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<<   作成日時 : 2006/11/23 14:56   >>

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私は、年上の彼と同居中だ。
彼は会社で働くサラリーマンで、そのマンションに私が転がり込む感じで同居してる。
言っとくけど、タダで同居させてもらってるわけじゃない。
ちゃーんと炊事洗濯にお掃除、家事をこなしてる。
ゴミ出しは朝起きるのが大変だから、お願いしちゃってるけどね。

「ただいま」
「あっ、おかえりー」

帰ってきた彼を、まず玄関までお迎えに行って。

「今日ね、新メニューに挑戦してみたの。テレビでやってたやつなんだけど、ちょっと自信アリよ」
「ホント? 嬉しいなぁ……あっ、そうだ、これ、おみやげ」
「え、なぁに?」
「プリン。コンビニに寄ったら、君が好きだって言ってたやつの新作が出てたから」
「わ、ありがと〜! さっそく冷やしておこうっと」
「夜に食べたら太るよ」
「うっ……い、いいのっ、プリンの一つぐらいじゃ太らないもんっ」

彼のカバンを持ってあげて、ダイニングに行くかたわら、そんなことをちょっと話して。

「どう? おいしい?」
「うん、おいしい。テレビで見ただけの料理なのに、よくここまで作れるなあ」
「えへへ。おいしそうだったから急いでメモ取ったんだよぉ。また今度作ったげるね」
「明日は別なのがいいけどね」
「やだ〜、そんな続けてなんて作らないわよぉ」

彼と二人で夕食を囲みながら、またお話して。

「お待たせ、お風呂空いたよ〜」
「あ、また一人で入ったんだ。たまには一緒に入ろうよ」
「やだ、えっちぃ!」

そんな感じの毎日。
でも私は、満足してる。

その後彼は、テレビじゃなくてパソコンに向かう。
彼の趣味は、お話を書くことなのだ。
サラリーマンをやりながら、空いた時間でお話を書いては、HPに載せてる。
彼がパソコンをやってる間、私は片付けをして、テレビをぼんやり見てる。

「ちょっと来て」

不意に、彼が呼んだ。

「なぁに?」

パソコンに近付くと、彼はディスプレイを指差した。

「今書いたもの、ちょっと読んでみて。感想教えて欲しいんだ」
「うん、いいよ」

私は彼の座っていた椅子に腰掛けると、ディスプレイの文字列を追った。

人気のない夜道で、可愛い生き物に出会った。
 捨てられたのか、それとも逃げ出したのかはわからないけど、悲しくてすさんだ目をした生き物だった。
 あまりに哀れっぽいので、僕は生き物を連れて帰ろうと思った。
 だけど、生き物には僕が怖い物に見えるらしくて、近寄ると悲鳴を上げて逃げ出してしまった。
 道の先が袋小路になっていたので、追いつくのは簡単だったけど。
 生き物は壁にへばりつくようにして、僕を睨み続けていた。

 「大丈夫。怖くないよ。おいで、幸せにしてあげるから」

 そう言って手を出すと、生き物は僕を思いきり引っかいた。
 悲しかった。
 僕は結局、無理矢理捕まえて連れ帰った。
 暴れて抵抗するので、僕の腕はすっかり生傷だらけになってしまった。
 マンションの部屋に着いてから離してあげたら、部屋の隅っこに陣取ったまま、動こうとしなかった。
 きっと、慣れない環境に戸惑って緊張しているんだ。
 食べ物と水を置いてから眠った。
 朝起きると、それらはきれいになくなっていた。
 
 それから数日経った。
 マンションに帰った時、生き物が開いたドアから体をねじ込んで、外へと脱走してしまった。
 慌てて追いかけて、どうにか道路に出る前に捕まえた。
 僕は生き物を抱きしめて、そっと諭した。

 「外には怖いものがいっぱいいるんだよ。道路に出たら車に轢かれて死んでしまうよ。家から出ちゃいけないよ」

 初めはおとなしくしてくれなかったけど、何度も優しく諭しているうちに、理解してくれたのか、おとなしくなった。
 連れて帰ろうとした時、隣の部屋の人が窓から顔を出していた。

 「一体どうしたんですか?」

 どうやら、僕がドタバタと足音を立てて追い掛けたので、何かあったのかと思ったらしい。

 「なんでもありません」

 心配をかけたくなくて、そう言うと、隣部屋の人は納得したように顔を引っ込めた。

 また数日経った。
 今ではもう、生き物は僕にすっかりなついてくれている。
 自分からそばに来てくれるようになったし、夜は一緒に眠ってくれる。
 最近、プリンだと具合が悪くても喜んで食べるっていうこともわかった。
 夜中にふと目を覚まして、隣で眠ってるのを見ると、心が凄く和らぐ。
 いたずら心をおこしてくすぐってみたりすると、むずかって寝返りをうつ。
 本当に、可愛い

  

「どう?」
ディスプレイから顔を上げると、さぐるように彼が私を見ていた。
「良いと思うよ。動物を拾ってきて飼い始めた時の感じが出てると思う。何かペット飼ってたの?」
「ううん、飼ったことないよ。両親が動物の毛が駄目なもんだから、飼いたくても飼えなくて」
「ええっ、それなのにこれだけ書けたの? 凄い!」
「ありがとう。じゃあ自信持って、これHPに載せようかな」

椅子を交代して、テレビの前に腰を降ろしかけて、私はふと思った。

「あ、そうだ。プリン食べよ」

この時間じゃ太っちゃうけど、明日いっぱい体を動かせばいいんだから。
プリンを取りに行って戻ると、彼はまだキーボードを叩いていた。

「あれ? 更新しないの?」
「え? もう少し書き足しておこうと思ってさ」

しばらくカタカタとキーボードを叩いていた彼は、ふとトイレに行った。
うーん、書き足した分も見てみたい。
私は、ディスプレイをもう一度覗いた。

今日は、パソコンの前に座らせてみた。
 ちょこんと座ってディスプレイをじっと見る横顔が、抱きしめたくなるほど愛しい。
 でたらめにキーボードをいじくったりして、大変な事態を招かないか心配したけど、杞憂に終わった。
 最初から最後まで、おとなしくしていた。
 賢くておとなしくて可愛い生き物がいるんだから、もう僕は犬にも猫にも興味が向かないと思う。
 ずっと、ずっと一緒にいようね。
 僕の可愛い

 

「あ、ちょっと、駄目だって。まだ途中なんだから」

トイレから帰ってきた彼が、私をそっとディスプレイから遠ざけた。

「え〜、だって読みたかったんだもん」

と言いつつ、彼が弱いことを知ってる必殺の上目使いで見つめてやると、

「まったく、しょうがないんだから……でもまだ駄目。途中だから駄目」

ちっ、今日は通じなかったか。

「うー、意地悪っ」
「できあがったらちゃんと読ませてあげるから。だからもうちょっと待ってて」
「じゃあ明日もプリン買って」
「はいはい。ホントに好きだね、プリン」
「私、プリンさえあれば生きていけるもん」


……そういえば、私はいつ、どうして彼と同居することになったのだろう。
どんなに考えても、思い出せなかった。


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