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zoom RSS まみちゃんのママ

<<   作成日時 : 2006/12/01 22:17   >>

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アタシのパパとママは、毎日ケンカばっかり。
顔を見るたびに、って言ってもいいぐらい、とにかく色んなことでケンカしてる。
大声で怒鳴りあうだけじゃなく、壁とか床に物をぶつけたり、お互いに物を投げつけてるのだ。
それも、最近じゃクッションとかじゃなくて、茶碗やお皿、果物ナイフとかを。

アタシは家に帰ると、ご飯とお風呂を済ませて、さっさと二階にある自分の部屋にこもることにしてる。


パパとママは、あんなにケンカしてばかりなのに、どうして結婚なんかしたのかな?


アタシは、いつからか、家に帰るのがイヤでたまらなくなっていた。
特に、今日。
休みの前の日になると、ゆううつになる。
休みの日は、パパとママが顔を合わせる時間が増えるから、その分、ケンカもひどくなるのだ。

誰かに相談すればいいのかな……?
でも、誰に、何て言えばいいの?

公園のブランコに座ってぼんやりしてると、トントン、と肩を叩かれた。
後ろの方に顔を向けると、同じクラスのまみちゃんがいた。

「ゆうちゃん、お家に帰らないの?」

そういえば、アタシはランドセルを背負ったままだ。
これじゃ、まだ家に帰ってないってことがわかっちゃう。

「だって、アタシのパパとママ、ケンカばっかりなんだもん……家に帰るの、ヤダよ……」

アタシは、ブランコの鎖をぐっと握り締めた。
まみちゃんに助けを求めるの、変だけど……でも、アタシは誰かに聞いてほしい一心で、正直な気持ちを打ち明けた。

「いいよね、まみちゃんの家。ママが美人で、優しそうだし……おいしそうなお弁当も作ってくれるし……」

授業参観の時に見た、まみちゃんのママはすごくキレイな人だった。
うちのママみたいにキツイ顔をしてないし、お化粧も濃くないし、いつ見ても優しそうに笑ってた。
遠足の時にまみちゃんと一緒にお弁当を食べたんだけど、その時にまみちゃんが持ってたお弁当は、可愛いお弁当で、冷凍食品のおかずばっかりなアタシのお弁当を、思わず隠したくなった。

どうして?
どうして、まみちゃんにはあんなにキレイで優しそうなママがいるのに、アタシには……。

「それじゃ、ウチにおいでよ!」

ぎゅ、とまみちゃんがアタシの手を握る。

「えっ……」
「ゆうちゃん、ウチの子になったらいいよ。そしたら、ママのお料理が食べられるよ!」

アタシは、コクン、と頷いた。
もうあの家に帰るのは、イヤだった。

これはきっと、チャンスなんだ。
パパとママから逃げ出すために、神様がアタシにくれたチャンス。



まみちゃんは、ママと二人きりで生活してる。
パパの仕事がすごく忙しくて、三人一緒にいる時間が滅多にないんだって。

まみちゃんのママは、アタシの事情を聞くと、「お家の人には連絡しておくから、今日は泊まっていきなさい」って言ってくれた。
それから、まみちゃんと二人で晩ご飯を食べてる間に、まみちゃんのママはアタシの家に電話をかけていた。

「すみません」っていう言葉が何度も聞こえて、アタシはすごく悪いコトをしてる気持ちになった。

その後、ゆっくりお風呂に入って。
まみちゃんのパジャマを借りて。
まみちゃんと一緒のベッドにもぐりこんで。

アタシ、このまま、ずっとまみちゃん家の子供でいたい。
静かに眠れるのって、こんなにも幸せなことだったんだ。


――ゴス。


体に、かすかな揺れを感じて、アタシは目を覚ました。
隣では、まみちゃんがすうすう寝息をたてて寝てる。

――ドスッ。

やっぱり、気のせいなんかじゃない。
何か、音がする。
アタシは、ベッドから出て、音のする一階に降りてみた。
そうっと、足音を忍ばせて。

「ったく……!」

キッチンに近付いた時、イライラした声が聞こえた。
パパとママがケンカを始める時みたいな雰囲気の、声。
ほんの少し開いていたキッチンのドアから、中を覗きこんだアタシは、息をするのも忘れて、ただ、細く見える光景をじっと見つめた。

まみちゃんのママは、こっちに背中を向けたまま、ガスガスと包丁を何かに突き刺していた。
何度も、何度も、何度も。
時々、チィ、って、かすかに鳴き声が聞こえた。

「一体何考えてンのよ、まみったら……! いきなり他人の家の子供連れてきて……! だいたい、あの家何なのよ、こっちだって泊めたくて泊めてやるわけじゃないのに、泥棒みたいな言い草して……そっちの教育が悪いから、子供が逃げようとしてんじゃない……ッ! クソババアッ……!」

ゴトン。
いきなり近いところで音がしたと思ったら、アタシはいつの間にかドアにすがりついていて……その重みで、ドアが大きく開いた。

包丁を握り締めた、まみちゃんのママが、ゆっくりとこっちを向いた。
授業参観で見た、あのキレイで優しそうな顔に、あちこち赤い色の液体がついていた。

「ゆうちゃん……?」

そうっと、優しい声で……優しすぎる声で、まみちゃんのママがアタシを呼んだ。
――逃げなきゃ!
そう思ってるのに、体は全然動かなかった。
寒くて寒くてたまらない時みたいに、ブルブル震えが止まらなかった。

「見たのね? 今、私がしていたこと、あなた、見たのね……?」

ゆっくりと近寄ってきたまみちゃんのママが、手を伸ばしてくる。
いつか見たサスペンスドラマみたいに、首を締められるんだ。
そう思ってぎゅっと力を入れていると、その手はアタシの肩をそっと掴んだ。

「ねえ、見たの……? 見たんでしょう……?」

血走った目が、アタシを見つめていた。
まるで、心の中まで見ようとしているみたいに。

「は……はい……っ……」

やっと、蚊の鳴くような声で答えると、まみちゃんのママは悲しそうに眉根を寄せた。

「ねえ、まみには言わないでくれる……?」

アタシは、もう怖くて怖くてたまらなくて、無我夢中で頷いた。
まみちゃんのママは、アタシが頷くと、安心したように笑った。

「良い子ね……」

そう言うと、ぽんぽん、とアタシの頭を軽くなでた。
じわ……っ、と涙が出てきた。
怖かったからじゃない。
嬉しかったのだ、妙な話だけど。
アタシは、パパやママに頭をなでてもらった記憶が、ほとんどなかった。
頭をなでてもらう感触が、こんなに心地よくてあたたかいものだなんて、忘れていた。
そう意識すると、ますます自分が惨めに思えて、涙が頬を伝った。

「ちゃんとお約束、守ってね……?」

アタシは、また、コクッ、と頷いた。

「そうだわ。良い子のゆうちゃんに、プレゼントをしてあげる……」

ゆうらり、とまみちゃんのママは立ち上がると、そのまま外へと出ていった。
アタシは、何をどうしたらいいのかもわからないまま、結局まみちゃんのところへ戻って、ベッドの空いたスペースに潜りこんで目を閉じた。


「ゆうちゃん、ゆうちゃん」


ゆさゆさ、と体を揺すられた。
目を開けると、まみちゃんがアタシを覗きこんでいた。

「おはよ。そろそろ起きた方が良いって、ママが言ってるよ」

眠い目をこすりながら、まみちゃんの後ろにくっついてリビングにいくと、

「おはよう、よく眠れた?」

テーブルにお料理を並べていたまみちゃんのママが、アタシを見て微笑んだ。

アタシは、そのキレイな微笑みを見て、確信した。
きっと、昨日のことは夢だったんだ。

アタシは、まみちゃんの隣のイスに座って、トーストにマーガリンを塗りたくった。

「ママがね、後でお家まで送ってってあげるって。わたしも一緒に行くね」
「うん。あのね……また、まみちゃんの家に来てもいい?」
「いいよ。ね、ママ?」
「えぇ、いつでもいらっしゃい」

まみちゃんのママは、アタシの頭をポンポンと軽くなでた。


『ニュースをお伝えします。今朝未明、住宅地で夫婦が就寝中、何者かに刃物で滅多刺しにされて殺害されるという事件がありました。悲鳴に気付いた近所の住人が警察に通報したとのことです。目撃情報はなく、犯人は逃走中です。警察では現在、情報提供を呼びかけています。また、この家の小学3年生の長女の行方がわからなくなっており――』

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