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zoom RSS カッコ悪い男

<<   作成日時 : 2006/11/05 11:35   >>

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ある日の放課後、下級生の女子に告白された。

「先輩、好きです。付き合ってください」

まあ、その時付き合ってるヤツも、好きなヤツもいなかったし、なんとなく感じの良い子だったんで、俺はOKした。


……で、付き合い始めてから二ヶ月。
俺は、ちょっとした悩みを抱えていた。

彼女がひどい猫かぶりで、実はひどい性格ブスだった、っていうわけじゃない。
二ヶ月経った今も、大人しくて優しい、カワイイ子だ。
時々弁当を作ってくれたりするし……って言うと、ノロケになっちまうが。

とにかく、俺の悩みはそこじゃない。

その……俺は当然だが、男だ。
彼女は後輩なんだから、年下の女だ。やっぱ当たり前だが。

そこで、だ。
男としては、年下の女にリードされるわけにはいかんだろう。
そんなのカッコ悪すぎる。
やはり、年上の男がリードするのが普通だろう。
……などと思う俺は、古いタイプだろうか。
でも、とにかく、年下の女にリードされるのは、イヤなのだ。
なんというか、プライドが許さん、というほどでもないが。

だけど、それを口に出したら、俺はきっと笑い者だ。
偉そうに言う割に、実は……まだ、手を、つないですらいないのだ。

年下の女にリードされるのなんかゴメンだ。
そう考えるのなら、俺から手を差し出すのがスジってもんだろう。
そう思ってはいるのだ。やろうと思ってはいるのだ。
しかし、いざやろうとすると、どうしても照れくささが先に出てきてしまう。
それで、結局差し出そうとした手をポケットに突っ込んでしまうのだ。

このままじゃイカン。
彼女に、「先輩って、付き合ってから二ヶ月も経つのに、手をつないでくれないの」なんて言われていたらと思うと正直情けない。


「先輩、今日ね、居眠りしてた子がいきなり指名されて、寝ぼけてナオコ先生のこと『お母さん』って呼んじゃって――」
「マジかよ、おい」
「それでね、先生怒って『私はあなたのお母さんじゃありませんッ』ってお説教始めちゃったの」
「ナオコ先生、時々虫の居所すんげぇ悪いからなー……」

いつもの帰り道。
他愛ない会話をしながら、まだ手をつないでいないことが俺の頭をぐるぐる回る。

ちら、と彼女に目をやって、俺はふと気が付いた。
肩にかけているショルダーバッグを、彼女は会話中、何度もかけ直している。
……重いんだろうか。
それで、ストラップが肩に食い込んで痛いんだろうか。

「……ほれ」

俺は、左手を出した。
持ってやろうと思ったのだ。
やっぱり、それぐらいのことはしてやらないと。
というか、気になって気になってしょうがない。
彼女は、きょとんとした顔をした。
その顔がなんとなく無防備で、ドキッとした。

「な、なんだよ?」
「い、いいのかな、って思って……」

妙にドギマギした顔で、彼女は俺を見る。

「遠慮すんなよ」

――と言った俺は、目を丸くした。
差し出した右手に、彼女が乗せたのは、ショルダーバッグのストラップではなく――彼女の左手、だった。
こ、これはもしや、いや、もしかしなくても、手をつないでいるという状態ではっ!
俺は、石像のように固まった。

妙に顔が熱い。
たかが手をつないだだけで、何で俺はこんなんなっちまうんだろう。

で、でも。
初めて触れたその手は、見た目よりも小さくて肌がスベスベしてて触り心地が良くて、いつまでも触っていたい――あわわわ俺は何考えてんだそんなスケベオヤジみたいなことをっ!

「あ、あのな」
「――先輩、やっと、手、つないでくれた」

頬を赤らめた彼女が、ぽつん、と呟いた言葉に、俺は『荷物を持ってやろうと思ったんだよ』と言うのをやめた。

「いつまで経っても、手をつないでくれないから……先輩、私の告白イヤだったのかなって、ホントは私のこと好きじゃないのかなって、そう思って……」

言いながら、彼女の目にみるみる涙があふれてくる。

「な、泣くほどのことじゃねえだろ」

つい、俺は素直になれなくてぶっきらぼうにそんなことを言ってしまう。
俺って、ガキなんだな。
涙をぬぐってやるとか、そんな思考にはとうてい及ばない。

「だって……だって……っ」

……不安、だったのかな。
俺が、いつまで経っても彼氏らしいことをしてやらないから。
手をつなぐぐらい、別にうだうだ考えるまでもなく、してりゃ良かった。
曲がりなりにも『恋人』を不安がらせるなんざ、こっちの方がよっぽど男としてカッコ悪い。

俺は、黙って彼女の頬に手を伸ばし、できる限りそっと親指で涙を拭った。
たぶん、今の俺の顔は、物凄く緊張して強張っている。
鏡でなんか見たくない表情のはずだ。

「に、荷物っ」

俺の口から、上ずって震える声が出た。

「え?」
「よこせ、ほれ」

空いている左手を差し出す。

「え、でも……」
「いいからっ、持ってやるって」

俺は返事も聞かないでショルダーバッグを降ろすと、強引にストラップを自分の肩にかけた。
……結構、重い。

「先輩、いいよ。重いでしょ……?」
「お、俺がそうしたいんだから、そうさせろ」

緊張しまくってるうえに真っ赤な顔だ。後ろを振り向くなんてできない。
俺は、そのまま振り返らず、彼女の手を引くとずんずん歩き出した。
ああ……なんでもうちょっと気の利いたこと言えねえんだろ、俺。
今のじゃ、『強引な俺様野郎』だなんて誤解されかねない……。
歩きながら、俺が自己嫌悪に陥ってると、

「……先輩」

彼女が、ちょっと歩く速度を速めて、寄ってきた。

「先輩、優しい」

媚びも何も無い、ホントに素直に嬉しそうな顔。
俺は、それ以上直視できなくて、慌てて前を向いた。

認めよう。
俺は年上年上って言いながら、結局ガキだ。
自分の感情すら、素直に出せない。
彼女の方が、俺よりも大人だ。

……あー、カッコ悪りぃ。

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