死に作り笑いしなから椅子に腰掛けると、子供が面接官の後ろに回って人差し指を立てて「鬼」をやっていた。

「フブ……ッ!」

面接官達の俺を見る目が、不審者を見る時のソレに変わる。

な、なんだよ。あんたらだってわかってるんじゃないのか!?
それとも、こういうアクシデントに、どう対応するかまで見てるのか?
一体どうなってんだよ!?

――出鼻をくじかれた俺は、その後の面接官の質問に、一つもまともに答えられなかった。

こりゃ……もう、駄目、だろうな……。

暗い気持ちでビルを後にしようとしていると、トントンと背中を叩かれた。
振り向くと――あの子供がいた。
よし、注意せねば。

「あ、あのな、あそこは今大事な事をお話ししているんだから、勝手に入っちゃダメだよ」
「ねぇねぇ、おじさん」

んがッ!
二十四歳をおじさん呼ばわりすんなッ!

「ここの出入り口の近くに、赤い模様がなかった?」
「あ?あぁ、そういえば何かあったな」

俺は、植え込みからちらりと見えた変な落書きを思い出していた。

「おじさん、お願い。あの模様消して!」

子供は、俺のスーツをつかんで、必死な顔でそんなことを言ってきた。
ははあ……あの落書き、コイツの仕業だな。

「あぁ、良いけど……二度とすんなよ?」

そう言って頭に手を乗せて笑いかけると、子供はキョトンとしていた。
こういう扱いに慣れてないんだろう。
俺は気にせず例の落書きの場所に向かった。
ハンカチを濡らして拭き取ってみると、落書きはあっさりと消えた。
随分落ちやすい塗料で描いたもんだ。

俺はそれ以上深く考えず、さっさとビルを後にした。


――後日、当然というべきか、不採用の通知が来た。

俺はその後、卒業までには就職を決めたいと駆け回り、希望していた会社よりずっとランクの低いところにどうにか潜り込んだ。
上司はキツイわ仕事は面倒くさいわでしょっちゅう泣き言を言いたくなる会社だが、この不況時に職があるだけでもありがたい、と日々自分に言い聞かせている。

仕事にもだいぶ慣れてきたある日、自分の机で昼飯である天ぷらソバを食いながら会社のテレビを見ていると、見覚えのあるビルが映った。

ああ……あれは俺が第一志望にあげていた会社……。

懐かしさと屈辱的な思いを同時に感じながらニュースを聞いていると……どうやら、倒産したらしい。
民事再生法の適用を申請、と聞こえた。

うわ〜……あの時不採用で良かった……。
なんて思いながらソバをすすっていると、トントンと背中を叩かれた。

「ブフォ!」

ビックリしてむせると、その手が背中をさすり始めた。

「おじさん、大丈夫?」

あの面接の時の子供だった。

「お前っ、な、なんでここにいるんだ?」

というか、何処から入って来たんだろうか。

「あのね、僕、ホントはおじいちゃんと住んでたの。でも、おじいちゃんの家、なくなっちゃったの。そしたら、おじいちゃんの子供だっていう人に、あそこに連れていかれたの。あそこはね、僕が出て行けないようになってたの。大キライだったの。でもおじさんが助けてくれたから、僕、外に行けるようになったんだよ。ありがとう」

……子供の話は、よくわからん。
しかし、相変わらず人の話を聞かんなあ、コイツ。

「僕、おじさんが好きだから、おじさんのトコにいてあげるね」

俺は、すすろうと箸でつまんでいたソバを汁の中に落とした。
あの時には考え付かなかったことが、急に頭に浮かんだからだ。

まさか……いや、でも、それなら全部納得いくよな……。

「お前……座敷わらし、か?」

俺が引きつり笑いを浮かべながら尋ねると、

「うんっ」

子供は、無邪気そのものの笑顔を浮かべた。


それから、俺の働く会社は高い利益を上げ続け、たちまち一流企業の仲間入りを果たしたのだが……俺は、実を言うと毎日怖くてたまらない。

だって、考えてもみてくれ。


座敷わらしが出て行ったら、この会社はオシマイなんだ……!


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