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<<   作成日時 : 2006/11/12 16:40   >>

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「坂野さん」

放課後の廊下。
いつものように部活に行こうとして、私は後ろから声をかけられた。
振り向くと、なんとなく見覚えのある気弱そうな男子生徒がいた。
えーと……確か……ああ、そうだ、私と同じ図書委員の人だ。
同じクラスの……名前は……えぇと……。

「澤本くん……だっけ?」

ぼんやり覚えていた名前を出してみると、彼は「うん」と頷いた。

「えっと……何?」
「あ、その、三木屋さんと仲いいよね?」
「うん」

……まただ。
返事しながら、私は思った。

私には、三木屋ユキっていう幼なじみの女の子がいる。
これが、女の私から見てもかわいい女の子なのだ。
身長はちょっと小さめだけど、目は大きくてぱっちりしてるし、まつ毛なんかはすごく長いし、色白で華奢で人形みたい。
だからって性格が悪いわけじゃない。
気さくで、ホントにいい子なのだ。
……ま、当然、男の子の間では人気がある。
小学校の時から、事あるごとにラブレターをもらったり告白されてたりしてた。

ただ、ちょっとヤだなって思うことがある。

ユキに告白する前に、男の子が必ず私のところに来ることだ。
ようするに、私にユキとの橋渡しをして欲しいのだ。
小学校の低学年のあたりまでは、自分に人気があるような錯覚をしていたけど、さすがに高学年ぐらいになると悟った。
目の前の男の子は、私と仲良くなりたいんじゃなくて、ユキのことをいろいろ聞きたくて私に近寄ってきてるだけなんだ、と。
実際、いざ告白の段階になると、ことごとく男の子は私から離れてった。

「それで? 何か頼みごとでもあるの?」

今となっては諦めがついたというか吹っ切れた私は、笑ってそう言えるようになったんだけど、ね。

「あ、あの……これ、三木屋さんに渡してもらえる?」

あのねぇ……。
おずおずと差し出された封筒を、思わずジト目で見ちゃう。
まさかコレ、ユキ宛てのラブレター?
まったく、自分で渡しなさいっての。
そうじゃなきゃ、意味ないんだからね。

「いいけど……でも、こういうのって、自分で渡さな……」

そう言いかけた時には、澤本くんは真っ赤な顔のまま廊下の向こうに駆けて行くところだった。
はーあ……別に、渡しておいてもいいけど。
うまく行かなかったからって、私を恨んだりしないでね。

私は、ユキを探しに行った。



 * * * * * * * * * * * * * * * * * *  
 


手紙をもらった。

熱に浮かされたように、ひたすら思いを打ち明ける内容の文章と、明日の放課後、裏庭で待っていて欲しいっていう伝言の書かれた手紙。
どんなに鈍い人でも、ラブレターだとはっきりわかるような手紙だった。
でも、その手紙は、直接渡されたものでも、下駄箱や机の中に入れられていたものでもない。
幼なじみの女の子から、「これ、澤本くんから」って渡されたものだった。

わたしは知ってる。

小学校の時から、その子のところには、たくさん男の子が集まっていたけど……それは、わたしに橋渡しをして欲しい男の子なんだと。
それを遠くで見ていて、わたしはいつも、心底寒気がした。

――だって、わたしには、もうずっとずっと前から、心に決めた人がいたんだから。


「来てくれたんだ」

手紙の伝言どおり、放課後、教室に行くと、澤本くんが待っていた。
わたしを見ると、気弱そうな顔に笑顔を浮かべる。
沈黙。
部活中の運動部の掛け声が聞こえる。

「あの……三木屋さん、僕……」

耳を塞ぎたかった。
聞きたくなんかない。
好きでも何でもない人からの告白なんて、聞きたくない。

「僕、入学式で見かけてから、ずっと……ずっと、好きだったんだ。あの、僕のこと、嫌いじゃなかったら……」

「ごめんなさい。わたし、好きな人がいるの」

わたしは、はっきりした声で、そう言った。
澤本くんは、驚いたような顔でわたしを見ていた。
きっと、自分に都合のいい結果だけ期待してたんだ。

今までに、何度も見てきた表情。


「小さい時から、ずっと好きな人なの……その人のことしか、わたし、考えられない。だから……ごめんなさい」

わたしは、返事も聞かずにそこから立ち去った。
ひどいことをしてるって、自分でも思う。
だけど……わたし、好きでも何でもない人にまで優しくなんかできない。

……無性に、あの人に会いたくてたまらなくなった。



 * * * * * * * * * * * * * * * * * *



私は、人のいない教室で、ぼーっとしていた。
ユキを待ってるのだ。
あの手紙に、今日の放課後、裏庭まで来て欲しいって書いてあったと、ユキが教えてくれた。
……それ、間違いなく、告白するってことだよねぇ。

自販機で買ったコーヒーのパックに、ストローを刺す。
ホントは、帰りたいとこだけど、ユキに「お願い、待ってて」って頼まれちゃあ、待ってるしかないわよね。
澤本くんとユキかぁ。
悪いけど……あんまりお似合いって感じはしない。
ユキはちょっと子供っぽいから、年上の人の方がいいんじゃないだろうか。
告白されてどうするかは、ユキの自由だけどさ。

そういうことを考えつつ、暇を潰していると、

「しおりん!」

元気な声。
同時にひっついてくる温もり。
ユキだ。

「しおりん、待っててくれたんだ」
「まあね。でも待ちくたびれたよ〜」

私は、わざとらしくのびをする。

「あのね……」

突然、ユキは真面目な顔になった。

「澤本くんに“好き”って言われたの」
「へぇ……」

ま、なんとなく察しはついてたけどね。

「それで? ゆっきー、どうしたの? 付き合うの?」

ユキは、とんでもない! って顔をすると、ふるふるっ、と首を横に振った。
あらら。澤本くん失恋したよ。

「付き合わないよ、断った」
「人づてで手紙渡す奴じゃあね、断ってもしょうがないわよ」

やっぱり、直接手紙を渡してこない相手なんかとは付き合えたもんじゃないわよね。

「うん……悪いけど、澤本くんのこと、好きでも何でもないし……それに、他に好きな人、いるんだもん」

胸の前で指を合わせて、ユキはもじもじしていた。
ユキは、小学校の時からとある人に片思いをしているらしい。
と、言うのも、その時からずーっと、『好きな人がいるから』って告白を断っているからだ。

ウソじゃないみたい。

ただ、幼なじみの私にすら、その相手を教えてくれない。
ユキみたいな子ですらなかなか告白できないほどの相手なんだろうか。
一体どんな美男子なんだろうか、見てみたい。

「あのさ、早いトコ、その『好きな人』に告白しちゃいなよ。他の男の子がかわいそうだよ?」
「だけどー……」
「何よ、自信ないの?」
「う……うん」
「だぁいじょうぶよ、ゆっきー、私から見てもカワイイし」
「でも……」
「何うじうじしてんのよ。大丈夫、保証してあげる」

私は、ストローでパックの中身を吸いこむ。
うすくて、あまったるい味が、口に広がった。



 * * * * * * * * * * * * * * * * * *



わたしは、その人の行動をぼんやりと見つめていた。
こうして、そばにいて、取り止めのない話をしながら、その姿を見つめていられれば……このまま時間が止まってもいい。

小さい時から、わたしはその人のことが好きだった。
ちょっとぼんやりしてる時の姿を、わたしはかわいいと思ってる。
だけど、それを言うとふくれっ面をされちゃうから、黙ってる。
かわいい、かわいい、かわいい人。
ギュッて抱きしめたくなる。

言いたかった。
好き、って伝えたかった。
でも……できない。
言えば、きっと困らせるから。
もう二度と、そばにいられなくなるから。
……そんなの、耐えられない。

だったら、わたしはこの気持ちをずっと隠したまま、誰よりも近い場所にいたい。
そうすれば、わたしは「誰よりも一番近くにいる女の子」でいられる。
本当は、今よりももっと前に進みたい。
わたしの気持ちを知って欲しい。
そして……できることなら、拒絶しないで欲しい。

……澤本くんとわたしは、同じだ。
だって、わたしも、同じことを考えてるから。
自分が都合のいいことを、好きな人に期待してる。


――胃のあたりをさすりながら、しおりがコーヒーのパックを置いた。

「どうしたの?」

わたしが首を傾げると、しおりは苦笑いしていた。

「なんか、ちょっと飲みきれそうにない……」
「じゃ、じゃあ、それ、ちょうだい」
「えー? いいの? 飲みかけだよ?」
「いいのっ」
「……じゃ、あげる」

わたしは、ストローをそっとくわえた。
安っぽいコーヒーの味。
何となく、今はほろ苦い。


ねえ、勘違いでもいいから、一瞬でも思ったこと、ないの?
私が、あなたに片思いしてるかもしれないって。
長年言い続けてきた『好きな人』の正体が、もしかしたらあなたのことかもしれない、って。
1度でも、冗談でも、考えたこと、ないの?
あなたの進路を聞いた途端、わたしがあなたと同じ進路を選んだこと、変だと思わなかったの?


ねえ――

「しおりん」

こらえきれなくて、わたしは『好きな人』の名前を呼んだ。

「何?」

その人は、相変わらず何も気付いてない顔で、わたしを見た。

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