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<<   作成日時 : 2006/09/10 14:39   >>

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両親が、二十回目の結婚記念日を祝して一泊二日の温泉旅行に出かけた。
なので、今日、家にいるのは、私と妹のミホだけだった。
好きな時間まで遊んで、ご飯は適当にどっか行って食べよう……と思ったんだけど、「カレーの材料は買ってあるから、作って食べてね」というお母さんの言葉で、私が夕飯を作ることになってしまった。
あまり気乗りしなかったんだけど、仕方ない。
ミホは家事全般が本っ当に駄目で、手伝わせることすら危険なのだ。
私、ミホの失敗を目の当たりにするまで、家事にも才能とか向き不向きがあるなんて思わなかった。

カレーは、一時間もすると出来あがった。
ご飯もちょど炊けたし、時間もちょうどいいし、ミホを呼びに行こう。

「ミホ〜、ご飯できたよ〜」

コンコン、とドアをノックするけど、返事がない。

「ミ〜ホ〜!」

さっきよりも声を大きくしてみたけど、やっぱり返事がない。
私は、部屋に入ることにした。

「ミホ、ご飯いらないのっ?」

ドアを開けてみてすぐに、何を言っても無駄だったとわかった。
ミホは、ベッドの上にうつぶせに寝転がって雑誌を読みながら、ヘッドホンをして音楽を聴いていた。

「もうっ、ご飯だよ!」
「わあ!」

ヘッドホンを引っ張ってやると、ミホは間抜けな声をあげた。

「何すんのよ、お姉ちゃん!」
「何すんのよじゃないわよ、ご飯だって言ってるでしょ」
「あ、ごっめーん。で、今日のご飯、なぁに?」
「カレー」
「ふーん。カレーって簡単だよね」

むむっ。
ベッドから身を起こしたミホが気楽なことを言う。

「作れない人が文句言わないのっ」
「文句じゃないよ〜、感想だよ〜」

と、そこで私は足元に落ちてるCDケースに気付いた。
踏んじゃったら大変だと思って拾い上げると、なんだかちょっと変なことに気付いた。
普通なら歌ってる人の写真をジャケットに使ってるはずなのに、それがない。
ジャケットは黄緑色一色で、真ん中に人形がちょこんと座ったイラストが描いてあって、その上に、『気分転換〜心がスッキリしないあなたへ〜』っていう文字がある。

「……何これ」

私は、思わず呟いた。

「あ、知らない? これね、聴いてると気分がすっきりするCDだって。サブリミナルメッセージだっけ? それを使ってるらしいよ」
「えぇ? それって、あれでしょ? 人を操ったりするやつでしょ? 危なくないの?」

詳しくは知らないけど、たぶんそんな効果があったと思う。

「大丈夫なんじゃない? お店で売ってるくらいだもん」
「ところで、これ、効くの?」
「……あんまし……」

駄目じゃん。
ケースをテーブルの上に置くと、もう一枚あるのに気付いた。
こっちは、黒一色の中に赤い字で『覚醒〜心の奥底に眠る本当のあなたを呼び覚ます!〜』っていう文字。
さっきのといい、これといい……。

「ねえ、何か悩んでるの?」
「違う違うっ、お店で見かけて、面白そうだから買ってみただけ!」

ミホは、ぶんぶんと顔を左右に振って、私の疑惑を否定した。

「そうだ、お姉ちゃんも聴いてみなよ。ほら、こっちの覚醒の方なんかどう? あたし、まだこれ聴いてないんだ」
「ちょっと、それ実験台って言わない?」
「まあまあ、いいからいいから」

私は、言われるがまま、ヘッドホンをつけた。
ミホがCDを入れ、再生ボタンを押すと、頭の中にギャンギャンギャンギャン金属音みたいな音が響きまくった。
目を閉じて、覚醒とやらを待ってみるけど……ちーっとも何も感じない。
相変わらずやかましいだけだ。

「……何も起きないわよ?」
「うーん。やっぱりインチキなのかなぁ。あーあ、つまんないの」
「だいたい、こんなもので人を操ったりできるはずないよ」

ヘッドホンを外し、私は笑った。


その夜、私は寝つけなくて困っていた。
気温は高くないはずなのに、なんだか体が熱くて汗がダラダラ出てくるのだ。
何度も何度も寝返りを打ち、ついに耐えられなくなった私は起きあがった。
濡れたパジャマが素肌に貼りついて気持ち悪いので、シャワーを浴びることにした。

シャワーを浴び終えると、寝巻きがわりにキャミソールのワンピースを身につけた。
素肌の面積が広くなったおかげで、パジャマの時より涼しい。
髪を乾かしながら、ふと、鏡を見ると、なんだかちょっと自分が大人っぽく見えた。

喉が乾いたなぁ、と思ったのはキッチンの前を通りがかった時だった。
冷蔵庫を開けて、さて何を飲もうか……と考えていると、

「あれ、お姉ちゃん」
ミホがキッチンに入ってきた。

「まだ寝てなかったの?」
「ううん、寝てたんだけどさ、なんか夜更かししても誰も文句言わないのに、寝てるの勿体無いじゃん。せっかくだから深夜番組見ようかなって……お姉ちゃんは?」
「なんだか寝苦しくって。汗もダラダラだし。シャワー浴びたついでに、喉がかわいたから何か飲もうかなって思ってたところ」
「あっ、じゃあ私も飲む。これにしよ。カロリーないし」

ミホが取り出したペットボトルの中身は、微発泡水とかいうやつで、ようするに全然甘くないサイダーみたいなものだ。
カロリーがないのは嬉しいので、私もそれにした。
ソファーに座ってちびちび飲みつつ、ミホが見始めた深夜番組を一緒に見ることにした。
最近デビューしたばっかりのアイドルとか、聞いた事ない名前のお笑い芸人とかが出てるやつだった。

「お姉ちゃん、なんか浮かない顔してるね。具合悪いの?」

不意に、ミホが私の顔を見た。

「う……ん」

私は、喉のあたりを押さえながらあいまいに返事をした。
水分を摂ったはずなのに、喉の乾きがいっこうに収まらないのだ。
なんだか、物足りない。
もっと……もっと、違うものがいい。
でもそれは、なんだろう?
私は、テレビ画面から視線を移して、ミホをぼんやりと見つめた。
肩まで伸びた髪の隙間から、うなじがちらちら見えている。
白くて、細くて、滑らかな肌……。

――私は、あのギャンギャンギャンギャンうるさい金属音みたいな旋律を聴いた気がした。

「お姉ちゃん、何すんのよ! 寝ぼけてんのっ!?」

衝動的に、私はミホの体に馬乗りになった。
落ちたペットボトルから、中身がドボドボこぼれてる。
私は、かまわずミホを押さえつけて、そのうなじに八重歯を突き立てた。
私の八重歯、こんなに長かったかな。鋭かったかな。
ちらっと、頭の片隅で思った。

「きゃあああああああっっっ!!」

全身を使って、ミホが悲鳴を引き絞る。

口の中に溢れてきた生暖かいものを、こくりと飲み下した瞬間、私は悟った。
ああ、私が求めていたのはこれだ。
強烈だった喉の渇きが、みるみるうちに癒されていく。
ミホは暴れた。
悲鳴を上げて、体を揺さぶり、手足をめちゃくちゃに振った。
それも、だんだん、弱々しい動きに変わっていった。
ひとしきり、満足するまで吸い尽くすと、私はミホのうなじから口を離した。
唇の端についた血を、ぺろりと舌先で舐めとる。

「ミホ……?」

ミホはもう、意識がないらしく、ぐったりとしていた。
時折、かくっ、かくっ、と何かを言いたそうに口元が震えていたけど、じきにそれも収まった。

――やっぱり、乙女の生き血が一番おいしい――

私は、いつの間にか、満足そうに笑っている自分に気がついた。

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